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第七章 いざ、最終決戦
最後の攻略対象
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彫りの深い甘いマスク。
イタリアにでもいそうなイケメン顔は、ゲームで見たスチルのままだ。
「こんな美人に名前を覚えてもらっているとは光栄だな。しかもあんた、シュン王子のお気に入りじゃないか」
わたしの髪に手を差し込んだ状態で、ロレンツォは意地悪そう片側だけ口角を上げた。
「あんたではございませんわ。わたくしはモッリ公爵家のハナコです」
「ハナコか。変わった名だな」
「リッチ様のお国ではそうかもしれませんが、わが国では代表的な名前ですわ」
役所の記入見本に使われるくらいにはねっ。
「ロレンツォだ。あんた、さっきそう呼んだだろう?」
だからあんたじゃないっつうの。
っていうか、ロレンツォはイタリーノ国の王子様なんだよね。ゲームでは友好の証にフランク学園に留学しに来てるって設定。
そんな相手にこれ以上不敬を働くわけにもいかないし。
「もう手をお離しください、ロレンツォ様」
「なんだ? 急にしおらしくなって」
せせら笑いながら手を引いたロレンツォ、わざとみたいに髪をひと房さらっていって。
「やはり綺麗な髪だな」
「お戯れを」
あわや髪先に口づけられそうなところを、一歩下がって髪を取り戻した。
それ以上気安く触れさせるもんですか。
未希直伝のスンとした顔を向けると、ロレンツォは面白そうにわたしを見やって来る。
「いいな、その目。気に入ったぞ」
なにが気に入ったぞよ。ゲーム進行そのままのセリフ吐かれても、こっちはうれしくもなんともないんですけど。
ってかこのシーン、まんまヒロインイベントじゃんっ。
攻略対象の中では、留学生のロレンツォ・リッチがいちばん好みの顔だったんだよね。だからロレンツォルートだけは内容を自分で覚えてるんだ。
と言っても序盤で飽きちゃったから、ここから先のことはどんな展開か記憶にはないんだけど。
「先ほどはご無礼いたしました。髪も解いてくださってありがとうございます。ではわたくしはこれで失礼いたします」
早口で告げて形ばかりの礼をとる。
いけ好かない相手でも、ロレンツォは他国の王子様だし。上辺だけでも礼儀は尽くしておかないと。
「待て、ハナコ」
「まだなにか?」
「明日の放課後、教室まで迎えに行く。楽しみに待っていろ」
ぎゃっ、なに勝手に手に口づけてんのよっ。
とっさに手を引いたけど、ロレンツォはニヤっと笑って背を向けた。
なにあの余裕。顔がいいだけに文句も言いづらいのがちょっとムカつく。ロレンツォ自身もそれが分かっててやってるっぽいし。
やっぱ性格悪いとしか言いようがないって感じ。
屋敷に帰ってから健太にロレンツォのこと相談したんだけど。
ロレンツォルートは攻略してないから、対策は良く分かんないって言われちゃった。なんでもこのルートでは、悪役令嬢ハナコの出番は本来ないらしい。
未希も忙しいって言ってたしな。ここは自力で乗り切るしかないか。
てなわけで、翌日は放課後を待たずに保健室に避難した。体調不良を言い訳にすれば、ロレンツォを待ってなくても角は立たないだろうしね。
「今日の茶うけはどら焼きですじゃ。ハナコ嬢も遠慮せずに食べてくだされ」
「ありがとうございます、先生。今日はほうじ茶ですのね」
保健医のヨボじいが理事長のリュシアン様ってことは、みんなには内緒ってお願いされたんだ。だからここで会うときは前と変わらず接してる。
「どら焼きにはこの取り合わせいちばんと思うておりましてな」
「確かに、ほうじ茶の香ばしさがあんこの甘さをより一層引き立てますわね」
「おお、さすがはハナコ嬢。よく分かっておられる」
リュシアン様とはこまめに会って、もっと味方になってもらおうって下心もあったんだけど。
普通に茶飲み友達って感じで、話しててなんだかたのしいかも。
「おーい、じっちゃん。俺腹へっちゃって。なんか食いもんないか?」
ガラッとドアが開いたと思ったら、腹ぺこマサトが登場した。
ってか、じっちゃんだなんて気安く呼んだりしてさ。この方は理事長な上、元国王のリュシアン様よ?
