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第四章 その王子、瓶底眼鏡につき
だってアレ、山田だから
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「ハナコ様、起きていても大丈夫なのですか?」
「ええ、熱はもう下がったから。ジュリエッタ、いつもお見舞いありがとう」
使用人たちを部屋から追い出すと、気が抜けて大きなため息が出た。
正直言ってまだ体がだるい。雪山から帰って一週間は経つけど、高熱が出て学園は休学中だ。
ってか、ハナコって体力なさ過ぎでしょ。これからは肉体改造がんばらないと。
「あんた、ほんとに平気なの? まだしんどそうに見えるけど」
「少しは体動かさないとね。このままだと寝たきりになりそうでさ」
それにそろそろ雪山であったこと、ぜんぶ答え合わせしときたい。
「ごめん姉ちゃん、待った?」
「大丈夫、未希もいま来たところだから」
健太も来てくれて、雪山イベント反省会の始まりだ。
「あった出来事をまとめると、総じてユイナ、ひとつもイベントこなしてねぇな」
「遭難時のシュン王子とハナコのやりとりも、まんまヒロインイベントだしね」
う、やっぱり? うすうすそうじゃないかとは思ってたけど。
でもだったらなおのこと、山田に罪悪感なんて持つ必要はないのかも。
「ユイナのヤツ、何考えてんだ? 自分から王子ルートを選んだくせに」
「それもそうだけど……なんでわたしにヒロインイベントが発生するんだろう」
「そこなのよね。悪役令嬢ポジションのハナコが全部肩代わりしてる勢いだし」
話はそこで行き詰った。なんか堂々巡りでさ。
こんなんじゃ、わたし断罪を回避できるかも分かんない。対策立てようにも何をどうすればいいのって感じだよ。
「ユイナは最近どうしてるの?」
「生徒会では相変わらずかな。誰彼なく細かいイベントこなしてる」
「まったくやる気がないわけじゃないみたいね」
「俺、思うんだけどさ。もしかしてユイナもゲームの強制力で動かされてるんじゃないのかな?」
「ユイナも強制力で……?」
その線は考えたことなかったな。でもイマイチ納得できなくって。
「わたしから見ると、ユイナって自分の意思で動いてるように思えるけど」
「華子の話聞いてるとわたしもそう思う」
「未希姉ぇも? なんで?」
「だってあの子がいちばんゲームから逸れるような行動とってるし」
「しかも率先してやってる感じする」
うーん、とみんな同時に首をひねった。
こんなへんてこな世界じゃ、三人寄っても何の知恵にもならないみたい。
「結局ユイナってどうしたいんだろ? そもそも最初に階段落ちのイベントを起こそうとしたのはユイナでしょう? なのにここに来て山田とのイベントボイコットするなんてさ」
はじめっから王子ルートを狙ってたとしか思えないのに。
「華子、そのことなんだけどさ……健太と覚えてるゲーム内容のすり合わせしたんだけど、やっぱりあの子おかしいのよ」
「おかしいって何が?」
ユイナがおかしいなんてことは、とっくのとうに知ってるし。
それにしちゃ、やけに未希の顔が神妙だ。
「ヒロインと悪役令嬢の階段イベント、あれ、本来なら王子ルートが確定したあとに起きるハズだったのよ」
「え? でもあのときユイナ、『どうして自分を突き落とさないんだ』って」
「わたしが思うに、ゲーム知識が曖昧か、何かを焦ってるのか。そのどっちかなんじゃないのかな?」
ゲーム知識が曖昧ってのはともかくとして。
「焦る? ユイナが何を?」
「ソコはあの子に聞いてみないと分かんないけど」
「ここまで来るとユイナ本人に真意を確かめるしかないのかもな」
うん、健太の言う通りかも。
これ以上議論してても、わたしたちだけじゃドン詰まりって感じ。
「健太の言うことも一理あるけど……あの子と交渉するのはもろ刃の剣な面もあるし」
「よかったらさ、その件、俺に任せてくんない?」
「でも大丈夫? 健太は攻略対象だし、ユイナに取り込まれたりしないか心配だよ」
「そこは上手くやる。ユイナとは生徒会で顔合わせるのもしょっちゅうだし、この中じゃ俺がいちばん適任だって思うからさ」
「じゃあ、ユイナの件は健太に任せるってことで。その代わり健太は逐一うちらに報告すること。華子もそれでオッケー?」
未希にそう言われたら頷くしかなかった。
健太なら上手くやってくれると信じるしかないよね。
「はぁ、この先どうなってくんだろ。わたしのギロチンエンド、ちゃんと回避できるのかな……」
「この流れじゃハナコの断罪なんて起こりそうに思えないけど。シュン王子、あんたしか眼中にないって感じだし」
「だけど山田にいつ強制力が働くか分からないじゃん」
「姉ちゃん、それなんだけどさ。シュン王子見てると、イベントに参加しつつ流れに逆らってるように見えるんだよね」
「流れに逆らう?」
ソレってどういうこと?
