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第七章 いざ、最終決戦

そうだ、留学しよう

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 放課後の図書館で備え付けの机に座って。
 広げてるのは初歩魔法の参考書。中身はまぁ小学生レベルで子供でも読めるようなヤツ。

(はぁ……結局補習か……)

 魔法学の授業に出られなかったから、放課後にマンツーマンで補習を受けることになっちゃって。
 魔法学の先生ってちょっと厳しんだよね。冗談とか通じなさそうなタイプだし、今からホント気が重いよ。

 補習の内容は魔法基礎の座学の長時間コースと、魔法をひとつ披露して合格貰えればその場で終了の試験コース。どっちがいい? って先生に聞かれたけど。
 試験の方がハードル高いんだよね。前回の結果を越えないと合格もらえないし。

 そうなったら座学を選択せざるを得ないワケで。
 あの先生、授業中にいちいち質問してきて、答えられないとレポート課してくるんだ。少しくらい勉強しとかないと、あとがもっとたいへんになりそうだよ。

 そんなわけで今はゆいなが来るのを待ちながら、健気けなげに自習にいそしんでる。
 図書館には独りで来るなって山田に言われてるけど、ここは貸し出しカウンターのすぐそばだからね。司書の教員も何人かいるし、危ない目にはまず合わないって感じ。

 それはさておき、ハナコって公爵令嬢だけあって、これまであんま勉強してきてないんだ。
 両親もさ、学校の勉強なんてしなくていいよ、それよりも淑女マナーと社交に力入れましょうってスタンスだったし。

 くしゃみが出そうになって、備品のティッシュを一枚しゅっと魔法で引き寄せた。

(魔法の勉強だけは真面目にやっといてくれたらよかったのに)

 せっかく魔法がある世界に転生したのに、できることと言えば物を引き寄せるだけ。しかもうす~いティッシュ限定だなんて、我ながら情けなさ過ぎるんですけど。

「器用なものだな」
「ひゃっ、ろ、ロレンツォさまっ!?」

 ちょっ、いつからソコに座ってたのよっ。
 びっくりしすぎて淑女にあるまじき変な声出ちゃったじゃんっ。

「いらしてたのなら、お声をかけてくださればよかったのに」
「真剣なところを邪魔するのは悪いと思ってな」

 なにその謙虚なセリフ。
 今までは他人のことなんて、気にもとめてなかったくせに。

「しつこい男は嫌われるんだろう?」

 くくっと笑ってわたしの髪に手を伸ばしてくる。
 だからそういうトコロがしつこいんだってば。

「ここは図書館ですわ。場所を考えてくださいませんこと?」
「ということは場所を考えれば触れてもいいということだな?」
「そ、それは……揚げ足を取って来ないでくださいませ!」

 大きめの声を出したら、司書の人にジロってにらまれちゃった。とんだとばっちりだよ。
 思わず頬をふくらませたら、ロレンツォのヤツ、またくくっと笑ってるし。
 ああもう、ひとのことバカにしてっ。この嫌味な笑い方、ホント好きになれないんですけどっ。

 顔がいいだけに余計腹立つわ。顔と性格、山田と逆だったらよかったのに。
 お、我ながらいい考え。ロレンツォの顔で山田のスペックあれば、まだ許容範囲のイケメンなんじゃ?

「こんな本で魔法が使えるようになるのか?」

 ロレンツォがわたしが見ていた参考書をぺらぺらとめくっている。
 ってか、いつの間に。子供向け読んでて悪うございましたねっ。

「魔法は素養が重要なのですわ。魔力のない人間はそもそも魔法を使えません」
「そのようだな。研究者はいても、イタリーノで扱えるものはいないからな」

 魔力ってヤーマダ国民特有のものみたいで。だからこそ大昔に魔法使い狩りで戦争が起きたって話だし。
 ヤーマダ国では魔力が強い方が人間的に優秀って考え方が根付いてる。わたしが馬鹿にされないのは、社会的ヒエラルキーが高いってだけだしね。
 それでも魔力ハラスメントは世の中に横行してる。魔力のないロレンツォも、何かとイヤな思いしてきたのかも?