事実を知ったら、いくらマサトでも超ビビるだろうな。
「なんだ、ハナコもいたのか。なんかいいもん食ってるな」
「ちょっとマサト!」
リュシアン様の了承も得ずに、並べられたどら焼きを次から次に頬張っていく。
「かっかっか、いつ見ても見事な食べっぷり。まだ箱に入っておりますゆえ、好きなだけ食べてゆきなされ」
「サンキューじっちゃん!」
だからじっちゃんじゃないってば。
「ハナコ、今から帰るんだろ? 馬車まで送っていくぞ」
「あら、ありがとう。じゃあそうしてもらおうかしら」
いつもだったら断るとこだけど。
今日はロレンツォの件があるからね。マサトでも魔除け代わりくらいにはなってくれるかも。
リュシアン様に別れを告げて、マサトと一緒に廊下を進む。
「なぁ、ハナコ。俺が言った通り、召喚札持ち歩いてるか?」
「ちゃんと持ってるわよ。ほら、これ」
「お、エライぞハナコ」
ちょっと、なに頭なでてんのよ。わたしは小さい子供じゃないっつうの。
なんて感じに歩いていたら。
げっ、昇降口でロレンツォが壁にもたれかかって待ってるし。
「やっと来たな、ハナコ」
「あら、ロレンツォ様、ごきげんよう」
目が合っちゃったから逃げるわけにもいかなくて。
挨拶だけして横を素通りしようとした。
「待て」
なに人の二の腕つかんでるのよ。
このゲームの攻略対象、なんでこんなに強引なヤツばっかりなん?
「おい! ハナコから手を離せ」
「なんだ、貴様は?」
ロレンツォの手首をマサトががっちりつかんだ。
バチバチとにらみ合うふたり。ってか、こんなとこで問題起こさないでっ。
「ハナコは今から帰るところだ」
「この俺様に物申すというのか? シュンの腰ぎんちゃく風情が」
「なんだとっ!」
「やめなさい、マサト!」
カっとして手を振り上げそうなマサトを止めてから、ロレンツォに冷たい視線を向けた。
「この手をお離しになって。マサトの言う通りわたくし帰宅するところですのよ」
「逃げるあんたが悪い。昨日俺と約束しただろう?」
「気分が悪くなったことは教室にいた者に伝えさせたはずですわ。それに一方的に誘われただけで、わたくし了承した覚えはございません」
つんと顔をそらすと、なんだか面白そうな顔された。
やば、もしかしてロレンツォってハンター気質? 逃げるほど追いかけられるなんて、マジで勘弁してほしいんですけど。
「それともなんですの? わたくしを無理に従わせるおつもりですか?」
フランク学園では身分を振りかざすのは校則違反だ。
いくらイタリーノ国の王子だからって、留学してきた以上は生徒は生徒。そんなことしたらリュシアン様にチクってやる。
「じゃじゃ馬娘が……ますます気に入った」
ボソッとそうつぶやかれて。
もう、ホントにやめてよ! これで好感度上がるだなんて、ロレンツォも大概なんじゃ。
「いいだろう、今日は見逃してやる。明日また迎えに来る。今度は逃げるなよ」
なによ、上から目線に。デートに誘いたいならもっと言いようがあんでしょうが。
でもこのままじゃマズいな。ようやくここまで来たってのに、今さら攻略対象に振り回されるだなんて。
「でしたら明日、わたくしがロレンツォ様をお茶会に招待いたしますわ。放課後になったら裏庭にいらしてくださいませ」
どうしても避けられないなら、こっち主導で進めた方が変な事態は回避できるだろうし。
「行きましょう、マサト」
返事を待たずにロレンツォに背を向けた。もし来なかったとしても普通にお茶会を楽しめばいいしだけだしね。
っていうか、わたしの残り少ない学園ライフ、これ以上かき乱さないで――――!