わたしが首をかしげてると、健太もうーんて首かしげてる。
って、言い出したのあんたでしょうが。
「その、なんて言ったらいいのかな……シュン王子って一応シナリオ通りの言動はするんだけど、ちっとも心がこもってない、みたいな?」
「あ、ソレなんかわかる。ほら、この前のユイナのお茶会でも、ヒロインに言うべきセリフをわざわざハナコに言いに来たでしょ?」
あー、そんなこともあったっけ。
山田の言動もナゾのままだし、コレも頭痛の種って感じだよ。
「ね、健太、シュン王子ってゲームの記憶はなさそうなんだよね?」
「うん、俺から見て、王子はぜんぶ無意識でやってるように思う」
そりゃそうだよね。前世での山田、乙女ゲームとか無縁そうな人種だったし。
「でもじゃあどうして山田はわたしに固執するんだろう?」
「何か身に覚えはないの? これまでのハナコの記憶の中でさ」
ハナコは公爵令嬢だから、王子の山田に謁見する機会は子どものころから何度もあったけど。
「これといったエピソードは思いあたらないなぁ。学園に入学する以前は、あくまで王子と貴族令嬢って関係だったし」
「悪役令嬢ハナコとしては王子のことどう思ってたのよ? あんたが記憶を取り戻す前は、王子の言動にハナコもまんざらじゃない感じで振る舞ってたけど?」
「ハナコ時代はぶっちゃけ選民意識を持ってたってだけかな。恋愛感情って言うよりも、身分的に自分が王子に選ばれて当然的な?」
「なるほど。どっちにしてもシュン王子ご愁傷サマって感じだね。想いがマッタク報われてないし」
「そんな言われてもっ」
ハナコとして生きてきた記憶も、その時のハナコの感情だとかも。
華子を思い出した今でも、ちゃんとぜんぶ覚えてるけど。
だからと言ってふたりが同一人物かというと、自分でも「どうなんだろ?」ってなる。わたしがハナコだってことは否定しないけどさ。
「なぁ、華子姉ちゃん。もしこの先ずっと、シュン王子が姉ちゃんのこと好きなままでいたら、姉ちゃんはどうする?」
いきなりどしたの健太?
なんかシリアスモードになってない?
「どうするって……このまま山田に強制力が働かなかったらってこと?」
「うんそう。断罪イベントも起らなくて、エンディングの卒業パーティーで姉ちゃんがシュン王子に選ばれたとしたら……」
「え、冗談。そんなの全力で拒否するに決まってるじゃん」
「どうして? だって姉ちゃん日本では」
「健太っ!」
うをっ、今度は未希の顔が怖くなってるし。
今のやり取りん中で、未希が怒る要素どこかにあった?
「ど、どしたの、未希?」
「華子、もう一回だけ聞いとくけど、あんた王子と結ばれる路線には行きたくないんだよね?」
「う、うん。それだけは絶対にイヤ」
「姉ちゃんさ、なんでそこまでシュン王子嫌がるの?」
「だってアレ、山田だから」
ってか、健太こそどうしてそんなに山田推し!?
健太のヤツ、まだなんか言いたそうだな。でもそれを未希が視線で射殺してるし。
ホント、ふたりともどうしちゃったっての? わたしのことで揉めてるみたいに見えるけど。
「とにかく! 今は今、昔は昔。いいわね、健太?」
「分かったよ、未希姉ぇ」
いや、華子、ちっとも分かんない。
「ちょっと未希、わたしだけ蚊帳の外みたく感じるんだけど」
「今の華子の意思を尊重しようってだけの話よ」
「そなの? なら別にいんだけどさ」
でも結局よく分かんないままって感じだし。
これ以上は黙っとくのが賢明かな。食い下がると未希の逆鱗に触れちゃいそう。
「ちなみにさ、姉ちゃんはシュン王子のどこが嫌なのかだけ聞いてもいい?」
「どこって……瓶底眼鏡?」
「え、ソコなの?」
「そんな呆れたように言わないでよ。未希だって生理的に受け付けない男から言い寄られたって困るでしょう?」
「そりゃそうだけどさ。ま、華子、昔っから面食いだもんね。イケメン探すためダケに海外の大学行こうとするくらいだし」
そうなんだよ! わたし日本で高校卒業したあと、外国の大学通うはずだったんだ。
死に物狂いで勉強して英会話も頑張って、晴れて海外生活が始まるってとこだったのに。
長谷川ゆいなともみ合ったばっかりに階段から転げ落ちてさ。気づいたらゲームの世界で悪役令嬢やってたなんて、ホントどうゆうこと!?
