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第四章 その王子、瓶底眼鏡につき
その宣戦布告、受けて立ちましょう
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「最悪……」
わたしの祈りをあざ笑うかのように、ユイナは真っ先に山田のカップに紅茶を注いだ。
王子ルート確定だ。
それは確実にギロチンエンドに近づいたってことで。
「問題ありませんわ、ハナコ様」
泣きそうなわたしとは対照的に、未希が余裕の表情でニヤっと笑った。
「これで今後の対策が立てやすくなったと言うもの。どうぞこのジュリエッタにお任せください。王子ルートはいちばん頭に入っていますから」
そうだ、わたしはひとりじゃない。
未希と、それから健太っていう、心強い味方がふたりもいるんだ。
「そうね。ここで諦めるなんて、わたくしらしくないものね」
「それでこそハナコ様ですわ」
よし、俄然勇気が湧いてきた。
落ち込むのは性に合わないし、これから本気出してデッドエンドを切り抜けてやる!
景気づけに冷めかけの紅茶を飲みほした。
結果が出た今、ユイナたちをのぞき見する理由はもうないし。
「あとはティータイムをたのしみましょう? ジュリエッタ」
「はい、ハナコ様。今日はとことんお付き合いいたしますわ」
うなずいて、自分と未希の分、手ずからおかわりの紅茶を注いだ。いつもは誰かにやってもらう立場だけど、たまにはこんな日もあっていいんじゃない?
心機一転の旅立ちに、改めて乾杯といきますか。
意気揚々とカップの取っ手に指をかけ……ようとして。
その寸前、後ろから伸びてきた手にソーサーごと紅茶をさらわれた。
令嬢の所作も忘れてぽかんと大口を開けてしまった。
だって斜め後ろに山田が立ってるんだもの。
人間ってあんまりにも驚くと逆にリアクションが薄くなるんだね。未希ですら目を真ん丸にして何もできずに固まってるし。
山田、イベント中だったよね? なんでわたしんとこに来てるんだ?
「あの……シュン様?」
アナタが手にしてるその紅茶、わたしが飲んでるやつなんデスが。
っていうか、匂いをかぐな、フチについた口紅の位置を確認するな、あまつさえそこに口をつけるな。
そして何しれっと飲もうとしてるんだ、それはわたしのティーカップだと言っておろうがっ。
頭ん中でまくし立てるも山田はくいっとカップを傾けた。
瓶底眼鏡を湯気で曇らせながら、こくこくとノドが動いて完全にカップがひっくり返る。
「ハナコの入れた紅茶はまた格別だな」
こいつ、本気で飲み切ったよ。満足げにカップ戻してくんな。ってか、よくそんな熱いもん一気飲みできたな。それに山田のために入れた覚えはこれっぽっちもないっ。
言いたいことは山ほどあるのに、王子だからって言葉にできないのが口惜しすぎる。
とにかく今すぐ追い返すなり、自分が退散するなりしないとマズいんじゃ。
「シュン王子ぃ? そっちで何やってるんですかぁ?」
げ、言ってるそばからまためんどくさいのが。
「せっかくユイナが王子のために入れたのにぃ。一口も飲まずに席を立つなんて、もぉヒドイじゃないですかぁ」
本人的には可愛らしくぷんぷんしてたんだろうな。
でもわたしの姿を見た途端、ユイナのヤツ悪鬼のごとくの顔になってるし。
「……なんでハナコ様がここにいるのよ?」
「なんでと言われても。わたくしはティータイムをたのしんでいただけよ。ね、ジュリエッタ」
「ええ、今日はお天気もいいですし、外でお茶をするにはもってこいですわ」
うふふと微笑み合った未希が、満面の笑みでわたしのカップに紅茶をつぎ足した。ってか、それ山田が口付けたヤツだから勘弁してっ。
「そんなこと言って、ユイナのこと見張ってたんでしょう?」
「わたくしが? あなたを? なぜ?」
「隠さなくったっていいんです。ユイナがシュン王子に気に入られてるから、ハナコ様、それがおもしろくないんでしょう?」
ふふんと得意げになりながら、山田の腕にしがみつく。
それを黙ってやらせてる山田も、ユイナに対して悪い気はしてないんだろうな。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、あなたとシュン様はとてもお似合……」
「そろそろ時間だな。すまないハナコ。寂しいだろうがわたしはもう行かねばならない」
遮るように山田が口をはさんできた。やんわりとユイナの手を解くと、元いた方へ戻っていく。
ってか、寂しいってなんだ? 初めっからお前はお呼びでないんじゃ。
「まぁいいわ。もう王子ルートに入ったんだし……」
ぼそっと言うと、残されたユイナがふてぶてしくわたしを見下ろしてきた。
「のぞき見してた件は水に流してあげます。その代わりハナコ様、雪山イベントには絶対に参加してくださいね?」
雪山イベント? っていうか今夏前よ?
鼻息荒く去るユイナを見送ってから、解説プリーズ的に未希の顔を見た。
「ハナコ様、ここではアレですから、またパジャマパーティーの時にでも……」
これは詳しく分かってるって顔だな。おお、心強い。やっぱ未希がいてくれてホントよかった。
(にしても、ユイナのヤツ、わざとこっちを怒らせようとしてるんじゃ……)
まるで宣戦布告?