イタリアにでもいそうなイケメン顔は、ゲームで見たスチルのままだ。
「こんな美人に名前を覚えてもらっているとは光栄だな。しかもあんた、シュン王子のお気に入りじゃないか」
わたしの髪に手を差し込んだ状態で、ロレンツォは意地悪そう片側だけ口角を上げた。
「あんたではございませんわ。わたくしはモッリ公爵家のハナコです」
「ハナコか。変わった名だな」
「リッチ様のお国ではそうかもしれませんが、わが国では代表的な名前ですわ」
役所の記入見本に使われるくらいにはねっ。
「ロレンツォだ。あんた、さっきそう呼んだだろう?」
だからあんたじゃないっつうの。
っていうか、ロレンツォはイタリーノ国の王子様なんだよね。ゲームでは友好の証にフランク学園に留学しに来てるって設定。
そんな相手にこれ以上不敬を働くわけにもいかないし。
「もう手をお離しください、ロレンツォ様」
「なんだ? 急にしおらしくなって」
せせら笑いながら手を引いたロレンツォ、わざとみたいに髪をひと房さらっていって。
「やはり綺麗な髪だな」
「お戯れを」
あわや髪先に口づけられそうなところを、一歩下がって髪を取り戻した。
それ以上気安く触れさせるもんですか。
未希直伝のスンとした顔を向けると、ロレンツォは面白そうにわたしを見やって来る。
「いいな、その目。気に入ったぞ」
なにが気に入ったぞよ。ゲーム進行そのままのセリフ吐かれても、こっちはうれしくもなんともないんですけど。
ってかこのシーン、まんまヒロインイベントじゃんっ。
攻略対象の中では、留学生のロレンツォ・リッチがいちばん好みの顔だったんだよね。だからロレンツォルートだけは内容を自分で覚えてるんだ。
と言っても序盤で飽きちゃったから、ここから先のことはどんな展開か記憶にはないんだけど。
「先ほどはご無礼いたしました。髪も解いてくださってありがとうございます。ではわたくしはこれで失礼いたします」
早口で告げて形ばかりの礼をとる。
いけ好かない相手でも、ロレンツォは他国の王子様だし。上辺だけでも礼儀は尽くしておかないと。
「待て、ハナコ」
「まだなにか?」
「明日の放課後、教室まで迎えに行く。楽しみに待っていろ」
ぎゃっ、なに勝手に手に口づけてんのよっ。
とっさに手を引いたけど、ロレンツォはニヤっと笑って背を向けた。
なにあの余裕。顔がいいだけに文句も言いづらいのがちょっとムカつく。ロレンツォ自身もそれが分かっててやってるっぽいし。
やっぱ性格悪いとしか言いようがないって感じ。
屋敷に帰ってから健太にロレンツォのこと相談したんだけど。
ロレンツォルートは攻略してないから、対策は良く分かんないって言われちゃった。なんでもこのルートでは、悪役令嬢ハナコの出番は本来ないらしい。
未希も忙しいって言ってたしな。ここは自力で乗り切るしかないか。
てなわけで、翌日は放課後を待たずに保健室に避難した。体調不良を言い訳にすれば、ロレンツォを待ってなくても角は立たないだろうしね。
「今日の茶うけはどら焼きですじゃ。ハナコ嬢も遠慮せずに食べてくだされ」
「ありがとうございます、先生。今日はほうじ茶ですのね」
保健医のヨボじいが理事長のリュシアン様ってことは、みんなには内緒ってお願いされたんだ。だからここで会うときは前と変わらず接してる。
「どら焼きにはこの取り合わせいちばんと思うておりましてな」
「確かに、ほうじ茶の香ばしさがあんこの甘さをより一層引き立てますわね」
「おお、さすがはハナコ嬢。よく分かっておられる」
リュシアン様とはこまめに会って、もっと味方になってもらおうって下心もあったんだけど。
普通に茶飲み友達って感じで、話しててなんだかたのしいかも。
「おーい、じっちゃん。俺腹へっちゃって。なんか食いもんないか?」
ガラッとドアが開いたと思ったら、腹ぺこマサトが登場した。
ってか、じっちゃんだなんて気安く呼んだりしてさ。この方は理事長な上、元国王のリュシアン様よ?
