【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

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番外編

王子の苦難

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 ピコン。

 城にある自室のデスクで、オーブが白く発光する。
 中に映し出されているのは、学園の門をくぐるモッリ公爵家の馬車だ。

 書きかけのレポートを放り出し、わたしは一瞬で昇降口に移動した。
 あえて離れた場所に転移したのは、偶然を装うためだ。
 ハナコばかりを特別扱いすると、理事長であるおじい様があまりいい顔をなさらない。

「ハナコ、おはよう」
「おはようございます、シュン様。今日もお早いですのね」
「うむ、今日は入学式があるからな。つい、いつもの癖で来てしまった」
「ほほほ、さすがはシュン様ですわ。生徒会長の座をケンタに譲っても、引継ぎで責任を感じていらっしゃるのね」
「まぁ、王子としての性分だな」

 と言いつつも、早く来たのはもちろんハナコの顔を見るためだ。
 春休み中に城で幾度か会うことができたが、それでも日常でハナコが足りなさすぎる。

「それにしても今日からまた一年、学園で楽しく過ごせますのね。いい機会ですから、わたくし魔法学を基礎から学び直そうかと思っておりますの」

 うっ、なんたるまばゆい笑顔。
 ハナコが可愛すぎて、危うく鼻血が出そうになったではないか。

 最近はハナコが愛の鼻ティッシュで止めてくれるのが、これがまたうれしすぎる。
 いやしかし、王子として入学式を血で染めるわけにはいかない。
 ご褒美は敢えてあとにとっておこうではないか。

「そうか。しかしハナコは無理しなくていいのだぞ? すべてこのわたしに任せておけばいい」
「あら、そういうわけには参りませんわ。せっかくの魔力を無駄にはしたくありませんもの」

 わたしを銃弾から守ったばかりに、ハナコは留年の憂き目にあってしまった。
 それなのになんと真摯で前向きな姿勢なのだろうか。

 ハナコ以上に未来の王妃にふさわしい女性など、どこを探してもいやしない。
 今すぐさらって城に閉じ込めてしまいたいが、そんなことをしたら今までの努力が水の泡になってしまう。

 本来、先月執り行われた卒業式で、わたしはハナコを婚約者として指名する手はずだった。
 フランク学園に入学した際に、わたしはおじい様と約束をふたつ交わしたのだ。

 ひとつめは生徒会に籍を置き、組織をまとめ人を動かすことを学ぶこと。
 ふたつめは卒業までに王妃候補の女性を探すこと。

 いろんな女生徒と分け隔てなく接し、できるだけ交友を広げるように。おじい様にはそう言われたが、初めからハナコしか目に入らなかった。
 それはそうだろう。ハナコはわたしの運命だ。出会う前からそう決まっていたとしか思えない。

 わたしは生まれたときからずっと誰かを探していた。何かが物足りなくて。心のどこかに大きな穴が開いていて。
 今生で初めてハナコに出会ったとき、それがハナコであったとわたしは確信した。
 天使のようなハナコの寝顔は、わたしの心の欠落を一瞬ですべて埋めてしまったのだから。

 わたしは王子として何不自由なく育てられてきた。
 溢れる才能ゆえに、子供のころは他人を見下し人生をナメ切って生きていたくらいだ。

 しかしハナコとの出会いがわたしのすべてを変えた。
 イージーモードの人生の中で、ハナコだけがわたしの思い通りにならない存在だ。

 だがわたしは何があってもハナコが欲しい。
 ハナコだけが必要で、ハナコだけいれば他には何もいらなくて。

 この湧き上がる想いがどこからくるのか、正直自分でもよく分からない。
 それでもわたしにはハナコが必要だ。
 ハナコのいない人生など、生きている意味はありはしない。

「今年は社交界デビューもありますし、忘れられない一年になりそうですわ」
「うむ、デビューの際はわたしにエスコートさせてほしい」
「ですがわたくしたちはまだ婚約関係ではありませんし……」
「いずれそうなるのだ。ハナコとのことを知らしめるいい機会だ。なにも問題ない」

 無事平穏に卒業を迎えていたのなら、わたしの正式な婚約者としてハナコを皆に紹介できただろう。
 それが一年延長になってしまった。
 長い長い一年だ。

「あ、ハナコ様ぁ! もう入学式始まりますよぉ?」
「あら、ユイナ。今日から同じ学年ね」
「ハナコ様と仲良くできて、ユイナうれぴ~って感じです♡」

 む、ユイナ・ハセガーがやけにハナコに近いな。
 女同士だからと言ってくっつき過ぎなんじゃないか?
 これはケンタに一言もの申さねばならない案件だ。

「お、ハナコ、また一年よろしくな! 今年は留年しないよう気をつけろよな!」
「何を言ってるのよマサト。あなたこそ自分の心配をすべきでしょう?」
「俺は卒業できなくっても退学するだけだから大丈夫!」
「あきれた。まぁ、マサトはシュン様の護衛ですものね」
「そういうことだ!」

 む、マサトのヤツも相変わらずハナコに馴れ馴れしいな。ハナコとの距離感を正さねばなるまい。
 卒業でダンジュウロウが戦線離脱してくれたからよかったものの、今年は本腰をいれてマサトを排除にかかるとしよう。