安い挑発に乗るのもシャクだけど、今回はあえて受けて立とうじゃないの。
ってなわけで、本日のお茶会はお開きってことで。
山田が飲まなきゃもっと続きがたのしめたんだけどねっ。
わたしの祈りをあざ笑うかのように、ユイナは真っ先に山田のカップに紅茶を注いだ。
王子ルート確定だ。
それは確実にギロチンエンドに近づいたってことで。
「問題ありませんわ、ハナコ様」
泣きそうなわたしとは対照的に、未希が余裕の表情でニヤっと笑った。
「これで今後の対策が立てやすくなったと言うもの。どうぞこのジュリエッタにお任せください。王子ルートはいちばん頭に入っていますから」
そうだ、わたしはひとりじゃない。
未希と、それから健太っていう、心強い味方がふたりもいるんだ。
「そうね。ここで諦めるなんて、わたくしらしくないものね」
「それでこそハナコ様ですわ」
よし、俄然勇気が湧いてきた。
落ち込むのは性に合わないし、これから本気出してデッドエンドを切り抜けてやる!
景気づけに冷めかけの紅茶を飲みほした。
結果が出た今、ユイナたちをのぞき見する理由はもうないし。
「あとはティータイムをたのしみましょう? ジュリエッタ」
「はい、ハナコ様。今日はとことんお付き合いいたしますわ」
うなずいて、自分と未希の分、手ずからおかわりの紅茶を注いだ。いつもは誰かにやってもらう立場だけど、たまにはこんな日もあっていいんじゃない?
心機一転の旅立ちに、改めて乾杯といきますか。
意気揚々とカップの取っ手に指をかけ……ようとして。
その寸前、後ろから伸びてきた手にソーサーごと紅茶をさらわれた。
令嬢の所作も忘れてぽかんと大口を開けてしまった。
だって斜め後ろに山田が立ってるんだもの。
人間ってあんまりにも驚くと逆にリアクションが薄くなるんだね。未希ですら目を真ん丸にして何もできずに固まってるし。
山田、イベント中だったよね? なんでわたしんとこに来てるんだ?
「あの……シュン様?」
アナタが手にしてるその紅茶、わたしが飲んでるやつなんデスが。
っていうか、匂いをかぐな、フチについた口紅の位置を確認するな、あまつさえそこに口をつけるな。
そして何しれっと飲もうとしてるんだ、それはわたしのティーカップだと言っておろうがっ。
頭ん中でまくし立てるも山田はくいっとカップを傾けた。
瓶底眼鏡を湯気で曇らせながら、こくこくとノドが動いて完全にカップがひっくり返る。
「ハナコの入れた紅茶はまた格別だな」
こいつ、本気で飲み切ったよ。満足げにカップ戻してくんな。ってか、よくそんな熱いもん一気飲みできたな。それに山田のために入れた覚えはこれっぽっちもないっ。
言いたいことは山ほどあるのに、王子だからって言葉にできないのが口惜しすぎる。
とにかく今すぐ追い返すなり、自分が退散するなりしないとマズいんじゃ。
「シュン王子ぃ? そっちで何やってるんですかぁ?」
げ、言ってるそばからまためんどくさいのが。
「せっかくユイナが王子のために入れたのにぃ。一口も飲まずに席を立つなんて、もぉヒドイじゃないですかぁ」
本人的には可愛らしくぷんぷんしてたんだろうな。
でもわたしの姿を見た途端、ユイナのヤツ悪鬼のごとくの顔になってるし。
「……なんでハナコ様がここにいるのよ?」
「なんでと言われても。わたくしはティータイムをたのしんでいただけよ。ね、ジュリエッタ」
「ええ、今日はお天気もいいですし、外でお茶をするにはもってこいですわ」
うふふと微笑み合った未希が、満面の笑みでわたしのカップに紅茶をつぎ足した。ってか、それ山田が口付けたヤツだから勘弁してっ。
「そんなこと言って、ユイナのこと見張ってたんでしょう?」
「わたくしが? あなたを? なぜ?」
「隠さなくったっていいんです。ユイナがシュン王子に気に入られてるから、ハナコ様、それがおもしろくないんでしょう?」
ふふんと得意げになりながら、山田の腕にしがみつく。
それを黙ってやらせてる山田も、ユイナに対して悪い気はしてないんだろうな。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、あなたとシュン様はとてもお似合……」
「そろそろ時間だな。すまないハナコ。寂しいだろうがわたしはもう行かねばならない」
遮るように山田が口をはさんできた。やんわりとユイナの手を解くと、元いた方へ戻っていく。
ってか、寂しいってなんだ? 初めっからお前はお呼びでないんじゃ。
「まぁいいわ。もう王子ルートに入ったんだし……」
ぼそっと言うと、残されたユイナがふてぶてしくわたしを見下ろしてきた。
「のぞき見してた件は水に流してあげます。その代わりハナコ様、雪山イベントには絶対に参加してくださいね?」
雪山イベント? っていうか今夏前よ?
鼻息荒く去るユイナを見送ってから、解説プリーズ的に未希の顔を見た。
「ハナコ様、ここではアレですから、またパジャマパーティーの時にでも……」
これは詳しく分かってるって顔だな。おお、心強い。やっぱ未希がいてくれてホントよかった。
(にしても、ユイナのヤツ、わざとこっちを怒らせようとしてるんじゃ……)
まるで宣戦布告?
安い挑発に乗るのもシャクだけど、今回はあえて受けて立とうじゃないの。
ってなわけで、本日のお茶会はお開きってことで。
山田が飲まなきゃもっと続きがたのしめたんだけどねっ。
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