【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

文字の大きさ
上 下
68 / 78
第八章 真実はいつもひとつとは限らない

山田はデッドエンドの夢を見るのか

しおりを挟む
 未希のひと声で心を決めたけど。
 いろいろと不安をぬぐい切れないまま、旅行の当日を迎えてしまった。

「姉上、もう馬車出るけど準備はいい?」
「ええ、ケンタ。つき合わせてごめんなさいね」
「見送りくらいどうってことないよ。ユイナも今日は予定あるしさ」

 ユイナはいま、国の式典に駆り出されてる。
 国家反逆罪の汚名を返上すべく、聴衆にまぎれて警護を担当するって話。

「ケンタは心配じゃないの?」
「ユイナの魔法の腕は信頼できるし。それに今回は疑いを晴らす意味が大きいから、ユイナ自身がしっかりやらないと」

 国に逆らう意思はないよって示さないとならないのか。
 ゲームのヒロインのはずなのに、ユイナも難儀な立場だな。

「ユイナの無限ループ、これで終わるといいわね」
「ありがとう、姉上。ゲームのエンディングの先も、ユイナと生きてけるって俺も信じてる」

 健太もゆいなも、自分の人生歩んでるんだな。
 ゲームの世界だからって、わたしももっとしっかりしなきゃ。

 馬車でお城まで行ってそこでリュシアン様と合流した。で、王族専用の転移門使って国境近くの町まで移動して。

「ここまで見送りに来てくれたのね、ジュリエッタ。まぁ、ダンジュウロウ様まで」
「ダンジュウロウ様が転移魔法で連れてきてくださいましたの」
「一度来たことがあった場所だからな。ひとを連れて長距離飛ぶいい練習になった」

 お、なんだい、ふたりとも。
 いつの間にそんな仲良さげな雰囲気になっちゃって。

「それにしてもダンジュウロウ様まで来ていただけるなんて……」
「シュン王子に頼まれたんだ。公務で見送ってやれないからと、ハナコ嬢をとても心配していた」

 よかった。山田、まだわたしのこと気にかけてくれてるんだ。

 旅行から帰ってきたら話したいことがある。数日前にそんな手紙を送ったんだけど。
 結局返事は返ってこなくって。

 もうわたしに興味なくなったのかもって、ちょっと弱気になってたんだ。
 単に忙しいだけって思いたい。

「ようやく来たか、ハナコ」
「ロレンツォ様。今回はイタリーノへの招待ありがとうございます」
「なに、帰国のついでだ。しかしこの国の移動はいつも面倒だな。転移門はいいとして、細かい移動はいまだ馬車だとか……まったく遅れているにもほどがある」

 ちょっとリュシアン様の前でなにディスってんのよ。
 ロレンツォめ、帰国できるからって気が大きくなってるっぽいな。

 いまイタリーノ大使がヤーマダ国に来てるから、人質のロレンツォは入れ替わりで帰国が許されたみたい。
 久しぶりに故郷に帰れるんだもんね。
 仕方ない、ちょっとくらい大目にみてやるか。

「かっかっか、ロレンツォ王子の言う通りだわい。我が国も魔法と科学の融合を推し進めておるゆえ、今後に期待と言ったところじゃな」

 おお、さすがリュシアン様。王者の余裕って感じ。
 しかも元国王らしくセンスのいい服を着こなしてるから、誰も保健医だって気づいてないし。
 普段はヨレヨレ白衣のヨボじいだもんね。わたしだってここまで仲良くならなければ、正体を見破れなかったかも。

「ハナコ嬢、あれを見るといい」

 リュシアン様が指さした先に、ホログラムで大型ビジョンが浮かび上がっている。
 まるでテレビ画面みたいにどこかの街並みが映し出されていた。足を止めた多くの人も、物珍しそうに見上げてる。

「あれこそイタリーノ国の技術を盛り込んだ、最新の遠隔映像転送魔法じゃ」
「遠くの景色を魔法で映し出しているのですか? では、あれはリアル中継ですの?」
「さすがはハナコ嬢、察しが良いな。まだ試作段階ゆえ、一般家庭に普及するのは先の話になりそうじゃが」

 映像が切り替わって、野外のステージが映し出された。
 あ、これユイナが警備しに行ってる国の式典だ。確かイタリーノ国との国交回復百周年を祝う慶典けいてんだったはず。
 よくよく見ると、壇上でスピーチしてるのはイタリーノ大使っぽい。王族代表で山田も出席してるみたいだし。