「華子姉ちゃん、シュン王子の素顔って見たことないの?」
「ないけど。そういう健太は見たことあんの?」
「いや、ないけど」
山田の素顔? そんなこと考えたこともなかったな。
もはや瓶底眼鏡は山田の一部って感じだし。
「あー、だったら王子が眼鏡とった姿、一度確認してみたら? 意外と華子好みのイケメンだったりして」
「そうそう。ホラ、よくあんじゃん。眼鏡とったら美形だったってパターン」
「は? 何バカなこと言ってんの。そんな漫画みたいなことあるわけないでしょ?」
あってせいぜい、英数字の三がふたつ並んだような、33ショボ目に決まってるって。
「そんなこと言わずにさ、姉ちゃん、シュン王子に頼んで見せてもらいなよ」
「健太、あんたなんでそんなに山田にこだわんのよ?」
ん? どうしてそこでまた未希の顔を伺うんだ?
このふたり、なんかわたしに隠してる?
「でも、ま、そうね。華子はシュン王子の素顔を確認すること。コレ、華子の必須課題ね」
「もう! なんで未希までそんなこと言うの!」
「なんでって、ただの興味本位?」
面白がってるだけ!?
ってか、山田の顔知ったところでどうするつもりっ。
「そうすれば健太も納得するでしょう?」
「うん、する」
「なんでそこで健太が出てくんの?」
「いいからいいから。健太はユイナと接触して情報収集。華子は回復次第、王子の顔を拝むこと。これ今日の会議の決定事項ってことで」
「えー」
ぶーたれた顔をすると、未希が途端にすんってなった。
「……華子、返事は?」
「全力で了解いたしましたっ」
病み上がりの親友にこの仕打ちっ。
やっぱ未希ちゃん、いちばんコワイっ。
「ええ、熱はもう下がったから。ジュリエッタ、いつもお見舞いありがとう」
使用人たちを部屋から追い出すと、気が抜けて大きなため息が出た。
正直言ってまだ体がだるい。雪山から帰って一週間は経つけど、高熱が出て学園は休学中だ。
ってか、ハナコって体力なさ過ぎでしょ。これからは肉体改造がんばらないと。
「あんた、ほんとに平気なの? まだしんどそうに見えるけど」
「少しは体動かさないとね。このままだと寝たきりになりそうでさ」
それにそろそろ雪山であったこと、ぜんぶ答え合わせしときたい。
「ごめん姉ちゃん、待った?」
「大丈夫、未希もいま来たところだから」
健太も来てくれて、雪山イベント反省会の始まりだ。
「あった出来事をまとめると、総じてユイナ、ひとつもイベントこなしてねぇな」
「遭難時のシュン王子とハナコのやりとりも、まんまヒロインイベントだしね」
う、やっぱり? うすうすそうじゃないかとは思ってたけど。
でもだったらなおのこと、山田に罪悪感なんて持つ必要はないのかも。
「ユイナのヤツ、何考えてんだ? 自分から王子ルートを選んだくせに」
「それもそうだけど……なんでわたしにヒロインイベントが発生するんだろう」
「そこなのよね。悪役令嬢ポジションのハナコが全部肩代わりしてる勢いだし」
話はそこで行き詰った。なんか堂々巡りでさ。
こんなんじゃ、わたし断罪を回避できるかも分かんない。対策立てようにも何をどうすればいいのって感じだよ。
「ユイナは最近どうしてるの?」
「生徒会では相変わらずかな。誰彼なく細かいイベントこなしてる」
「まったくやる気がないわけじゃないみたいね」
「俺、思うんだけどさ。もしかしてユイナもゲームの強制力で動かされてるんじゃないのかな?」
「ユイナも強制力で……?」
その線は考えたことなかったな。でもイマイチ納得できなくって。
「わたしから見ると、ユイナって自分の意思で動いてるように思えるけど」
「華子の話聞いてるとわたしもそう思う」
「未希姉ぇも? なんで?」
「だってあの子がいちばんゲームから逸れるような行動とってるし」
「しかも率先してやってる感じする」
うーん、とみんな同時に首をひねった。
こんなへんてこな世界じゃ、三人寄っても何の知恵にもならないみたい。
「結局ユイナってどうしたいんだろ? そもそも最初に階段落ちのイベントを起こそうとしたのはユイナでしょう? なのにここに来て山田とのイベントボイコットするなんてさ」
