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第五章 天は我に味方せり

ゆいなの世界1

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「さっきも言った通り、最初はゲームの世界を楽しんでたんです。ループしてもいろんな攻略対象と遊べるって感覚だったし」

 でも、と長谷川は唇を噛みしめた。

「どのルート選んでも、みんな繰り返し同じ反応しかしないし、結末も決まり切ってて。やっとエンディング迎えたと思ったら、一瞬で入学式に戻っちゃうし」

 で、いい加減飽きてきたってワケか。
 健太が懐柔されるには、イマイチ弱そうな理由なんじゃ? とか思ったり。
 ダメだ、どうしても感情的になっちゃうな。
 でも長谷川に醜態さらすのも悔しいし。ここは未希に丸投げしとこっと。

「今まで何回くらいループしてきたの?」
「十八回くらいまでは覚えてたんですけど、途中で数えるのも面倒になっちゃって。多分、百回とか軽く越えてるんじゃないかな……」

 ひゃ、ひゃっかいっ!?
 そら、気も狂いそうになるわな。未希もちょっと絶句してるし。

「正直言って初めのころは、王子ルートの断罪ざまぁ見てわたしもスカッとしてたんですよね。だけどハナコ様の首が飛んでも、いつもみんなヘラヘラ笑ってて。それでだんだん気持ち悪くなってきちゃって……」

 ぎゃっ、わたしの首が飛ぶ世界線、マジであったりすんのっ。
 ってか長谷川、あんたも初めは笑ってたんか。いくらわたしが気に食わないからって、人間見んぞ、ごるぁっ。

「それでルートを外れるために、ゲーム進行無視して、先に令嬢ハナコとの階段落ちイベントを起こそうとしたってワケ?」
「いえ、あのときは単純に順番間違えちゃって。ゲーム序盤って展開がゆっくりだから、早く先に進めたくってつい先走っちゃいました」

 てへぺろでごまかすんじゃないっ。そのせいでこっちは痛い思いしたんだっつうの。
 と言っても、アレがあったからわたしも記憶を取り戻せたんだけどさ。

「でもそれからゲームの選択肢がおかしくなってきて」
「ゲームの選択肢?」
「いつもだったらイベントに突入すると、目の前に画面が現れるんです。そこにゲームと同じ三択が表示されて」

 タッチパネルを操作をするように、長谷川は手を動かして見せた。
 おおう、いかにも異世界転生って感じだな。

「十回越えるくらいまではちゃんと自分で選んでたんだけど、途中からはどうでもよくなって砂時計任せにしちゃってました」
「え? 選択の砂時計まで出現するの?」

 うなずく長谷川に未希ってば興味津々。
 なんだかだんだんおもしろがってきてたりしない?

「今までは何やっても強制的にイベントが起きてたのに。今回に限って、イベント自体が起きなかったり回避できたりするようになったんです」
「それは華子が階段落ちしたあとから、急にそうなったってこと?」
「はい。ほかにはルート的に起きないはずのイベントが、ランダムに発生するようになってきたりもしてて。だからこのままゲームのシナリオから外れられれば、ループ地獄から抜け出せるかなって」

 それで山田のイベントボイコットしてたのか。
 うん、まぁ理由として一応は納得したって感じ、ではあるんだけど。

「でもその割に長谷川さ、あんたやけにわたしに対して挑戦的だったんじゃない?」

 山田といるときなんか、勝ち誇った顔で腕にしがみついてたし。

「だってぇ、いざとなったら華子先輩に負けるの悔しくなっちゃってぇ」

 だってぇ、じゃないわっ。
 いや、別に長谷川と山田を取り合うつもりはないから、どうでもいいっちゃいいんだけども。

「じゃあこれまで手当たり次第こなしてたイベントは、偶発的なものなのね?」
「シュン王子以外のイベントは、ヒマつぶしって感じです。だってイベント中はみんな、ゆいなのことチヤホヤしてくれるから♡」
「ゆいな……」

 あ、健太がなんだか情けない顔してる。
 ちょっといい気味。長谷川なんかにひっかかるからだよ。

「けんたん、心配しないで。王子たちはただの彼ぴっぴで、ゆいなの彼ぴはけんたんだけだから♡」
「うん俺、ちゃんとゆいなたんを信じてるよ♡」

 ドォウンッ、って地響きがして。
 未希の足元の床が、さっきよりも深くエグレてるんですけどっ。

「ま、大体のことは分かったわ。にしても健太、前はあんなにこの子のこと嫌ってたくせに、一体どんな心境の変化があったってわけ?」

 あ、ソレ、わたしも聞きたかったヤツ。
 だって前世でわたしが死んだきっかけ作ったの、長谷川だよ?
 この世界でだって、あれだけユイナから距離置こうとしてたのに。いくら今の境遇が可哀そうって分かったからって、そんなコロッといっちゃうなんて。

「俺だって初めはゆいなのこと敬遠してたさ。前世で姉ちゃんがあんなことになったのも、全部ゆいなのせいだったし」
「だったらなんでこうなってるのよ?」
「うん……なんて言うか、独りで健気けなげに頑張ってるゆいな見てたら、なんだかほっとけなくなっちゃって」

 いやいやいや、だからって簡単にほだされすぎなんじゃない?
 この小悪魔に負けたかと思うと、姉ちゃん悲しすぎる。

「ほら、未希姉ぇ言ってたじゃんか。華子姉ちゃんのこと、今と昔は違うんだって。だから俺も前世とは別の道を選択しようと思って」
「そ。ならいいわ」
「え? それで納得しちゃうの?」

 そんな未希まで。あり得ないでしょ。

「いくら前と同じ面子めんつが揃ってるって言っても、同じ人生歩まなくってもいいじゃないって話なだけよ」
「うん、そう言うこと」
「健太は前世で、ロクでもない女に引っかかって二度も離婚した上に、莫大な慰謝料取られて継いだ会社潰しかけたしね」
「うわっ、未希姉ぇ、俺の黒歴史バラすなって」

 なぬっ、健太バツ二やったんか。
 しかもうちの会社の倒産危機とか聞いてないんですけど。

「ちなみにメタボな中年ハゲになってたし」
「未希姉ぇ、もうやめてっ」
「え、やだ健太くん。ハゲたりしたら、ゆいなソク別れるからね?」
「ゆいなまでっ。俺、大学で魔法薬学専攻するつもりだから! いい薬開発して絶対にハゲたりしないって誓うしっ」
「ほんとう? 約束だよ?」

 健太と長谷川の夫婦漫才見てたら、なんだか眩暈めまいしてきたんですけどっ。
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