【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

文字の大きさ
上 下
19 / 78
第三章 イベントは危険な香り

ユイナとゲームの強制力

しおりを挟む
 無駄に大きなベッドの上で、わたしと未希と健太で輪になって座った。

 真ん中には飲み物とお菓子の乗ったトレー。今夜はパジャマパーティーだから、普段着の健太にはナイトキャップをかぶせておいた。

(こういうのは雰囲気大事だし)

 そんなおかしなことにこだわるくらい、わたしは動揺してたんだと思う。

「ケンタって、ほんとに弟の健太なの?」

 いや、今も弟なんだけどさ。やっぱわたしかなり動揺してる。

「うん、姉ちゃん。俺、中身は森健太」
「うわっ、そのしゃべり方! やっぱ本物の健太だっ」

 感動のあまり抱きついた。
 健太も照れくさそうに背中をポンポンしてくれる。

「やっぱりね、そうじゃないかってちょっと前から思ってたんだ。飲み物こぼれる。いいから華子は今すぐ落ちつけ」

 未希ちゃん冷たいっ。
 感動の再会じゃん。って顔は毎日合わせてたけど。

「でも未希はどうして健太に記憶があるって分かったの?」
「さっきも言ったけど、健太はあのゲーム……『トキメキずっきゅん♡ピュアLOVEドキドキ☆マジカル学園』のプレイ経験あったからね」

 健太ってば乙女ゲームなんかやってたんか。
 ってか、タイトルダサっ。

「で、健太はいつから目覚めてたわけ?」
「わりと物心ついたころから」
「そんな初めからなんだ……」
「でも姉ちゃんはさ、顔はそっくりでも中身はまんまゲームの悪役令嬢だったし。今までは断罪されないよう、ハラハラ見守ってた感じ」
「健太……」

 姉思いの弟で姉ちゃんうれしいよ。

「あーソレ、分かる。いくらゲームのキャラって言っても、身内と同じ顔が飛んじゃうのはね~」
「だろ? なんか毎晩夢に見そうだし、さすがにソレはきっついよな~」

 って、自分の精神衛生のためかいっ。

「けどさ、ここんトコ急にハナコ姉上の言動がおかしくなってきてさ」
「あ、通学中に馬車降りた件とか?」
「そう、ハナコ姉上が人助けなんてまずあり得ないし。そこに来て未希ぇそっくりの令嬢が頻繁に家に出入りするようになっただろ? これはもしかしたら……って」
「そんでうちらの動向を見張ってたってわけか」
「未希姉ぇ、正解」

 おお、未希も健太も洞察力すごいな。

「にしても姉ちゃん、どうやって記憶戻ったの?」
「階段でユイナ・ハセガー助けようとしてさ。そんときに頭打ったかなんかしたみたい」

 とりあえずこれまであったことを、かいつまんで説明した。

「そっか。ユイナのヤツ、そんなことを……」

 呟いたケンタに、わたしと未希は目を見合わせた。

 ケンタは攻略対象のひとりだ。
 やっぱりユイナのこと、好きになったりしちゃってるんだろうか。

 うう、姉ちゃんとしては聞きづらい。好きって言われても、相手があのユイナだと思うとものすごく複雑だ。

 そんなこと考えてたら先に未希が口を開いた。

「ね、健太。ヒロインのユイナって攻略対象的にはどんな存在?」
「どんな、か。正直、別にって感じなんだけど」

 別に!
 そっか、そっか、姉ちゃんひと安心だよ。

「たださ……」

 ただ? なにその意味深な感じ。

「時々、自分が自分じゃないみたいになるときがあって。知らないうちに、何か言ったりやったりしてることがあるんだ」
「もしかしてそれって……」
「ゲームの強制力ってやつ?」
「俺もそうだと思ってる。多分ゲームのイベントに組み込まれて、強制的に動かされてるんじゃないかな」
「やっぱあったか、強制力」

 マジですか。
 そうなるとわたしのギロチンエンドも、回避するのが難しいってこと?

「そのときだけはユイナのことがすごく愛おしく感じるんだ。普段はなんとも思ってないのにさ」
「あー、それで生徒会室ではみんなユイナに塩対応なんだ」
「うん、マサト先輩たちも俺と同じような感覚なんじゃないかな? 特別そういう話をしたわけじゃないんだけど」

 ギロチン台が一歩また一歩と近づいてきてるっ。

 無言になったわたしに気づいたのか、健太が頭ポンポンしてくれた。
 うう、姉ちゃん涙出そう。

「でも最近、コツをつかんできたんだ」
「コツ?」
「うん、俺ルートのイベント、ここんとこほとんど起きてないと思う。強制参加させられるのは、ヒロインがルート決めするイベントだけって感じ」
「ルート決め? どの攻略対象のルートに入るか、ヒロインが決める選択イベントってこと?」
「そう、そんな感じ」

 そっか。ユイナの選択次第でデッドエンドは避けられるのか。

 わたしがスペシャルヤバい目に合うのは、王子ルートのギロチンエンドと、ケンタルートの串刺しエンドだけらしい。
 それ以外を選択してくれれば、ひとまず命は助かりそう。ほかのルートも国外追放とかはあるんだけどね。

「ま、俺ルートはまずないと思っててくれていいし」
「わたしの見立てなんだけど……今んとこユイナ、王子ルート選択してない?」
「未希姉ぇもそう思う?」

 ふぉっ、やっぱギロチンエンドなのっ!?

「俺の記憶だと、次あたりユイナのお茶会イベントが起こるはずなんだ」
「お茶会イベント……? ああ、学園の裏庭でヒロインが攻略対象たちと開くやつね」
「確かそれが、最終的なルート決めイベントだったと思う」
「お茶を入れるシーンで選択肢が出るんだっけ。どの攻略対象のカップに注ぎますか? って」
「で、いちばん最初に選んだ対象のルートが本格的に始まる、と」

 まさに運命の分かれ道?
 生殺与奪の権をユイナに握られてるのが、本当に歯がゆいんだけどっ。

「じゃあそのイベントの結果見て、今後の対策を立てるしかないね」
「うん、だから今アレコレ心配してもしょうがない。てなわけで姉ちゃん、とりあえず今夜は昔話で盛り上がろう?」
「健太……」

 うう、なんて姉思いのやさしい弟なんだ。
 姉ちゃんうれしくて号泣寸前だよ。

辛気しんき臭い顔続けられると、明日から飯マズくなるし」

 ってそっちかいっ。

 それから思い出話をいっぱいした。
 三人ともちっちゃいころからずっと一緒にいたから、話題はなかなか尽きなくて。

「あ、姉ちゃん寝ちゃってら」

 ううん、まだ起きてるよ。まぶたが重くて開かないだけ。

 ダンジュウロウに借りた本がさ、けっこうおもしろくって。明け方近くまで読んじゃったのがマズかったな。今夜はもう眠くてしかたないや。

「ほんと、華子のためにこうして集まってやってるってのに」

 うん、未希、いつもありがとうね。
 文句ばっかり言われるけど、心配してくれてるのちゃんと分かってる。

「平和そうな寝顔。あほづらとも言うけど」

 あんだとぉ?
 ああ、ダメだ。言い返したいのにもう寝落ちしそう。

「……なぁ、未希姉ぇ」
「何?」
「華子姉ちゃん、やっぱりあのとき死んだんだよな……?」
「うん……今、華子がここでこうしているってことは、多分そう言うことなんだと思う」
「そっか。やっぱそうだよな……」

 なんかふたりしてわたしのこと話してるみたいだけど。

 もう限界。

 おやすみなさい、よい夢を――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

処理中です...