はじめっから王子ルートを狙ってたとしか思えないのに。
「華子、そのことなんだけどさ……健太と覚えてるゲーム内容のすり合わせしたんだけど、やっぱりあの子おかしいのよ」
「おかしいって何が?」
ユイナがおかしいなんてことは、とっくのとうに知ってるし。
それにしちゃ、やけに未希の顔が神妙だ。
「ヒロインと悪役令嬢の階段イベント、あれ、本来なら王子ルートが確定したあとに起きるハズだったのよ」
「え? でもあのときユイナ、『どうして自分を突き落とさないんだ』って」
「わたしが思うに、ゲーム知識が曖昧か、何かを焦ってるのか。そのどっちかなんじゃないのかな?」
ゲーム知識が曖昧ってのはともかくとして。
「焦る? ユイナが何を?」
「ソコはあの子に聞いてみないと分かんないけど」
「ここまで来るとユイナ本人に真意を確かめるしかないのかもな」
うん、健太の言う通りかも。
これ以上議論してても、わたしたちだけじゃドン詰まりって感じ。
「健太の言うことも一理あるけど……あの子と交渉するのはもろ刃の剣な面もあるし」
「よかったらさ、その件、俺に任せてくんない?」
「でも大丈夫? 健太は攻略対象だし、ユイナに取り込まれたりしないか心配だよ」
「そこは上手くやる。ユイナとは生徒会で顔合わせるのもしょっちゅうだし、この中じゃ俺がいちばん適任だって思うからさ」
「じゃあ、ユイナの件は健太に任せるってことで。その代わり健太は逐一うちらに報告すること。華子もそれでオッケー?」
未希にそう言われたら頷くしかなかった。
健太なら上手くやってくれると信じるしかないよね。
「はぁ、この先どうなってくんだろ。わたしのギロチンエンド、ちゃんと回避できるのかな……」
「この流れじゃハナコの断罪なんて起こりそうに思えないけど。シュン王子、あんたしか眼中にないって感じだし」
「だけど山田にいつ強制力が働くか分からないじゃん」
「姉ちゃん、それなんだけどさ。シュン王子見てると、イベントに参加しつつ流れに逆らってるように見えるんだよね」
「流れに逆らう?」
ソレってどういうこと?
わたしが首をかしげてると、健太もうーんて首かしげてる。
って、言い出したのあんたでしょうが。
「その、なんて言ったらいいのかな……シュン王子って一応シナリオ通りの言動はするんだけど、ちっとも心がこもってない、みたいな?」
「あ、ソレなんかわかる。ほら、この前のユイナのお茶会でも、ヒロインに言うべきセリフをわざわざハナコに言いに来たでしょ?」
あー、そんなこともあったっけ。
山田の言動もナゾのままだし、コレも頭痛の種って感じだよ。
「ね、健太、シュン王子ってゲームの記憶はなさそうなんだよね?」
「うん、俺から見て、王子はぜんぶ無意識でやってるように思う」
そりゃそうだよね。前世での山田、乙女ゲームとか無縁そうな人種だったし。
「でもじゃあどうして山田はわたしに固執するんだろう?」
「何か身に覚えはないの? これまでのハナコの記憶の中でさ」
ハナコは公爵令嬢だから、王子の山田に謁見する機会は子どものころから何度もあったけど。
「これといったエピソードは思いあたらないなぁ。学園に入学する以前は、あくまで王子と貴族令嬢って関係だったし」
「悪役令嬢ハナコとしては王子のことどう思ってたのよ? あんたが記憶を取り戻す前は、王子の言動にハナコもまんざらじゃない感じで振る舞ってたけど?」
「ハナコ時代はぶっちゃけ選民意識を持ってたってだけかな。恋愛感情って言うよりも、身分的に自分が王子に選ばれて当然的な?」
「なるほど。どっちにしてもシュン王子ご愁傷サマって感じだね。想いがマッタク報われてないし」
「そんな言われてもっ」
ハナコとして生きてきた記憶も、その時のハナコの感情だとかも。
華子を思い出した今でも、ちゃんとぜんぶ覚えてるけど。
だからと言ってふたりが同一人物かというと、自分でも「どうなんだろ?」ってなる。わたしがハナコだってことは否定しないけどさ。
「なぁ、華子姉ちゃん。もしこの先ずっと、シュン王子が姉ちゃんのこと好きなままでいたら、姉ちゃんはどうする?」
いきなりどしたの健太?