事実を知ったら、いくらマサトでも超ビビるだろうな。
「なんだ、ハナコもいたのか。なんかいいもん食ってるな」
「ちょっとマサト!」
リュシアン様の了承も得ずに、並べられたどら焼きを次から次に頬張っていく。
「かっかっか、いつ見ても見事な食べっぷり。まだ箱に入っておりますゆえ、好きなだけ食べてゆきなされ」
「サンキューじっちゃん!」
だからじっちゃんじゃないってば。
「ハナコ、今から帰るんだろ? 馬車まで送っていくぞ」
「あら、ありがとう。じゃあそうしてもらおうかしら」
いつもだったら断るとこだけど。
今日はロレンツォの件があるからね。マサトでも魔除け代わりくらいにはなってくれるかも。
リュシアン様に別れを告げて、マサトと一緒に廊下を進む。
「なぁ、ハナコ。俺が言った通り、召喚札持ち歩いてるか?」
「ちゃんと持ってるわよ。ほら、これ」
「お、エライぞハナコ」
ちょっと、なに頭なでてんのよ。わたしは小さい子供じゃないっつうの。
なんて感じに歩いていたら。
げっ、昇降口でロレンツォが壁にもたれかかって待ってるし。
「やっと来たな、ハナコ」
「あら、ロレンツォ様、ごきげんよう」
目が合っちゃったから逃げるわけにもいかなくて。
挨拶だけして横を素通りしようとした。
「待て」
なに人の二の腕つかんでるのよ。
このゲームの攻略対象、なんでこんなに強引なヤツばっかりなん?
「おい! ハナコから手を離せ」
「なんだ、貴様は?」
ロレンツォの手首をマサトががっちりつかんだ。
バチバチとにらみ合うふたり。ってか、こんなとこで問題起こさないでっ。
「ハナコは今から帰るところだ」
「この俺様に物申すというのか? シュンの腰ぎんちゃく風情が」
「なんだとっ!」
「やめなさい、マサト!」
カっとして手を振り上げそうなマサトを止めてから、ロレンツォに冷たい視線を向けた。
「この手をお離しになって。マサトの言う通りわたくし帰宅するところですのよ」
「逃げるあんたが悪い。昨日俺と約束しただろう?」
「気分が悪くなったことは教室にいた者に伝えさせたはずですわ。それに一方的に誘われただけで、わたくし了承した覚えはございません」
つんと顔をそらすと、なんだか面白そうな顔された。
やば、もしかしてロレンツォってハンター気質? 逃げるほど追いかけられるなんて、マジで勘弁してほしいんですけど。
「それともなんですの? わたくしを無理に従わせるおつもりですか?」
フランク学園では身分を振りかざすのは校則違反だ。
いくらイタリーノ国の王子だからって、留学してきた以上は生徒は生徒。そんなことしたらリュシアン様にチクってやる。
「じゃじゃ馬娘が……ますます気に入った」
ボソッとそうつぶやかれて。
もう、ホントにやめてよ! これで好感度上がるだなんて、ロレンツォも大概なんじゃ。
「いいだろう、今日は見逃してやる。明日また迎えに来る。今度は逃げるなよ」
なによ、上から目線に。デートに誘いたいならもっと言いようがあんでしょうが。
でもこのままじゃマズいな。ようやくここまで来たってのに、今さら攻略対象に振り回されるだなんて。
「でしたら明日、わたくしがロレンツォ様をお茶会に招待いたしますわ。放課後になったら裏庭にいらしてくださいませ」
どうしても避けられないなら、こっち主導で進めた方が変な事態は回避できるだろうし。
「行きましょう、マサト」
返事を待たずにロレンツォに背を向けた。もし来なかったとしても普通にお茶会を楽しめばいいしだけだしね。
っていうか、わたしの残り少ない学園ライフ、これ以上かき乱さないで――――!
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