【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

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第四章 その王子、瓶底眼鏡につき

雪山を甘く見るんじゃねぇ

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「いたいた! 探したよ、ジュリエッタ嬢っ」

 ほかほか湯上りで未希と歩いていたら、血相を変えた健太が駆け寄ってきた。

「ケンタ? あなたその姿……」

 包帯グルグル巻きで痛々しいんですけど。
 もしかして健太も女湯のぞこうとしたんか。うわ、見損なったし。

「ちがっ、ちゃんとみんなを止めようとしたんだって。なのに俺までとばっちり食ってさ」

 あー、うん、水って電気通すもんね。
 それにしてもアレ、未希の仕業って分かってるんだ。

「回復魔法、まるで効かなくて困り果ててたんだ。それどころか傷が悪化する一方で……」
「ケンタ様、因果応報って言葉、ご存じですか?」

 にっこり返す未希の目、これっぽっちも笑ってないし。
 健太も引きつった顔してる。わたしら姉弟、未希の怖さは身に染みて分かってるもんね。

「そんなこと言わずにさ、未希姉ぇ、頼むよ」
「ちっ、仕方ないわね」

 やだ、ふたりとも素が出てるってば。
 そう突っ込む間もなく、未希が魔力を使って健太の傷を癒していく。

「助かったよ、ジュリエッタ嬢。それで……先輩たちもかなり状態ヤバくって」
「この貸しは大きいですわよ?」
「ふたりにはよくよく言っとくからっ」

 結局、救護室まで行って未希が回復魔法で治療したんだけど。
 マサトがいちばんヒドイ怪我してて。多分、率先して女湯のぞこうとしたんだろうな。

 にしても意外だったのがダンジュウロウ。健太以上に大怪我負っててさ。
 君、真面目な顔してムッツリやったんか? 副会長のクセに風紀乱してんなっつうの。

 ってか、ふたりとも未希にやられたのに心から未希に感謝してるし。まさに知らぬが仏ってやつだな。

(でもまぁ、裸を見られそうになった立場としては、同情する気にもなれないけど)

 そういや、山田はどうしたんだろ?
 王子ルートのイベントなんだから、真っ先に盗み見してそうなのに。

「ねぇ、ケンタ。シュン様はご一緒じゃなかったの?」
「そういやシュン王子、露天風呂には来てなかったな……」

 ん? 健太、何やら考え込んでるぞ。
 ってことは、ゲームではのぞきイベントに王子も参加してたのかな? 旅行から帰ったら反省会開いて確かめないと。

(もう、シナリオの進行めちゃくちゃじゃない)

 事前に打ち合わせした王子ルートと全然違ってきてるし。
 悪役令嬢がヒロインイベントこなしてんじゃねぇって、いつも未希に怒られるけどさ。
 これってどう考えてもユイナが仕事しないせいだよね。絶対にわたしは悪くないって感じ。

(ユイナ、遭難イベントだけはしっかりこなしてよ……!)

 てな感じで時間が過ぎて、夕食の時刻に。
 食堂に向かったら、なんだか慌ただしい雰囲気で。

「ダンジュウロウ様、どうかなさったの?」
「いや、スキー直後からシュン王子の姿が見えないんだ」
「シュン様の?」

 表面では驚きつつも、内心しめしめだ。きっとユイナがいないのに気がついて、外に探しに行ったに違いない。

 ユイナをおびき出した場所は、言ってもこのロッジのすぐとなりにある小屋だ。吹雪で遭難したと見せかけて、実は歩いて一分のところに居たってオチ。

「ハナコんトコにシュン王子行かなかったか?」
「いいえマサト、わたくしたちの部屋には来られなかったわ。ね、ジュリエッタ」
「ええ、ハナコ様」
「ダンジュウロウ先輩、とにかくシュン王子を探しましょう」
「ああ、そうだなケンタ」

 未希も健太も戸惑った顔してる。ぜんぶ事情知ってるクセに、ふたりともなかなか演技派だな。

 手分けして探すふりして、未希と健太とわたしで人気(ひとけ)のないとこまで行った。

「ちょっと展開おかしくない?」
「あ、未希姉ぇもそう思う?」

 え、何が? 順調そのものじゃないの?