なんかシリアスモードになってない?
「どうするって……このまま山田に強制力が働かなかったらってこと?」
「うんそう。断罪イベントも起らなくて、エンディングの卒業パーティーで姉ちゃんがシュン王子に選ばれたとしたら……」
「え、冗談。そんなの全力で拒否するに決まってるじゃん」
「どうして? だって姉ちゃん日本では」
「健太っ!」
うをっ、今度は未希の顔が怖くなってるし。
今のやり取りん中で、未希が怒る要素どこかにあった?
「ど、どしたの、未希?」
「華子、もう一回だけ聞いとくけど、あんた王子と結ばれる路線には行きたくないんだよね?」
「う、うん。それだけは絶対にイヤ」
「姉ちゃんさ、なんでそこまでシュン王子嫌がるの?」
「だってアレ、山田だから」
ってか、健太こそどうしてそんなに山田推し!?
健太のヤツ、まだなんか言いたそうだな。でもそれを未希が視線で射殺してるし。
ホント、ふたりともどうしちゃったっての? わたしのことで揉めてるみたいに見えるけど。
「とにかく! 今は今、昔は昔。いいわね、健太?」
「分かったよ、未希姉ぇ」
いや、華子、ちっとも分かんない。
「ちょっと未希、わたしだけ蚊帳の外みたく感じるんだけど」
「今の華子の意思を尊重しようってだけの話よ」
「そなの? なら別にいんだけどさ」
でも結局よく分かんないままって感じだし。
これ以上は黙っとくのが賢明かな。食い下がると未希の逆鱗に触れちゃいそう。
「ちなみにさ、姉ちゃんはシュン王子のどこが嫌なのかだけ聞いてもいい?」
「どこって……瓶底眼鏡?」
「え、ソコなの?」
「そんな呆れたように言わないでよ。未希だって生理的に受け付けない男から言い寄られたって困るでしょう?」
「そりゃそうだけどさ。ま、華子、昔っから面食いだもんね。イケメン探すためダケに海外の大学行こうとするくらいだし」
そうなんだよ! わたし日本で高校卒業したあと、外国の大学通うはずだったんだ。
死に物狂いで勉強して英会話も頑張って、晴れて海外生活が始まるってとこだったのに。
長谷川ゆいなともみ合ったばっかりに階段から転げ落ちてさ。気づいたらゲームの世界で悪役令嬢やってたなんて、ホントどうゆうこと!?
「華子姉ちゃん、シュン王子の素顔って見たことないの?」
「ないけど。そういう健太は見たことあんの?」
「いや、ないけど」
山田の素顔? そんなこと考えたこともなかったな。
もはや瓶底眼鏡は山田の一部って感じだし。
「あー、だったら王子が眼鏡とった姿、一度確認してみたら? 意外と華子好みのイケメンだったりして」
「そうそう。ホラ、よくあんじゃん。眼鏡とったら美形だったってパターン」
「は? 何バカなこと言ってんの。そんな漫画みたいなことあるわけないでしょ?」
あってせいぜい、英数字の三がふたつ並んだような、33ショボ目に決まってるって。
「そんなこと言わずにさ、姉ちゃん、シュン王子に頼んで見せてもらいなよ」
「健太、あんたなんでそんなに山田にこだわんのよ?」
ん? どうしてそこでまた未希の顔を伺うんだ?
このふたり、なんかわたしに隠してる?
「でも、ま、そうね。華子はシュン王子の素顔を確認すること。コレ、華子の必須課題ね」
「もう! なんで未希までそんなこと言うの!」
「なんでって、ただの興味本位?」
面白がってるだけ!?
ってか、山田の顔知ったところでどうするつもりっ。
「そうすれば健太も納得するでしょう?」
「うん、する」
「なんでそこで健太が出てくんの?」
「いいからいいから。健太はユイナと接触して情報収集。華子は回復次第、王子の顔を拝むこと。これ今日の会議の決定事項ってことで」
「えー」
ぶーたれた顔をすると、未希が途端にすんってなった。
「……華子、返事は?」
「全力で了解いたしましたっ」
病み上がりの親友にこの仕打ちっ。
やっぱ未希ちゃん、いちばんコワイっ。
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