59 / 78
第七章 いざ、最終決戦
人質コンプレックス2
しおりを挟む
先についてたロレンツォが、リュシアン様に回復魔法をかけてもらってる。
「ロレンツォが済んだらハナコも頼みます」
「今日は大忙しですな。おおっと、怪我の有無をスキャンしておりますゆえ、まだ動いてはなりませんぞ?」
手をかざすリュシアン様に、ロレンツォは大きく舌打ちを返した。
ちょっと、その方は我が国の前国王よ? バカにするようなマネ、やめてくんない?
しばらくそんな様子を黙って見守ってたんだけど。
「どうした、ハナコ?」
「いえ、魔法学の授業をさぼってしまったものですから、あとで先生に怒られるか心配で」
「それならわたしからひと言伝えておこう。今日は不測の事態が起きたからな」
「ありがとうございます、シュン様」
山田から言ってもらえれば、おとがめはなしになりそう!
うれしくて素直にお礼を言ったら、見上げた山田の顔が思ったより近くって。
ん? なんでいまだに山田の腕の中にいんの、わたし?
「す、すまない、ハナコっ。流れでついそのままでいてしまったっ」
あわてて手を離した山田。いや、何もそんな遠くまで行かなくっても。
「今日は不測の事態でしたから。助けていただいた身で文句など申し上げませんわ」
「そうか、ならば良かった」
ほっと息をついて、山田は柔らかい笑顔を見せた。
適切な距離感で接してみると、山田ってばかなりできるオトコなんだよね。
「うむ、特に問題はないようですな。では次はハナコ嬢を確認するとしますかな」
「ハナコ、わたしは先ほどの騒ぎの後処理がある。もう行くが、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「お気遣いありがとうございます。シュン様もお気をつけて」
「ありがとう、ハナコ。ケンタもわたしと来てくれ」
「はい、シュン王子」
転移魔法で山田が消えると、それに続いて健太もこの場からぱっといなくなった。
「ちっ、化け物ぞろいでいやがる……」
ロレンツォのついた悪態が聞こえただろうに、リュシアン様はニコニコ顔でわたしに手をかざした。
スルースキルって大事だな。大人の余裕を感じちゃう。
まぁ魔力の弱いわたしにしてみれば、ロレンツォの気持ちも分からないでもないんだけどね。
「ハナコ嬢も問題ないようですな。いま茶でも入れますゆえ、おふたりとももうしばらくゆっくりしていきなされ」
リュシアン様が奥に引っ込んで。
ロレンツォとふたりきりにされて、ちょっと微妙な雰囲気に包まれた。
「お座りになってはいかが? 授業をおさぼりになりたかったのでしょう?」
丸椅子をすすめたのに、ロレンツォってばリュシアン様のひじ置き付きのチェアにどっかりと座りこんだ。
そういうトコやぞ! やることが子供っぽくて、ホント幻滅するって感じ。
「今日の茶うけはたい焼きですじゃ。温めなおしたゆえ熱いうちに食べてくだされ」
自分の椅子に座るロレンツォに文句を言うでもなく、リュシアン様は丸椅子に腰かけた。
ヨボじいを装ってるけど、やっぱりリュシアン様は王者の風格が漂ってるな。
「今日は番茶ですのね。スモーキーで良い香り」
「さすがハナコ嬢。そちらも熱く煎じておりますゆえ、火傷せぬようお気をつけくだされ」
「ふふ、皮がパリパリ。あんこの粒もふっくら炊けていてとっても美味しいですわ」
「さ、そちらの坊も遠慮せずに」
「ちっ、仕方ねぇな……む、これは旨いな」
ロレンツォってば、瞳を輝かせて二個目のたい焼きにまで手を伸ばしてる。
こんな子供っぽいトコロもあるんだ。
「そろそろ次の授業が始まる頃合いですな。おふた方はもうお戻りなされ」
「先生、今日も診てくださってありがとうございました」
「いやいや、何事もなくてわしも安心しましたぞ」
リュシアン様に見送られてロレンツォと保健室を出た。
めんどう事になる前に、さっさと教室に戻ろうっと。
「待て、ハナコ」
「何ですの?」
だから腕をつかまないでったら。ほんと礼儀知らずなオトコでイヤになる。
「わたくし、お礼も言えない殿方に付き合ってるヒマはございませんの」
冷たく言って無理やり手を引きはがす。手はあっさりほどけたけど、ちょっとムッとした顔を返された。
なによ、やる気なの? いざとなったらマサトを召喚してやるんだから。
「礼も何も、俺は何ひとつ頼んだ覚えはない」
「あきれた言い分ですこと。良くして頂いたことに変わりはありませんでしょう?」
「ふん、本心から親切にしているわけでもあるまいに。あいつらはこの俺に何かあったら困るというだけのことだ」
ずいぶんと穿った発言ね。らしくなく自暴自棄な感じだし。
ああ、そっか。ロレンツォってば人質でヤーマダ国に来てたんだっけ。
「まぁ、意外。ロレンツォ様がそんな卑屈な方だったなんて」
「悪いか。国に見捨てられ生贄にされたんだ。卑屈になって当然だろう」
「価値があるからこそ、ロレンツォ様はここにいらっしゃるのでしょう? ご自身にもっと誇りをお持ちになればよろしいのに」
どうでもいい人間だったら、人質として役に立たないもんね。
「イタリーノ国とヤーマダ国、双方の国民の平和を担っていると思えば、そんな大役ほかになかなか見つかりませんわ」
あれ? ロレンツォ変顔してる。なんかサカンバンバスピスみたいじゃない?
