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第14話 勇者伝説
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「よいよい、面を上げよ」
王様の許しが出て、アメリたちは一斉に体を起こした。
一段高い玉座にはふくよかな王様と表情の薄い王妃様が座っている。
謁見の広間にはほかにも大臣たちが見物していて、全員が全員アメリに注目していた。
「ふむ、そなたが聖剣の乙女か。名はなんと言う?」
「あ、アメリでございます」
普通なら一生お目にかかれない高貴なお方だ。
ロランとともに最前列に立たされて、アメリのふるえ声が上ずった。
「して、アメリ。そなたはなぜ勇者のマントを羽織っておるのだ?」
「そ、それは……」
「防寒対策です」
かぶせ気味にロランがきっぱりと言い切った。
「防寒? しかし余はまったく寒くはないが」
「それはあなたの体型のせいですわ」
無表情で王妃様が突っ込んだ。
この広間で王様だけが玉のような汗をかいている。自分でもぽっちゃりの自覚があるのか、王様は無言で額の汗をハンカチで拭い取った。
「防寒か。あい分かった」
気を取り直したように王様は頷いた。
マント着用を許してもらえて、アメリはほっと息をつく。
「しかし余は聖剣の乙女の伝統衣装を見るのを楽しみにしていたのだ。ちょこっとだけでいい。そのマントを外してみてくれまいか」
アメリの気のせいだろうか。
王様の髭の生えた鼻の下がなんとなくだらしなく伸びきっている。
「あなた。あの衣装は先代の聖剣の乙女のときに何度もご覧になったでしょう?」
「いや、先代はもういい歳で、見てもあまり楽しくなかったと言うか……」
王妃様に睨まれて、王様は一瞬もごもごとなった。
「いや、大臣の中には初めての者もいるだろう。今日はようやく見つかった聖剣の乙女の披露目だ。ここはやはり伝統衣装を見ないことには収まらん」
なおも食い下がる王様に、大臣たちも賛成とばかりにうんうん頷いている。
「あなた。いいから本音をおっしゃって」
「せっかくぴちぴちの若い娘がぴちぴちに着こなしておるのだ。これを見ない手はないというか……」
「もう結構です」
ぴしゃりと遮ると、王妃様は表情なくアメリを見やった。
「わたくしが許します。聖剣の乙女、今後謁見時は勇者のマントを必ず着用するように」
「は、はい、必ずっ」
そんな……と悲しそうな王様を無視して、アメリは前のめりに頷き返した。
「もうよい。次はさっさと勇者の聖剣を見せてもらおうか」
王様の投げやりな言葉に、そんなと今度はアメリが呟いた。
聖剣はアメリの体の中にある。それを取り出すにはロランとキスの儀式が必要だ。
そんな恥ずかしいことをここでやれと言うのだろうか。すがる思いで、アメリはロランの横顔を見上げた。
「よもやできぬとは申すまいな? 勇者ロランよ」
「すぐにお見せいたします」
「勇者……!」
思わず非難の声を上げる。
対照的に、何とも思ってないと言う顔でロランはアメリに向き直った。
「聖剣乙女、手を」
「でもこんな大勢の前でだなんて……」
「君が本物の聖剣の乙女であることを証明するために必要なんだ。聖剣を見せられないとなると、偽物だと疑われることになるぞ」
これまで虚偽申告ばかりだった乙女探しだ。
アメリが今日ここに呼ばれた理由も、今度こそ正真正銘聖剣の乙女であると王様認めてもらうためだった。
「手を」
もう一度促され、仕方なくアメリは覚悟を決めた。
掌を上に向け、掲げるようにロランに差し出した。その上にロランも大きな手を重ねてくる。
手を取り合った状態で、アメリはぎゅっとまぶたを閉じた。
これは儀式だ。恋人同士の口づけなんかじゃない。
心の中でアメリは自分に言い聞かせた。
ロランの熱が近づいてくる。
息を止め、アメリはその瞬間をじっと待った。
戦闘時よりもずっとやさしく、やわらかい唇が押し付けられる。
と同時に、アメリの手の内に灼熱の光が膨れ上がった。
「んんっ」
生じた痛みと熱に、声を出さないようアメリは懸命に耐えた。
普段なら我慢などしないところだが、さすがに王様の前で絶叫するわけにもいかないだろう。
広間にどよめきが上がる中、現れた聖剣の柄にロランが手を掛けた。それからゆっくりと引き抜いていく。
まるで見せつけるかのようだった。
一気に抜き去ればいいものを、聖剣は光が溢れ出るアメリの手の上から、もどかしいほど時間をかけて姿を現した。
「おお、これぞ正に勇者の剣!」
歓声が上がる中、ロランが聖剣を掲げ持つ。
緊張が解けたアメリは、その横で立っているのが精一杯だった。
「勇者ロランよ。聖剣を手に入れたそなたは、これでようやく一人前と認められた。初代勇者の再来と言われるそなただ。必ずや魔王を討ち取ってくれるであろう」
「はい、お任せを」
ロランの返事に王様は満足げに頷いた。
次いで宝石のついた王杖で、奥にあった大きな二枚扉を指し示す。
「あの凱旋の扉を開き、そなたらが帰還する日を楽しみにしておるぞ」
凱旋の扉は、勝利を収めた初代勇者がくぐったとされる伝説の扉だった。
魔王が復活するたびに新しい勇者が生まれたが、再び凱旋の扉を開いた勇者はひとりもいないらしい。
