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第七章 いざ、最終決戦

やればできるはやらねば寝言

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 図書館を出て帰りの馬車の中、今日はゆいなとふたりきり。
 健太は生徒会の仕事があるって置いてきたんだけど、ゆいなは最早もはやモッリ家に入りびたってるって感じ。
 で、さっきからやたらとゆいなに見つめられてて。

「なに? わたくしの顔をじろじろと」
「だってハナコ様、ロレンツォ王子の好感度爆上がりしてたから、どんな手使ったのかなぁって気になって」
「やめてちょうだい。ロレンツォ様の態度はシュン様へのライバル心の現れなだけよ」

 そうそう。ロレンツォがちょっかい出してくるのは、わたしが山田に気に入られてるってのが理由なんだよね。張り合ってるだけで、別にわたしに好意を持ってるとかじゃないと思うんだ。

 留学に誘ったのだってその一環なんじゃないかな?
 肩身の狭い思いをしてきたこの国で、最後に王子のお気に入りをさらっていけばそりゃ痛快な思いができるだろうし。

「そんなことないですよぉ。廊下で窓が割れた日は好感度20くらいだったのに、さっき見たら90パー越えてましたもん」
「え? ユイナあなた、好感度が数字で分かるの?」
「はい、パラメーターで。見ようと思えばゲームとおんなじ画面が出てくるんです」

 それはすごいな、さすがヒロインチート。
 っていうかロレンツォのヤツ、好感度20でわたしを口説いてきてたんか。やっぱり山田への当てつけじゃないの。

「ちなみにシュン王子の好感度は初めっからカンストしてましたよ?」
「カンストってあなた……」

 最近の山田はすごく落ち着いてて、カウンターストップするほど思いつめてるようには見えないけどね。
 まぁ、山田ってなにやっても怒んないし、わたしに激甘のはそれが理由なのかもだけど。

「どうしてハナコ様ばっかり。ユイナにも手玉に取る秘訣を教えてくださいよぅ」
「なに言ってるの。あなたにはケンタがいるんだからそれで十分でしょう?」
「そうなんですけどぉ」

 ですけどぉ、じゃないわよ。
 この小悪魔め。本性現わしたら、すぐさまモッリ家からたたき出してやる。

「あ、ハナコ様、今日はなんの本を借りたんですかぁ?」

 ちっ、ゆいなめ、危険を察知して話題を逸らしたな。

「イタリーノ国のガイドブック? やっぱりハナコ様、ロレンツォ王子に寝返ったんだぁ」
「人聞きの悪いこと言わないで。ロレンツォ様にイタリーノの話をお聞きして、ちょっと興味惹かれただけよ」
「えー、なんかあやしぃ」

 留学のことはまだ黙ってなくちゃな。立場的にお父様の許可取らないと出国なんてできないしね。

「そんなことないわよ。イタリーノには遊園地があってジェットコースターにも乗れるそうよ?」
「遊園地!? ユイナ行ってみたぁい!」
「でしょう?」

 ガイドブックを手渡すと、ゆいなは夢中になって読みだした。
 よかった、うまいこと気を逸らせたみたい。わたしは魔法学の本にでも目を通しますか、トホホ。

「あ、ケンタ様が来る」
「え?」
「よっと、間に合った!」

 ぎゃっ、いきなり転移魔法で現れないでっ。

「も、もう、ケンタ。走ってる馬車の中に転移なんかしたら危ないでしょう?」
「ごめん姉上。一秒でも早くユイナに会いたくてさ」
「ケンタ様……」
「ユイナ……」

 ちょっと、わたしを無視して世界作んないでっ。しかもあんたら、生徒会で一時間前には顔合わせてたでしょっ。

「あれ? 姉上、なんでそんな本読んでるの?」
「魔法学の補習があるって言ったでしょう?」
「長々と座学聞くより、試験受けてパッと終わらせた方が早くない?」
「来年卒業試験も控えてるのに、今はハードル上げたくないの」
「ああ、あの先生、進歩ないと認めてくれないもんね」

 そうなんだよ。ティッシュを引き寄せるしか能のないわたしにできることなんて限られてるし。
 前回はゴミ箱に投げ飛ばす魔法に挑戦したから、次は技をどう進化させるか悩みどころなんだよね。今のところ二連続で飛ばすか、頑張っていっぺんにふたつ入れるかにしようかと思ってるんだけど。
 それをいま披露しちゃったら、卒業試験でさらに高みを目指さないといけなくなるわけで。

「魔力の弱いわたくしに、座学の授業以外選択できるわけないじゃない」
「え、なに言ってるんですかぁ。ハナコ様って別に魔力弱くないですよね?」

 きょとんとゆいなに言われて。なにソレ嫌味?
 って思ったけど、ゆいなってば本気できょとんとしてる。

「なに言ってるのはこっちのセリフよ。わたくしがティッシュしか扱えないのはあなたも知ってるでしょう?」
「知ってますけど……ハナコ様は魔力が弱いっていうより、ムダ使いしてるだけな感じですよ?」
「ムダ使い?」
「なんて言うかハナコ様の場合、釣り糸一本で釣れる小魚をおっきなアミ放り投げて捕まえてくる、みたいな?」

 ゆいなにしては分かりやすい例えね。
 ってか、わたしの魔力が弱くない!?

「ほら、いつだかハナコ様、ケーキを食べようとしたわたしの手からフォーク吹き飛ばしたじゃないですか? それにシュン王子とロレンツォ王子の鼻の穴目がけて、ものすごい勢いで何枚もティッシュ詰め込んでたし」
「あれはただのまぐれで……」

 あのときは頭に血がのぼってて、自分でもどうやったのか覚えてないんだよね。
 後日に再現しようとしても全然できなかったし。

「一度できたってことは次もできるってことじゃないですかぁ。パラメーター見てもハナコ様、ケンタ様の四分の一くらいは魔力持ってますよ?」
「ええっ、そんなに!?」
「それって人並み以上ってことじゃん、姉上」

 そ、そうだよね。健太って相当優秀な部類に入ってるし。
 なにやってたんだよ、ハナコっ。小さいときから英才教育受けてたら、今ごろもっとスゴイ魔法が使えてかもしれないのにっ。

「持っていても上手く扱えないんじゃ、宝の持ち腐れじゃない……」
「姉上の歳で魔法の基礎練か……まぁ、頑張って」
「あは、ユイナ気づいたらできちゃってたタイプだから、アドバイスとかできないかも」

 ぬおっ、こうなったら死ぬ物狂いで頑張って、拳銃チャカ並みの弾丸タマ、いつかティッシュで飛ばしちゃる……!


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