「ゲームでは夕食時にヒロインがいないのが発覚して、それから王子が探しに行くんだったわよね?」

 あ、そっか。王子がヒロインどこ行ったって騒ぎ立てて、そんときに悪役令嬢が口を滑らすんだよ。『あの子ならオトコと逢引きしに外に出て行きましたわよ』ってね。

 このセリフ、悪役令嬢っぽく聞こえるよう、しっかり練習してきたんだけどな。
 シナリオではヒロインに限ってそんなハズはないと、王子が雪の中飛び出していくんだけど。

「ユイナもいないみたいだし、先に探しに行ったんじゃ……?」

 そうは言っても山田捜索は形だけでも続けないとなんなくて。
 健太とは二手に分かれて、未希と一緒にそれらしく探し回っていたんだけど。

「あ、ハナコ様」

 ってか、ユイナ!? な、なんであんたがまだココにいんのよ?

「わたしうっかり寝入っちゃって。夕食の時間、まだ間に合いそうですかぁ?」
「あなたどうして……」
「ああ、手紙ならシュン王子に渡しときましたよ?」

 は? 何言ってんの?

「だってあの文字、どう見てもハナコ様が書いたやつだったし」
「な、なに訳の分からないことを」
「あれ、ハナコ様知らないんですか? 最近のインクって、文書偽造防止のために書いた人間の魔力が移るようにできてるんですよ?」

 ななななんですとっ!?
 恐る恐る未希の顔見たら……。お願いっ、そんな残念な子を見る目向けないでっ。

「ユイナ寒いの苦手だし、ちょうどいいから手紙渡すときに『ハナコ様からシュン王子に』って言っときました」

 じゃ、そう言うことで。って、ユイナはさっさと食堂に向かってった。
 てか、つまりはどうなったってコト?

「華子、あんた……手紙ちゃんと手配したんじゃなかったの?」
「そ、それが直前まで忘れてて……」
「そんで自分で書いたってワケ?」

 うなずくと、鼻ではんって笑われた。もはや罵倒のコトバもなし!?

「で、でも、だったら山田はどこ行ったんだろう」
「会いに行ったんじゃないの? ハナコからの手紙って渡されたんだから」
「会いにって、誰に?」
「あんたに決まってるでしょうが」

 へ、わたし?
 でもそうか。ユイナの代わりにまんまとおびき出されたのが、山田になったってわけか。
 っていうか、ゲームシナリオ変わりすぎっ。

「どうしよう……」

 ユイナが部屋に戻ってから随分時間経ってるし。
 山田、ずっと待ってたりするのかな? まさか凍死してたりしないよね?

「わたし、山田探してくるっ」
「え、ちょっと華子……!」

 だってもし何かあったらわたしのせいじゃん。
 いくら山田がウザいって言ってもさ、この世からいなくなって欲しいとまでは思ってないし。

 すっかり日の沈んだ外に飛び出して、急いでロッジの裏手に回った。
 ってか、さっむ。コートも着ないで飛び出してきちゃったよ。

(ちょっと一回部屋に戻るか)

 これじゃわたしが凍死しそうだし。
 そのとき目の前をびょおっと雪が吹き荒れて。
 あるぇ? なぜか目の前が真っ白なんですけれど。

(え? いま出てきたばっかだよね?)

 すぐそこにロッジの入り口があるハズなんだ。
 あるぇ? なんで歩いても建物にたどりつかないんだ?

 ここはいっそ裏山の小屋に向かうか。うん、そうしよう、そうしよう。

 あるぇ? 方向転換したのに、どこにも行きつかないんですけど。
 あるぇ? あるぇ? あるぇ……? 

 歩けど歩けど、白い世界が広がるだけだ。
 それどころか吹雪で足元がどんどん埋まってく。
 ってか、めちゃくちゃ寒いっ。

 え? え? どゆこと?
 もしかして華子、絶体絶命?

 っていうか、どうして悪役令嬢が遭難イベントまで肩代わりしなきゃなんないのよっ。
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