「ヤーマダ国でも魔力の大きさは人それぞれですわ。わたくしなど魔法と言ってもこれくらしかできませんし」

 手をかざしてティッシュを一枚引き寄せる。
 これだけはやり慣れてるから、何も考えなくてもできちゃうって感じ。

「地味に便利だな」
「お褒めいただき光栄ですわ」

 地味で悪かったわねっ。
 自分でも気にしてるってのに、こうなったら開き直ってやるっ。

「あいにくわたくしは育ちが良すぎまして、ティッシュ以上に重いものは扱えませんのよ」
「ふっ、そのくらいのほうが慎ましやかでいいじゃないか。俺からすれば、それだけできれば驚きに値するがな」

 あれ? なんだかわたしを擁護してくれてるっぽい?
 バカにしてたってわけじゃないんだ?

「ですが数回使えば魔力切れを起こしますから」
「ああ、この前の症状か。あのときの衝撃と言ったらなかったぞ」

 すごく真剣な表情で、ロレンツォはピースの指を鼻の穴に軽く突っ込っこんだ。
 ぷっ、なによその真面目くさった顔。それに山田と並んで鼻ティッシュの場面、何気に思い出しちゃったじゃない。

「ああ……あんたはその方がいい」

 くすくすと笑っていたら、ロレンツォが小さくつぶやいて。
 やだっ、なんでそんなやさしい目してこっち見てんの。
 鼻ティッシュかまされて好感度が上がるだなんて、一体どんな変態よっ。

「と、とにかく、邪魔をなさるのなら出て行ってくださいませんか」
「分かった。邪魔をしなければ、ここにいてもいいということだな」

 だから揚げ足取るなっつうの!

「なぁ、ハナコ」

 って、言ってるそばから話かけてくるってどういうことよ?

「イタリーノはいいぞ。この国にはない自由と奔放さがある。科学技術は発展しているし娯楽に溢れているしな」

 確かにヤーマダ国って魔法に頼ってる分、機械技術的な面ではイタリーノ国に後れを取ってるみたい。よく言えば伝統的、悪くいえば古臭いって感じ。

「機械仕掛けの遊園地などもあるぞ。高速でレールを走る遊具や天まで届く大車輪の観覧車はなかなかのものだ」

 え? ジェットコースターとかあるんだ。ちょっと乗ってみたいかも。

「わが国はガラス工芸も発展していてな。強化ガラスがあれば、この前のような窓が割れる事故も防げるというものだ」
「強化ガラス……それはすごいですわね」
「だろう? 水圧に耐えるガラスなどは透明度が抜群で巨大な水槽でも使われている」
「まぁ、もしかして水族館ですか?」
「よく知ってるじゃないか。あの魚の群れは圧巻だぞ。いつかハナコにも見せてやる」

 イタリーノってそんな国なんだ。食べ物もおいしいってよく聞くし。

「どうだ、ハナコ。卒業したらイタリーノに留学しないか?」
「留学を……?」
「ああ、俺も学園を出れば帰国できることになっている。それに合わせてついてくれば、ハナコに刺激的な体験を山ほどさせてやれるぞ」

 なにソレたのしそう!
 イタリーノだったらイケメンいっぱいいそうだし、理想の王子様が見つかるかもしんないし。
 何より、日本で叶えられなかった留学生活だもん。それがこの世界でも味わえるだなんて。

「か、考えさせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんだ。冬休みにまず一度来てみないか? イタリーノはこの国に比べて暖かい。観光地にいろいろ連れて行ってやる」

 どうせ予定はがら空きだし、ここは思い切って行っちゃおうかしら。
 留学するなら街並みとか国の雰囲気とか、知っておいて損はなさそうだし?

「まずは父に相談してみませんと……」
「そんなものこの俺がどうにでもしてやる。これでも王子の立場だからな」

 ぐっと手を握られて、ちょっと早まったかなって思ったけど。

 駆け出した思いは止められなくって、心はもう留学でいっぱいになっちゃってる。
 向こうで恋人見つけちゃえば、ロレンツォを遠ざけることもできるだろうし。

 よし、これからは留学目指して頑張ろうかな。
 その前に卒業を迎えて、ゲームのエンディング無事にクリアしないとって感じ!


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