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第七章 いざ、最終決戦
人質コンプレックス2
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先についてたロレンツォが、リュシアン様に回復魔法をかけてもらってる。
「ロレンツォが済んだらハナコも頼みます」
「今日は大忙しですな。おおっと、怪我の有無をスキャンしておりますゆえ、まだ動いてはなりませんぞ?」
手をかざすリュシアン様に、ロレンツォは大きく舌打ちを返した。
ちょっと、その方は我が国の前国王よ? バカにするようなマネ、やめてくんない?
しばらくそんな様子を黙って見守ってたんだけど。
「どうした、ハナコ?」
「いえ、魔法学の授業をさぼってしまったものですから、あとで先生に怒られるか心配で」
「それならわたしからひと言伝えておこう。今日は不測の事態が起きたからな」
「ありがとうございます、シュン様」
山田から言ってもらえれば、おとがめはなしになりそう!
うれしくて素直にお礼を言ったら、見上げた山田の顔が思ったより近くって。
ん? なんでいまだに山田の腕の中にいんの、わたし?
「す、すまない、ハナコっ。流れでついそのままでいてしまったっ」
あわてて手を離した山田。いや、何もそんな遠くまで行かなくっても。
「今日は不測の事態でしたから。助けていただいた身で文句など申し上げませんわ」
「そうか、ならば良かった」
ほっと息をついて、山田は柔らかい笑顔を見せた。
適切な距離感で接してみると、山田ってばかなりできるオトコなんだよね。
「うむ、特に問題はないようですな。では次はハナコ嬢を確認するとしますかな」
「ハナコ、わたしは先ほどの騒ぎの後処理がある。もう行くが、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「お気遣いありがとうございます。シュン様もお気をつけて」
「ありがとう、ハナコ。ケンタもわたしと来てくれ」
「はい、シュン王子」
転移魔法で山田が消えると、それに続いて健太もこの場からぱっといなくなった。
「ちっ、化け物ぞろいでいやがる……」
ロレンツォのついた悪態が聞こえただろうに、リュシアン様はニコニコ顔でわたしに手をかざした。
スルースキルって大事だな。大人の余裕を感じちゃう。
まぁ魔力の弱いわたしにしてみれば、ロレンツォの気持ちも分からないでもないんだけどね。
「ハナコ嬢も問題ないようですな。いま茶でも入れますゆえ、おふたりとももうしばらくゆっくりしていきなされ」
リュシアン様が奥に引っ込んで。
ロレンツォとふたりきりにされて、ちょっと微妙な雰囲気に包まれた。
「お座りになってはいかが? 授業をおさぼりになりたかったのでしょう?」
丸椅子をすすめたのに、ロレンツォってばリュシアン様のひじ置き付きのチェアにどっかりと座りこんだ。
そういうトコやぞ! やることが子供っぽくて、ホント幻滅するって感じ。
「今日の茶うけはたい焼きですじゃ。温めなおしたゆえ熱いうちに食べてくだされ」
自分の椅子に座るロレンツォに文句を言うでもなく、リュシアン様は丸椅子に腰かけた。
ヨボじいを装ってるけど、やっぱりリュシアン様は王者の風格が漂ってるな。
「今日は番茶ですのね。スモーキーで良い香り」
「さすがハナコ嬢。そちらも熱く煎じておりますゆえ、火傷せぬようお気をつけくだされ」
「ふふ、皮がパリパリ。あんこの粒もふっくら炊けていてとっても美味しいですわ」
「さ、そちらの坊も遠慮せずに」
「ちっ、仕方ねぇな……む、これは旨いな」
ロレンツォってば、瞳を輝かせて二個目のたい焼きにまで手を伸ばしてる。
こんな子供っぽいトコロもあるんだ。
「そろそろ次の授業が始まる頃合いですな。おふた方はもうお戻りなされ」
「先生、今日も診てくださってありがとうございました」
「いやいや、何事もなくてわしも安心しましたぞ」
リュシアン様に見送られてロレンツォと保健室を出た。
めんどう事になる前に、さっさと教室に戻ろうっと。
「待て、ハナコ」
「何ですの?」
だから腕をつかまないでったら。ほんと礼儀知らずなオトコでイヤになる。
「わたくし、お礼も言えない殿方に付き合ってるヒマはございませんの」
冷たく言って無理やり手を引きはがす。手はあっさりほどけたけど、ちょっとムッとした顔を返された。
なによ、やる気なの? いざとなったらマサトを召喚してやるんだから。
「礼も何も、俺は何ひとつ頼んだ覚えはない」
「あきれた言い分ですこと。良くして頂いたことに変わりはありませんでしょう?」
「ふん、本心から親切にしているわけでもあるまいに。あいつらはこの俺に何かあったら困るというだけのことだ」
ずいぶんと穿った発言ね。らしくなく自暴自棄な感じだし。
ああ、そっか。ロレンツォってば人質でヤーマダ国に来てたんだっけ。
「まぁ、意外。ロレンツォ様がそんな卑屈な方だったなんて」
「悪いか。国に見捨てられ生贄にされたんだ。卑屈になって当然だろう」
「価値があるからこそ、ロレンツォ様はここにいらっしゃるのでしょう? ご自身にもっと誇りをお持ちになればよろしいのに」
どうでもいい人間だったら、人質として役に立たないもんね。
「イタリーノ国とヤーマダ国、双方の国民の平和を担っていると思えば、そんな大役ほかになかなか見つかりませんわ」
あれ? ロレンツォ変顔してる。なんかサカンバンバスピスみたいじゃない?