「かっかっか、みなお揃いのようですな」
「まぁ、先生。ご無沙汰しておりますわ」

 む、おじい様まで。
 これからはお茶と称して、わたしとハナコの時間を奪うのは自粛していただかなくては。

「今日はプティ家の和菓子の詰め合わせを用意してありましてな。入学式後に保健室で待っておりますぞ」
「本当ですの!? わたくし必ず参りますわ!」

 うぬ、ハナコが望むなら、止めることができないではないか。
 これは裏から手を回さねば。おじい様とて容赦などしてはおれん。

「あ、綺麗なお姉様はっけん! もしかして、ハナコ・モッリ様ですか?」
「あら貴女……その髪色、もしかしてイタリーノからいらしたの?」
「はい! わたし、ロレンツォお兄様ときょうだいで。今年からフランク学園に留学することになったんです!」
「そう言えばロレンツォ様がおっしゃってましたわね。今年、弟が入学するからよろしく頼むって。こんな可愛らしい女の子だったのね。弟だなんて、わたくしが聞き間違えたのかしら……?」
「きっとそうです、お姉様っ」

 ぬをっ、ロレンツォ弟! ハナコに抱き着くなど言語道断!
 そして何しれっとハナコの胸に顔をうずめているのだっ。
 このわたしですらまだやったことがないと言うのに、万死に値する……!

「それ以上ハナコに触れるな!」
「きゃっ! シュン様、女生徒相手になんて乱暴なことを!」

 魔法で引きはがしてそこら辺に転がしただけだ。
 しかもそいつは女生徒などではないっ。

「うわーん、ハナコさまぁ、シュン王子にいじめられたぁ」
「待ていっ」
「きゃー、シュン様ぁ! 今日は一体どうなさったの!?」

 首根っこを捕まえて、そのまま木の枝にぶら下げてやった。

「ハナコ、騙されるな! ヤツはれっきとしたロレンツォの弟だ!」

 風を吹かせて、ハナコの目の前でスカートをぺろりとめくってみせる。
 下はトランクスをはいている。その下には立派なナニがあるはずだ!

「やぁん、シュン王子のえっちぃ」
「まぁ、貴女、男のだったのね!」

 は、ハナコ、なぜ何気にうれしそうなんだっ。
 可愛い見てくれに反して、ロレンツォ弟は狡猾な野獣だぞ!
 こやつもハナコに近づけないよう、見張らなくてはならなさそうだ。

「おい、シュン。人の弟になんてことしてくれてるんだ?」
「ロレンツォ、なぜ卒業したお前がここに……」
「なぜって、弟の入学式だ。父兄として出席して何が悪い」

 う、そう言われると、わたしは何も言えないではないか。

「時にハナコ、夏あたりに一度どうだ?」
「どう、と申しますと?」
「留学に決まっているだろう。イタリーノの夏はいいぞ? 開放的なバカンスを約束する」
「まぁ、ぜひ! わたくし短期でも留学したいですわ!」
「ななななにぃ! そんなことは絶対に駄目だっ」

 イタリーノと言えばナンパ野郎の温床だ。
 そんなところに夏で開放的になったハナコを送りだしたら、ご馳走を野獣の群れに放り込むようなものではないかっ。

「あら、シュン様。わたくし昨年の勝負で勝ちましたわよね? お約束は守ってくださらないと」
「そうだぞ、シュン。お前にハナコを縛る権利はないはずだ」

 あああっ、これもかれも、卒業が見送られて婚約者指名ができなかった弊害だっ。
 いやしかし、ハナコはわたしを庇って大怪我を負ったのだ。
 そこを責めるなど、わたしもどうかしているぞっ。

「ハナコ様ぁ、いいからユイナと早く行きましょうよ♡」
「ハナコ、その前に菓子食うか?」
「かっかっか、ハナコ嬢、入学式が終わったらわしとお茶ですぞ?」
「ハナコお姉様ぁ、抱っこぉ」
「ハナコ、なんなら今からイタリーノに行かないか?」

 ぬをぉおおっ、どいつもこいつもハナコハナコと馴れ馴れしく呼びおって!
 ハナコはわたしだけのハナコなのだ!
 それなのに、ハナコを手に入れるまであと一年も待たねばならないなどと、今から先が思いやられるではないかっ。

「ふふふ、ほんと、楽しい一年になりそう。ね、シュン様」
「あ、ああ。そうだなハナコ……」

 あああ、そんな可愛い顔はふたりきりのときだけにしてくれないかっ。
 鼻血が出そうだが、今は我慢だ我慢。
 そして鼻ティッシュを飛ばしてもらうのは、わたしだけの特権だ!

「さ、参りましょう、シュン様!」

 ああ、ハナコ。
 本当にハナコだけが、人生でわたしの思い通りにならないんだ。

 だがハナコ、わたしは必ずハナコを手に入れて見せる。
 どんなに厄介でしつこい邪魔者にも、絶対に負けはしない!


 卒業式の婚約指名まであと一年。
 わたしの苦難の日々は始まったばかり……!
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