上 下
63 / 78
第七章 いざ、最終決戦

王子VS悪役令嬢

しおりを挟む
「それで姉ちゃん、シュン王子と魔法で勝負することになったの? 無謀むぼうだなぁ」
「しょうがないじゃない。リュシアン様の提案だったし、受けないと留学がパーになっちゃうんだから」
「リュシアン様……? なに姉ちゃん、いつの間に元国王までたらしこんでんの?」
「ちょっと、変なこと言わないでっ」

 危ない危ない。保健医ヨボじいがリュシアン様だってことは、秘密にしとくって約束だった。

「にしてもさ、なにもわざわざ魔法対決にしなくても。ほかにいい方法あったんじゃないの?」
「どのみち山田には勉強もスポーツも太刀打ちできないんだから。だったら意表を突ける魔法の方がまだ勝算があるってもんでしょ」
「ワンチャン狙いってわけ? 国一番の魔力持ち相手に、姉ちゃん強気すぎだって」

 こっちは必死なんだから、半笑いしてんじゃないっ。

「いいから健太も協力して。山田はわたしの魔法なんてポンコツだと思ってるだろうから、ソコを逆手にとって勝利をもぎ取るのよ」

 名付けて、窮鼠きゅうそ猫を噛む作戦。
 追い詰められたわたしの底力、山田に見せつけてやるんだから。

「こんなんで本当に上手くいくかなぁ。俺だってシュン王子には勝てる気しないってのに」
「大丈夫よ。ちゃんとハンデはもらうから」

 能力で勝てなければ頭を使うしかないわけで。
 姑息と言われようと、やるからには何が何でも勝ちに行くつもり。

「姉ちゃんどう? このくらいでいけそう?」

 健太が手渡してきたのはパッと見小さめのピンポン玉。
 実はコレ、ぎゅっと丸めたティッシュだったりする。

 上達してきたとは言え、わたしが魔法で動かせるものはいまだにティッシュ一枚。だから健太の魔法でティッシュを極限まで圧縮してもらったんだ。
 こうすれば重さが変わらないまま空気抵抗を減らせるし、飛距離と速度をマシマシにできるってワケ。

 試しにひと粒魔法で飛ばしてみると、結構な速度で飛んでって。
 壁を跳ね返ったボールは、とてもティッシュとは思えない仕上がりって感じ。

「うん、上出来じゃない」
「姉ちゃん、魔法の扱いすげー上達したじゃんか」
「まぁね。でもまだまだこれからよ」

 もっと威力が増してくれないと、勝算が薄くなっちゃうし。

「でもさ、飛び道具なんか使って大丈夫なわけ?」
「そこはちゃんと確認したから」

 リュシアン様に聞いたら、魔法さえ使えば何飛ばしても構わないって。もちろん刃物とかはダメって言われちゃったけど。
 硬くしたティッシュとは言え、わたしの魔力じゃ殺傷能力は皆無かいむだし。せいぜい当たったところが赤くなる程度だよね。
 山田は多少痛い思いするかもしれないけど、そこはご愛敬あいきょうってことで許してもらおうっと。

 とにかく、あとは練習あるのみ!
 勝負までまだ時間があるから、魔法学の先生の力も借りてギリギリまで技を極めないと。

 そしていよいよ約束の日がやってきて。
 場所はお城の庭園。観客はビスキュイ一匹。レフェリーはもちろんリュシアン様で。

 邪魔が入らないよう、リュシアン様が庭一帯に結界魔法を作ってくれた。
 空調は山田が担当。
 なにせ寒空の下の決闘だからね。試合中も魔法使って快適空間を維持するらしい。
 これもハンデのひとつって、リュシアン様が決めたみたい。

「では始める前に、ルールを確認しておこうかの」

 山田とわたしが無言で向き合う中、リュシアン様の落ち着いた声が響き渡る。

「まず使っていいのは魔法のみ。先に相手の両ひざを地面につけた方が勝者じゃ。よいな?」

 問いかけにわたしと山田がうなずき返す。

「ハンデとして、試合開始五分間はハナコ嬢に先制攻撃の権利を与える。五分経過するまでは、シュン王子は一切の手出しを禁止とする」

 最初の五分が、実質わたしの攻撃時間だ。この時間内で山田を仕留められなかったら、わたしの敗北は確実になるだろう。
 今のわたしの実力じゃそんなバカスカ魔法を使えないし。
 意表を突くことも勝つ条件に入ってるから、ネタバレしたあと二度目のチャンスはないと思ってる。
 山田を地面に沈めるには、確実に一発でケリを付けなくちゃ。

「ふたりとも、準備は良いな?」

 しっぽを振ってるビスキュイの横で、リュシアン様は大きく片腕を空にかかげた。

「では、試合開始!」
「わふんっ」

 ビスキュイの鳴き声とともに、大きな砂時計がひっくり返った。
 あの砂が落ち切ったとき、山田の魔法が解禁される。
 慌てるな、華子。シミュレーション通りやれば、絶対にうまくいくハズ。

 ただ不安材料はいくつかあって。
 まずは風の存在。山田の空調魔法のおかげでこの心配はなくなった。
 残りは下が芝生だってこと。ボールの素材がティッシュだけに、地面がぬれてなかったのはよかったけれど。硬い床の上ばかりで練習してきたのが今さらながら悔やまれる。
 ま、言っていても仕方ないよね。ここまできたらやるしかないし。

 立ち尽くす山田の後ろに回り込んで、歩幅ほはばで距離を確かめた。
 何をしてるか分からないように、スカートの影でティッシュ玉を地面に置いて回った。
 芝生のお陰で山田からは置いたボールが見えないみたい。これはかえって有利かも?

 ボールの位置がカギだから、慌てないで慎重に。
 落ち着け、落ち着け。大丈夫、まだ時間は残ってる。

 配置し終わって、砂時計に目を向ける。
 落ちた砂は半分以上。だいたい残り二分ってところかな。
 下準備は完璧って感じだし、攻撃は一分あれば十分だ。

 その間、山田は何もせずに姿勢よく立っていて。
 その余裕の表情、いますぐ崩してやるから見てなさいよ。

 正面に戻って、深呼吸で精神統一。
 この勝負に勝ちさえすれば、ゲームの世界は終わるも同然。卒業イベントを待たずして、前倒しできるってことだから。
 悪役令嬢として最後の聖戦、全身全霊かけてやったろうじゃないの!

 覚悟を決めて、山田に向け両手をかざした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...