そんなこんなで聖剣のお披露目が終了し、アメリは正式に聖剣の乙女として認められたのだった。
王様の許しが出て、アメリたちは一斉に体を起こした。
一段高い玉座にはふくよかな王様と表情の薄い王妃様が座っている。
謁見の広間にはほかにも大臣たちが見物していて、全員が全員アメリに注目していた。
「ふむ、そなたが聖剣の乙女か。名はなんと言う?」
「あ、アメリでございます」
普通なら一生お目にかかれない高貴なお方だ。
ロランとともに最前列に立たされて、アメリのふるえ声が上ずった。
「して、アメリ。そなたはなぜ勇者のマントを羽織っておるのだ?」
「そ、それは……」
「防寒対策です」
かぶせ気味にロランがきっぱりと言い切った。
「防寒? しかし余はまったく寒くはないが」
「それはあなたの体型のせいですわ」
無表情で王妃様が突っ込んだ。
この広間で王様だけが玉のような汗をかいている。自分でもぽっちゃりの自覚があるのか、王様は無言で額の汗をハンカチで拭い取った。
「防寒か。あい分かった」
気を取り直したように王様は頷いた。
マント着用を許してもらえて、アメリはほっと息をつく。
「しかし余は聖剣の乙女の伝統衣装を見るのを楽しみにしていたのだ。ちょこっとだけでいい。そのマントを外してみてくれまいか」
アメリの気のせいだろうか。
王様の髭の生えた鼻の下がなんとなくだらしなく伸びきっている。
「あなた。あの衣装は先代の聖剣の乙女のときに何度もご覧になったでしょう?」
「いや、先代はもういい歳で、見てもあまり楽しくなかったと言うか……」
王妃様に睨まれて、王様は一瞬もごもごとなった。
「いや、大臣の中には初めての者もいるだろう。今日はようやく見つかった聖剣の乙女の披露目だ。ここはやはり伝統衣装を見ないことには収まらん」
なおも食い下がる王様に、大臣たちも賛成とばかりにうんうん頷いている。
「あなた。いいから本音をおっしゃって」
「せっかくぴちぴちの若い娘がぴちぴちに着こなしておるのだ。これを見ない手はないというか……」
「もう結構です」
ぴしゃりと遮ると、王妃様は表情なくアメリを見やった。
「わたくしが許します。聖剣の乙女、今後謁見時は勇者のマントを必ず着用するように」
「は、はい、必ずっ」
そんな……と悲しそうな王様を無視して、アメリは前のめりに頷き返した。
「もうよい。次はさっさと勇者の聖剣を見せてもらおうか」
王様の投げやりな言葉に、そんなと今度はアメリが呟いた。
聖剣はアメリの体の中にある。それを取り出すにはロランとキスの儀式が必要だ。
そんな恥ずかしいことをここでやれと言うのだろうか。すがる思いで、アメリはロランの横顔を見上げた。
「よもやできぬとは申すまいな? 勇者ロランよ」
「すぐにお見せいたします」
「勇者……!」
思わず非難の声を上げる。
対照的に、何とも思ってないと言う顔でロランはアメリに向き直った。
「聖剣乙女、手を」
「でもこんな大勢の前でだなんて……」
「君が本物の聖剣の乙女であることを証明するために必要なんだ。聖剣を見せられないとなると、偽物だと疑われることになるぞ」
これまで虚偽申告ばかりだった乙女探しだ。
アメリが今日ここに呼ばれた理由も、今度こそ正真正銘聖剣の乙女であると王様認めてもらうためだった。
「手を」
もう一度促され、仕方なくアメリは覚悟を決めた。
掌を上に向け、掲げるようにロランに差し出した。その上にロランも大きな手を重ねてくる。
手を取り合った状態で、アメリはぎゅっとまぶたを閉じた。
これは儀式だ。恋人同士の口づけなんかじゃない。
心の中でアメリは自分に言い聞かせた。
ロランの熱が近づいてくる。
息を止め、アメリはその瞬間をじっと待った。
戦闘時よりもずっとやさしく、やわらかい唇が押し付けられる。
と同時に、アメリの手の内に灼熱の光が膨れ上がった。
「んんっ」
生じた痛みと熱に、声を出さないようアメリは懸命に耐えた。
普段なら我慢などしないところだが、さすがに王様の前で絶叫するわけにもいかないだろう。
広間にどよめきが上がる中、現れた聖剣の柄にロランが手を掛けた。それからゆっくりと引き抜いていく。
まるで見せつけるかのようだった。
一気に抜き去ればいいものを、聖剣は光が溢れ出るアメリの手の上から、もどかしいほど時間をかけて姿を現した。
「おお、これぞ正に勇者の剣!」
歓声が上がる中、ロランが聖剣を掲げ持つ。
緊張が解けたアメリは、その横で立っているのが精一杯だった。
「勇者ロランよ。聖剣を手に入れたそなたは、これでようやく一人前と認められた。初代勇者の再来と言われるそなただ。必ずや魔王を討ち取ってくれるであろう」
「はい、お任せを」
ロランの返事に王様は満足げに頷いた。
次いで宝石のついた王杖で、奥にあった大きな二枚扉を指し示す。
「あの凱旋の扉を開き、そなたらが帰還する日を楽しみにしておるぞ」
凱旋の扉は、勝利を収めた初代勇者がくぐったとされる伝説の扉だった。
魔王が復活するたびに新しい勇者が生まれたが、再び凱旋の扉を開いた勇者はひとりもいないらしい。
そんなこんなで聖剣のお披露目が終了し、アメリは正式に聖剣の乙女として認められたのだった。
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