ま、いいや。今のうちに教室戻るとしますか。
「ではロレンツォ様、ごきげんよう」
一応、声はかけたけど。
わたしを見送るロレンツォは、ずっとサカバンバスピスのままだった。
「ロレンツォが済んだらハナコも頼みます」
「今日は大忙しですな。おおっと、怪我の有無をスキャンしておりますゆえ、まだ動いてはなりませんぞ?」
手をかざすリュシアン様に、ロレンツォは大きく舌打ちを返した。
ちょっと、その方は我が国の前国王よ? バカにするようなマネ、やめてくんない?
しばらくそんな様子を黙って見守ってたんだけど。
「どうした、ハナコ?」
「いえ、魔法学の授業をさぼってしまったものですから、あとで先生に怒られるか心配で」
「それならわたしからひと言伝えておこう。今日は不測の事態が起きたからな」
「ありがとうございます、シュン様」
山田から言ってもらえれば、おとがめはなしになりそう!
うれしくて素直にお礼を言ったら、見上げた山田の顔が思ったより近くって。
ん? なんでいまだに山田の腕の中にいんの、わたし?
「す、すまない、ハナコっ。流れでついそのままでいてしまったっ」
あわてて手を離した山田。いや、何もそんな遠くまで行かなくっても。
「今日は不測の事態でしたから。助けていただいた身で文句など申し上げませんわ」
「そうか、ならば良かった」
ほっと息をついて、山田は柔らかい笑顔を見せた。
適切な距離感で接してみると、山田ってばかなりできるオトコなんだよね。
「うむ、特に問題はないようですな。では次はハナコ嬢を確認するとしますかな」
「ハナコ、わたしは先ほどの騒ぎの後処理がある。もう行くが、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「お気遣いありがとうございます。シュン様もお気をつけて」
「ありがとう、ハナコ。ケンタもわたしと来てくれ」
「はい、シュン王子」
転移魔法で山田が消えると、それに続いて健太もこの場からぱっといなくなった。
「ちっ、化け物ぞろいでいやがる……」
ロレンツォのついた悪態が聞こえただろうに、リュシアン様はニコニコ顔でわたしに手をかざした。
スルースキルって大事だな。大人の余裕を感じちゃう。
まぁ魔力の弱いわたしにしてみれば、ロレンツォの気持ちも分からないでもないんだけどね。
「ハナコ嬢も問題ないようですな。いま茶でも入れますゆえ、おふたりとももうしばらくゆっくりしていきなされ」
リュシアン様が奥に引っ込んで。
ロレンツォとふたりきりにされて、ちょっと微妙な雰囲気に包まれた。
「お座りになってはいかが? 授業をおさぼりになりたかったのでしょう?」
丸椅子をすすめたのに、ロレンツォってばリュシアン様のひじ置き付きのチェアにどっかりと座りこんだ。
そういうトコやぞ! やることが子供っぽくて、ホント幻滅するって感じ。
「今日の茶うけはたい焼きですじゃ。温めなおしたゆえ熱いうちに食べてくだされ」
自分の椅子に座るロレンツォに文句を言うでもなく、リュシアン様は丸椅子に腰かけた。
ヨボじいを装ってるけど、やっぱりリュシアン様は王者の風格が漂ってるな。
「今日は番茶ですのね。スモーキーで良い香り」
「さすがハナコ嬢。そちらも熱く煎じておりますゆえ、火傷せぬようお気をつけくだされ」
「ふふ、皮がパリパリ。あんこの粒もふっくら炊けていてとっても美味しいですわ」
「さ、そちらの坊も遠慮せずに」
「ちっ、仕方ねぇな……む、これは旨いな」
ロレンツォってば、瞳を輝かせて二個目のたい焼きにまで手を伸ばしてる。
こんな子供っぽいトコロもあるんだ。
「そろそろ次の授業が始まる頃合いですな。おふた方はもうお戻りなされ」
「先生、今日も診てくださってありがとうございました」
「いやいや、何事もなくてわしも安心しましたぞ」
リュシアン様に見送られてロレンツォと保健室を出た。
めんどう事になる前に、さっさと教室に戻ろうっと。
「待て、ハナコ」
「何ですの?」
だから腕をつかまないでったら。ほんと礼儀知らずなオトコでイヤになる。
「わたくし、お礼も言えない殿方に付き合ってるヒマはございませんの」
冷たく言って無理やり手を引きはがす。手はあっさりほどけたけど、ちょっとムッとした顔を返された。
なによ、やる気なの? いざとなったらマサトを召喚してやるんだから。
「礼も何も、俺は何ひとつ頼んだ覚えはない」
「あきれた言い分ですこと。良くして頂いたことに変わりはありませんでしょう?」
「ふん、本心から親切にしているわけでもあるまいに。あいつらはこの俺に何かあったら困るというだけのことだ」
ずいぶんと穿った発言ね。らしくなく自暴自棄な感じだし。
ああ、そっか。ロレンツォってば人質でヤーマダ国に来てたんだっけ。
「まぁ、意外。ロレンツォ様がそんな卑屈な方だったなんて」
「悪いか。国に見捨てられ生贄にされたんだ。卑屈になって当然だろう」
「価値があるからこそ、ロレンツォ様はここにいらっしゃるのでしょう? ご自身にもっと誇りをお持ちになればよろしいのに」
どうでもいい人間だったら、人質として役に立たないもんね。
「イタリーノ国とヤーマダ国、双方の国民の平和を担っていると思えば、そんな大役ほかになかなか見つかりませんわ」
あれ? ロレンツォ変顔してる。なんかサカンバンバスピスみたいじゃない?
ま、いいや。今のうちに教室戻るとしますか。
「ではロレンツォ様、ごきげんよう」
一応、声はかけたけど。
わたしを見送るロレンツォは、ずっとサカバンバスピスのままだった。
0
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる