【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

文字の大きさ
上 下
39 / 78
第五章 天は我に味方せり

健太、裏切りのバラード1

しおりを挟む
 だんだんと秋も深まって。
 今日も山田と廊下ですれ違ったけど、目礼だけしてそそくさとその場を離れた。
 そんなときはいつまでも背中に視線を感じるんだ。

 ふと周りを見ると、そこに山田がいることも多くって。
 あっちにはまだまだ未練が残ってるっぽいけど、気づかないふりを貫いてる。

 王子の想いを無視する公爵令嬢。
 なんて図式が成立している中で、周りも遠巻きにそれを見守ってるみたい。
 時々ダンジュウロウとマサトの襲撃を食らうくらいで、余計な口出しされないのは正直助かってるんだけど。

「そういえばハナコ様、お聞きになりまして?」
「なにかしら?」

 取り巻き令嬢のひとりが何やら内緒話を持ちかけてきた。
 あの一件以来、取り巻きの数も激減してる。王妃候補じゃなくなったって思ったら、みんな離れるのが早いこと早いこと。
 残っているのは昔からいる令嬢か、何も考えていないお人好しって感じ。

「ユイナ・ハセガー男爵令嬢ですわ。近ごろ見かけないと思ったら、どうやら自宅謹慎を命じられていたようですのよ」
「まぁ、自宅謹慎を?」
「何でも校則違反をしたんだとか」
「その話ならわたくしも聞きましたわ。近くに住む生徒が申しておりましたの。家の庭でぼんやりと花壇に水をまく姿を最近よく見かけるんですって」

 一瞬ドキッとしちゃったけど。
 そっか、ユイナ無事に釈放されたんだ。
 自宅謹慎ってことは、まだ疑いが晴れたわけじゃないのかな……?
 帰ったら健太に聞いてみなくっちゃ。

 って思ったんだけど、なかなか時間が合わなくて。
 健太も忙しいのか、ここんとこ帰りが遅い日も多くてさ。休日もどこかへ出かけてるみたい。
 ふたりきりで話す機会が作れないまま、そうこうしてるうちにユイナのことも忘れかけてたんだ。

 そんなある夜、魔法実技の試験に向けて自主練してたんたけど。
 目の前の床にはティッシュがいくつか散らばってる。
 またひとつ丸めては、魔法を使ってゴミ箱へと放り込もうとした。

「ダメだわ。魔力を使うのは一度に三回が限界かも」

 ティッシュは手のひらに乗ったままで、ピクリとも動かなかった。
 ゴミ箱に届く以前の問題って感じ。

 繰り返すたびに飛距離も精度も下がっていくし。これは集中力を高めて一回で成功させないと、試験に合格するのは難しいかも。
 でも初めに比べれば上達してるよね。地道に訓練がんばらないと。

 とはいえ、あんま無理すると魔力切れで寝込むことになっちゃうしな。
 夜更かしは美容の大敵ってことで、今夜はもう寝ようっと。

「あ、魔石カイロが冷えてる」

 朝夕は寒くなってきたから、これがあった方が熟睡できるんだよね。
 一瞬メイドを呼ぼうとしたけど、もう遅い時間だし。
 以前のハナコなら真夜中だろうと気にはしなかったけど。新生ハナコとして、今夜は我慢するとしますか。

(あ、でも健太に頼むってのはどう?)

 さすがにこの時間なら部屋にいるだろうし、ユイナの件も気になってたし。
 もし寝てたら諦めればいいや。
 そんな軽い気持ちで健太の部屋に向かった。

「健太、こんな時間にごめんね? ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 控えめにノックしたけど返事はなくて。
 やっぱ寝ちゃってるのかな?
 なんとなくノブを回すと、鍵はかかっていなかった。

 部屋の電気は明るくて、まだ起きてるんだなって思った。健太って昔から、真っ暗にしないと寝られない子だったからね。

「ねぇ健太? いる?」

 声をかけながら中に入った。部屋と言っても居間と寝室とクローゼットに分かれてるから、奥の寝室でもう寝ちゃってるのかも。

(ん? 寝室も電気ついてるっぽいな)

 ドアの隙間から明かりが漏れてるし。

「ごめんね健太。返事なかったから勝手に入ってきちゃった」
「あ、華子先輩。おじゃましてまぁす」

 固まって、思わずごしごしと目をこすった。
 健太のベッドの上で、雑誌を広げたユイナが寝そべっている。しかもお菓子を食べ散らかしてるし。

「は? ユイナ? なんであなたがここに……?」
「ゆいなた~ん、お・ま・た・せ! コック叩き起こして美味しいケーキ焼いてもらったよん!」
「わぁ~い、けんたんありがとうっ。ゆいな、かんげきっ」

 振り向くと、ホールケーキを大皿に乗せた健太が満面の笑みで立っていた。

「あれ? 姉ちゃん来てたんだ」
「あれ、じゃないわぃ、このボケ茄子ナスがっ」
「やだぁ、華子先輩こわぁい」

 健太の胸ぐらをつかむと、落ちそうになったケーキがお皿ごと宙に浮かんだ。そのままフワフワただよって、ユイナの手の上に着地する。

「わぁっ、おいしそう~。さっすが公爵家、いっただっきまぁ~す♡」
「待ていっ」

 殺気を込めてティッシュを飛ばすと、弾丸のごとくユイナの握るフォークを強くはじいた。
 うをっ、何たる快挙……!
 ってか、そんなこと言ってる場合じゃないっ。

「え~、華子先輩のけちぃ。せっかく健太くんがゆいなのために焼いてくれたのにぃ」

 焼いたのはうちのコックじゃっ。
 ぶーぶー言ってるユイナを無視して、ぎりっと健太を睨みつけた。

「今すぐ呼んできて」
「え? 誰を?」
「未希に決まってるでしょ!」
「こんな時間に? いや、無理だって」
「転移魔法があんでしょうがっ」

 血走った目のまま肩で息をしていると、どうどうと健太がなだめてきやがった。

「落ち着いて、姉ちゃん」
「これが落ち着いていられるかっ」
「いきなり部屋に行ったりしたら、俺、未希姉ぇに殺されるって」
「知らないわよっ。無理でもなんでも今すぐ連れてきなさいっ!」
「わ、分かったよ」

 わたしの剣幕に押されたのか、目の前から健太がぱっといなくなった。

「あ、健太くん、気をつけてね~」

 のんきにひらひらと手を振ったユイナと、ふたり部屋に残されて。

 ってか、こんな裏切りってある!?
 何がどうしたらこうなるんだっつうの!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

処理中です...