ま、いいや。今のうちに教室戻るとしますか。
「ではロレンツォ様、ごきげんよう」
一応、声はかけたけど。
わたしを見送るロレンツォは、ずっとサカバンバスピスのままだった。
「ロレンツォが済んだらハナコも頼みます」
「今日は大忙しですな。おおっと、怪我の有無をスキャンしておりますゆえ、まだ動いてはなりませんぞ?」
手をかざすリュシアン様に、ロレンツォは大きく舌打ちを返した。
ちょっと、その方は我が国の前国王よ? バカにするようなマネ、やめてくんない?
しばらくそんな様子を黙って見守ってたんだけど。
「どうした、ハナコ?」
「いえ、魔法学の授業をさぼってしまったものですから、あとで先生に怒られるか心配で」
「それならわたしからひと言伝えておこう。今日は不測の事態が起きたからな」
「ありがとうございます、シュン様」
山田から言ってもらえれば、おとがめはなしになりそう!
うれしくて素直にお礼を言ったら、見上げた山田の顔が思ったより近くって。
ん? なんでいまだに山田の腕の中にいんの、わたし?
「す、すまない、ハナコっ。流れでついそのままでいてしまったっ」
あわてて手を離した山田。いや、何もそんな遠くまで行かなくっても。
「今日は不測の事態でしたから。助けていただいた身で文句など申し上げませんわ」
「そうか、ならば良かった」
ほっと息をついて、山田は柔らかい笑顔を見せた。
適切な距離感で接してみると、山田ってばかなりできるオトコなんだよね。
「うむ、特に問題はないようですな。では次はハナコ嬢を確認するとしますかな」
「ハナコ、わたしは先ほどの騒ぎの後処理がある。もう行くが、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「お気遣いありがとうございます。シュン様もお気をつけて」
「ありがとう、ハナコ。ケンタもわたしと来てくれ」
「はい、シュン王子」
転移魔法で山田が消えると、それに続いて健太もこの場からぱっといなくなった。
「ちっ、化け物ぞろいでいやがる……」
ロレンツォのついた悪態が聞こえただろうに、リュシアン様はニコニコ顔でわたしに手をかざした。
スルースキルって大事だな。大人の余裕を感じちゃう。
まぁ魔力の弱いわたしにしてみれば、ロレンツォの気持ちも分からないでもないんだけどね。
「ハナコ嬢も問題ないようですな。いま茶でも入れますゆえ、おふたりとももうしばらくゆっくりしていきなされ」
リュシアン様が奥に引っ込んで。
ロレンツォとふたりきりにされて、ちょっと微妙な雰囲気に包まれた。
「お座りになってはいかが? 授業をおさぼりになりたかったのでしょう?」
丸椅子をすすめたのに、ロレンツォってばリュシアン様のひじ置き付きのチェアにどっかりと座りこんだ。
そういうトコやぞ! やることが子供っぽくて、ホント幻滅するって感じ。
「今日の茶うけはたい焼きですじゃ。温めなおしたゆえ熱いうちに食べてくだされ」
自分の椅子に座るロレンツォに文句を言うでもなく、リュシアン様は丸椅子に腰かけた。
ヨボじいを装ってるけど、やっぱりリュシアン様は王者の風格が漂ってるな。
「今日は番茶ですのね。スモーキーで良い香り」
「さすがハナコ嬢。そちらも熱く煎じておりますゆえ、火傷せぬようお気をつけくだされ」
「ふふ、皮がパリパリ。あんこの粒もふっくら炊けていてとっても美味しいですわ」
「さ、そちらの坊も遠慮せずに」
「ちっ、仕方ねぇな……む、これは旨いな」
ロレンツォってば、瞳を輝かせて二個目のたい焼きにまで手を伸ばしてる。
こんな子供っぽいトコロもあるんだ。
「そろそろ次の授業が始まる頃合いですな。おふた方はもうお戻りなされ」
「先生、今日も診てくださってありがとうございました」
「いやいや、何事もなくてわしも安心しましたぞ」
リュシアン様に見送られてロレンツォと保健室を出た。
めんどう事になる前に、さっさと教室に戻ろうっと。
「待て、ハナコ」
「何ですの?」
だから腕をつかまないでったら。ほんと礼儀知らずなオトコでイヤになる。
「わたくし、お礼も言えない殿方に付き合ってるヒマはございませんの」
冷たく言って無理やり手を引きはがす。手はあっさりほどけたけど、ちょっとムッとした顔を返された。
なによ、やる気なの? いざとなったらマサトを召喚してやるんだから。
「礼も何も、俺は何ひとつ頼んだ覚えはない」
「あきれた言い分ですこと。良くして頂いたことに変わりはありませんでしょう?」
「ふん、本心から親切にしているわけでもあるまいに。あいつらはこの俺に何かあったら困るというだけのことだ」
ずいぶんと穿った発言ね。らしくなく自暴自棄な感じだし。
ああ、そっか。ロレンツォってば人質でヤーマダ国に来てたんだっけ。
「まぁ、意外。ロレンツォ様がそんな卑屈な方だったなんて」
「悪いか。国に見捨てられ生贄にされたんだ。卑屈になって当然だろう」
「価値があるからこそ、ロレンツォ様はここにいらっしゃるのでしょう? ご自身にもっと誇りをお持ちになればよろしいのに」
どうでもいい人間だったら、人質として役に立たないもんね。
「イタリーノ国とヤーマダ国、双方の国民の平和を担っていると思えば、そんな大役ほかになかなか見つかりませんわ」
あれ? ロレンツォ変顔してる。なんかサカンバンバスピスみたいじゃない?
ま、いいや。今のうちに教室戻るとしますか。
「ではロレンツォ様、ごきげんよう」
一応、声はかけたけど。
わたしを見送るロレンツォは、ずっとサカバンバスピスのままだった。
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