「リュシアン様は出られなくてよかったのですか?」
「表舞台からは引退した身ゆえな。それにここだけの話、わしはイタリーノ国内の情勢調査担当じゃ」

 ロレンツォに聞こえないように、こそっと耳打ちされる。
 いたずらっぽい顔で、リュシアン様はこっちにウィンクを飛ばしてきた。

「イタリーノに行く口実としてはナイスタイミングじゃったぞ、ハナコ嬢」
「まぁ、リュシアン様。またわたくしをダシにお使いになられたのね?」
「ハナコ嬢がシュンとの勝負に勝たなんだら、ここまでするつもりはなかったんだがの」

 おかしいと思ったんだよ。いくら公爵家といえ、貴族令嬢の旅行に元国王が付き添うなんてさ。
 そんな裏があったんだったら、あっさり話が通ったのもうなずけるって感じだし。

(でも国交回復の式典してるわりには、相手国の内情調査が必要だなんて……)

 不穏な臭いがプンプンじゃない?

 画面に目を戻すと、ちょうど山田と大使が握手をしている場面が映し出されていた。
 音声も流れてるのか、聴衆の拍手がここにまで響いてくる。

 表向きは良好な関係そうに見えるけど。
 イタリーノ国とはちょっと問題が生じてるって、前にリュシアン様も言ってたっけ。
 実情は意外と難しい状況にあるのかも?

 ちらっとロレンツォをうかがうと、食い入るように画面を見つめていた。
 怖いくらい真剣な横顔に、いやな予感が湧き上がる。

(山田、大丈夫だよね……?)

 未希が言ってたロレンツォルート。
 その結末エンドが頭をよぎって。

 和やかに見える式典の中、イタリーノ大使だけが不自然にピリピリしてる。それが画面越しにも伝わってきた。
 未希から聞いた話だと、ゲームではあの大使の銃弾で山田は命を落とすらしい。

 だけど、シナリオ通りの展開でイタリーノに行くわけでもないし、そもそも悪役令嬢のわたしにロレンツォルートなんて関係ないし。

(うん、考えすぎ、考えすぎ)

 違和感にフタをして、とりま自分を納得させた。

「ハナコ、行くぞ。面倒事が起こる前にさっさと出国手続きを済ませるんだ」

 腕をつかまれて、強引に引っ張られる。
 ん? ロレンツォ、いまメンドウゴトって言わなかった?

 進むロレンツォにつられて、リュシアン様たちもみんなカウンターへと歩き始めた。
 振り向くと、遠のいた画面ではまだ式典が進められていて。
 やっぱ問題はなさそうか。
 ほっとして向き直ったとき、映像の向こうで不自然な聴衆のどよめきが響いた。

「なに……?」

 足を止めて目を凝らす。
 画面には、会場のはしで白煙が上がっている場面が映し出されていた。

「ハナコ、なにをしている?」
「式典でなにかトラブルがあったようで……」

 ビジョンを見上げてるひとたちの数も増えてるみたい。
 画面を指さしながら、口々に何かを言い合ってる。

「俺たちには関係のないことだ。それにあの場には、この国自慢の魔法警備が揃っているんだろう?」
「ロレンツォ王子の言う通りじゃ。あちらはシュン王子たちに任せておけば良い」
「ですがリュシアン様……」

 確かに式典はそのまま続けられてるっぽい。演出のスモークかなにかだったとか?

 だけどロレンツォの態度も気になるし。
 やけに急かされてる感じがするんだよね。これもわたしの思い過ごしかな。

 促されて、仕方なく歩き出す。
 もう一回振り向くと、画面は小さすぎてほとんど見えなくなっていた。

(でももし、本当に山田が撃たれて死んじゃったら……?)

 言いようのない不安がこみ上げる。
 収まらないどころか胸騒ぎはどんどん大きく膨らんで。

「わたくし、シュン様の元に行かなくちゃ……」
「いまさらなにを言っている? あんたは俺とイタリーノに行くんだ、ハナコ」
「ダメ……!」

 乱暴にロレンツォの腕を振り切った。

「ごめんなさい、リュシアン様。わたくしイタリーノには行けません」

 こんなドタキャンの仕方、あり得ないでしょ。
 自分でもそう思ったけど。
 気づいたときにはもう、そんな言葉が口から出てた。

 ロレンツォの顔に泥を塗るだとか、リュシアン様のメンツをつぶすだとか。
 ただの思い違いだったらどうしようとか、そんなことすら考えに浮かばなくて。

「ケンタ、お願い! わたくしをシュン様のいる場所まで連れていって……!」
「えっ、だけど姉上」
「いいから、早く! シュン様がどうなってもいいって言うのっ!」

 わたしの剣幕に押された健太と手をつないで、ふたりで空間を飛び越えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...