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第三章 イベントは危険な香り
ユイナとゲームの強制力
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無駄に大きなベッドの上で、わたしと未希と健太で輪になって座った。
真ん中には飲み物とお菓子の乗ったトレー。今夜はパジャマパーティーだから、普段着の健太にはナイトキャップをかぶせておいた。
(こういうのは雰囲気大事だし)
そんなおかしなことにこだわるくらい、わたしは動揺してたんだと思う。
「ケンタって、ほんとに弟の健太なの?」
いや、今も弟なんだけどさ。やっぱわたしかなり動揺してる。
「うん、姉ちゃん。俺、中身は森健太」
「うわっ、そのしゃべり方! やっぱ本物の健太だっ」
感動のあまり抱きついた。
健太も照れくさそうに背中をポンポンしてくれる。
「やっぱりね、そうじゃないかってちょっと前から思ってたんだ。飲み物こぼれる。いいから華子は今すぐ落ちつけ」
未希ちゃん冷たいっ。
感動の再会じゃん。って顔は毎日合わせてたけど。
「でも未希はどうして健太に記憶があるって分かったの?」
「さっきも言ったけど、健太はあのゲーム……『トキメキずっきゅん♡ピュアLOVEドキドキ☆マジカル学園』のプレイ経験あったからね」
健太ってば乙女ゲームなんかやってたんか。
ってか、タイトルダサっ。
「で、健太はいつから目覚めてたわけ?」
「わりと物心ついたころから」
「そんな初めからなんだ……」
「でも姉ちゃんはさ、顔はそっくりでも中身はまんまゲームの悪役令嬢だったし。今までは断罪されないよう、ハラハラ見守ってた感じ」
「健太……」
姉思いの弟で姉ちゃんうれしいよ。
「あーソレ、分かる。いくらゲームのキャラって言っても、身内と同じ顔が飛んじゃうのはね~」
「だろ? なんか毎晩夢に見そうだし、さすがにソレはきっついよな~」
って、自分の精神衛生のためかいっ。
「けどさ、ここんトコ急にハナコ姉上の言動がおかしくなってきてさ」
「あ、通学中に馬車降りた件とか?」
「そう、ハナコ姉上が人助けなんてまずあり得ないし。そこに来て未希姉ぇそっくりの令嬢が頻繁に家に出入りするようになっただろ? これはもしかしたら……って」
「そんでうちらの動向を見張ってたってわけか」
「未希姉ぇ、正解」
おお、未希も健太も洞察力すごいな。
「にしても姉ちゃん、どうやって記憶戻ったの?」
「階段でユイナ・ハセガー助けようとしてさ。そんときに頭打ったかなんかしたみたい」
とりあえずこれまであったことを、かいつまんで説明した。
「そっか。ユイナのヤツ、そんなことを……」
呟いたケンタに、わたしと未希は目を見合わせた。
ケンタは攻略対象のひとりだ。
やっぱりユイナのこと、好きになったりしちゃってるんだろうか。
うう、姉ちゃんとしては聞きづらい。好きって言われても、相手があのユイナだと思うとものすごく複雑だ。
そんなこと考えてたら先に未希が口を開いた。
「ね、健太。ヒロインのユイナって攻略対象的にはどんな存在?」
「どんな、か。正直、別にって感じなんだけど」
別に!
そっか、そっか、姉ちゃんひと安心だよ。
「たださ……」
ただ? なにその意味深な感じ。
「時々、自分が自分じゃないみたいになるときがあって。知らないうちに、何か言ったりやったりしてることがあるんだ」
「もしかしてそれって……」
「ゲームの強制力ってやつ?」
「俺もそうだと思ってる。多分ゲームのイベントに組み込まれて、強制的に動かされてるんじゃないかな」
「やっぱあったか、強制力」
マジですか。
そうなるとわたしのギロチンエンドも、回避するのが難しいってこと?
「そのときだけはユイナのことがすごく愛おしく感じるんだ。普段はなんとも思ってないのにさ」
「あー、それで生徒会室ではみんなユイナに塩対応なんだ」
「うん、マサト先輩たちも俺と同じような感覚なんじゃないかな? 特別そういう話をしたわけじゃないんだけど」
ギロチン台が一歩また一歩と近づいてきてるっ。
無言になったわたしに気づいたのか、健太が頭ポンポンしてくれた。
うう、姉ちゃん涙出そう。
「でも最近、コツをつかんできたんだ」
「コツ?」
「うん、俺ルートのイベント、ここんとこほとんど起きてないと思う。強制参加させられるのは、ヒロインがルート決めするイベントだけって感じ」
「ルート決め? どの攻略対象のルートに入るか、ヒロインが決める選択イベントってこと?」
「そう、そんな感じ」
そっか。ユイナの選択次第でデッドエンドは避けられるのか。
わたしがスペシャルヤバい目に合うのは、王子ルートのギロチンエンドと、ケンタルートの串刺しエンドだけらしい。
それ以外を選択してくれれば、ひとまず命は助かりそう。ほかのルートも国外追放とかはあるんだけどね。
「ま、俺ルートはまずないと思っててくれていいし」
「わたしの見立てなんだけど……今んとこユイナ、王子ルート選択してない?」
「未希姉ぇもそう思う?」
ふぉっ、やっぱギロチンエンドなのっ!?
「俺の記憶だと、次あたりユイナのお茶会イベントが起こるはずなんだ」
「お茶会イベント……? ああ、学園の裏庭でヒロインが攻略対象たちと開くやつね」
「確かそれが、最終的なルート決めイベントだったと思う」
「お茶を入れるシーンで選択肢が出るんだっけ。どの攻略対象のカップに注ぎますか? って」
「で、いちばん最初に選んだ対象のルートが本格的に始まる、と」
まさに運命の分かれ道?
生殺与奪の権をユイナに握られてるのが、本当に歯がゆいんだけどっ。
「じゃあそのイベントの結果見て、今後の対策を立てるしかないね」
「うん、だから今アレコレ心配してもしょうがない。てなわけで姉ちゃん、とりあえず今夜は昔話で盛り上がろう?」
「健太……」
うう、なんて姉思いのやさしい弟なんだ。
姉ちゃんうれしくて号泣寸前だよ。
「辛気臭い顔続けられると、明日から飯マズくなるし」
ってそっちかいっ。
それから思い出話をいっぱいした。
三人ともちっちゃいころからずっと一緒にいたから、話題はなかなか尽きなくて。
「あ、姉ちゃん寝ちゃってら」
ううん、まだ起きてるよ。まぶたが重くて開かないだけ。
ダンジュウロウに借りた本がさ、けっこうおもしろくって。明け方近くまで読んじゃったのがマズかったな。今夜はもう眠くてしかたないや。
「ほんと、華子のためにこうして集まってやってるってのに」
うん、未希、いつもありがとうね。
文句ばっかり言われるけど、心配してくれてるのちゃんと分かってる。
「平和そうな寝顔。あほ面とも言うけど」
あんだとぉ?
ああ、ダメだ。言い返したいのにもう寝落ちしそう。
「……なぁ、未希姉ぇ」
「何?」
「華子姉ちゃん、やっぱりあのとき死んだんだよな……?」
「うん……今、華子がここでこうしているってことは、多分そう言うことなんだと思う」
「そっか。やっぱそうだよな……」
なんかふたりしてわたしのこと話してるみたいだけど。
もう限界。
おやすみなさい、よい夢を――。
真ん中には飲み物とお菓子の乗ったトレー。今夜はパジャマパーティーだから、普段着の健太にはナイトキャップをかぶせておいた。
(こういうのは雰囲気大事だし)
そんなおかしなことにこだわるくらい、わたしは動揺してたんだと思う。
「ケンタって、ほんとに弟の健太なの?」
いや、今も弟なんだけどさ。やっぱわたしかなり動揺してる。
「うん、姉ちゃん。俺、中身は森健太」
「うわっ、そのしゃべり方! やっぱ本物の健太だっ」
感動のあまり抱きついた。
健太も照れくさそうに背中をポンポンしてくれる。
「やっぱりね、そうじゃないかってちょっと前から思ってたんだ。飲み物こぼれる。いいから華子は今すぐ落ちつけ」
未希ちゃん冷たいっ。
感動の再会じゃん。って顔は毎日合わせてたけど。
「でも未希はどうして健太に記憶があるって分かったの?」
「さっきも言ったけど、健太はあのゲーム……『トキメキずっきゅん♡ピュアLOVEドキドキ☆マジカル学園』のプレイ経験あったからね」
健太ってば乙女ゲームなんかやってたんか。
ってか、タイトルダサっ。
「で、健太はいつから目覚めてたわけ?」
「わりと物心ついたころから」
「そんな初めからなんだ……」
「でも姉ちゃんはさ、顔はそっくりでも中身はまんまゲームの悪役令嬢だったし。今までは断罪されないよう、ハラハラ見守ってた感じ」
「健太……」
姉思いの弟で姉ちゃんうれしいよ。
「あーソレ、分かる。いくらゲームのキャラって言っても、身内と同じ顔が飛んじゃうのはね~」
「だろ? なんか毎晩夢に見そうだし、さすがにソレはきっついよな~」
って、自分の精神衛生のためかいっ。
「けどさ、ここんトコ急にハナコ姉上の言動がおかしくなってきてさ」
「あ、通学中に馬車降りた件とか?」
「そう、ハナコ姉上が人助けなんてまずあり得ないし。そこに来て未希姉ぇそっくりの令嬢が頻繁に家に出入りするようになっただろ? これはもしかしたら……って」
「そんでうちらの動向を見張ってたってわけか」
「未希姉ぇ、正解」
おお、未希も健太も洞察力すごいな。
「にしても姉ちゃん、どうやって記憶戻ったの?」
「階段でユイナ・ハセガー助けようとしてさ。そんときに頭打ったかなんかしたみたい」
とりあえずこれまであったことを、かいつまんで説明した。
「そっか。ユイナのヤツ、そんなことを……」
呟いたケンタに、わたしと未希は目を見合わせた。
ケンタは攻略対象のひとりだ。
やっぱりユイナのこと、好きになったりしちゃってるんだろうか。
うう、姉ちゃんとしては聞きづらい。好きって言われても、相手があのユイナだと思うとものすごく複雑だ。
そんなこと考えてたら先に未希が口を開いた。
「ね、健太。ヒロインのユイナって攻略対象的にはどんな存在?」
「どんな、か。正直、別にって感じなんだけど」
別に!
そっか、そっか、姉ちゃんひと安心だよ。
「たださ……」
ただ? なにその意味深な感じ。
「時々、自分が自分じゃないみたいになるときがあって。知らないうちに、何か言ったりやったりしてることがあるんだ」
「もしかしてそれって……」
「ゲームの強制力ってやつ?」
「俺もそうだと思ってる。多分ゲームのイベントに組み込まれて、強制的に動かされてるんじゃないかな」
「やっぱあったか、強制力」
マジですか。
そうなるとわたしのギロチンエンドも、回避するのが難しいってこと?
「そのときだけはユイナのことがすごく愛おしく感じるんだ。普段はなんとも思ってないのにさ」
「あー、それで生徒会室ではみんなユイナに塩対応なんだ」
「うん、マサト先輩たちも俺と同じような感覚なんじゃないかな? 特別そういう話をしたわけじゃないんだけど」
ギロチン台が一歩また一歩と近づいてきてるっ。
無言になったわたしに気づいたのか、健太が頭ポンポンしてくれた。
うう、姉ちゃん涙出そう。
「でも最近、コツをつかんできたんだ」
「コツ?」
「うん、俺ルートのイベント、ここんとこほとんど起きてないと思う。強制参加させられるのは、ヒロインがルート決めするイベントだけって感じ」
「ルート決め? どの攻略対象のルートに入るか、ヒロインが決める選択イベントってこと?」
「そう、そんな感じ」
そっか。ユイナの選択次第でデッドエンドは避けられるのか。
わたしがスペシャルヤバい目に合うのは、王子ルートのギロチンエンドと、ケンタルートの串刺しエンドだけらしい。
それ以外を選択してくれれば、ひとまず命は助かりそう。ほかのルートも国外追放とかはあるんだけどね。
「ま、俺ルートはまずないと思っててくれていいし」
「わたしの見立てなんだけど……今んとこユイナ、王子ルート選択してない?」
「未希姉ぇもそう思う?」
ふぉっ、やっぱギロチンエンドなのっ!?
「俺の記憶だと、次あたりユイナのお茶会イベントが起こるはずなんだ」
「お茶会イベント……? ああ、学園の裏庭でヒロインが攻略対象たちと開くやつね」
「確かそれが、最終的なルート決めイベントだったと思う」
「お茶を入れるシーンで選択肢が出るんだっけ。どの攻略対象のカップに注ぎますか? って」
「で、いちばん最初に選んだ対象のルートが本格的に始まる、と」
まさに運命の分かれ道?
生殺与奪の権をユイナに握られてるのが、本当に歯がゆいんだけどっ。
「じゃあそのイベントの結果見て、今後の対策を立てるしかないね」
「うん、だから今アレコレ心配してもしょうがない。てなわけで姉ちゃん、とりあえず今夜は昔話で盛り上がろう?」
「健太……」
うう、なんて姉思いのやさしい弟なんだ。
姉ちゃんうれしくて号泣寸前だよ。
「辛気臭い顔続けられると、明日から飯マズくなるし」
ってそっちかいっ。
それから思い出話をいっぱいした。
三人ともちっちゃいころからずっと一緒にいたから、話題はなかなか尽きなくて。
「あ、姉ちゃん寝ちゃってら」
ううん、まだ起きてるよ。まぶたが重くて開かないだけ。
ダンジュウロウに借りた本がさ、けっこうおもしろくって。明け方近くまで読んじゃったのがマズかったな。今夜はもう眠くてしかたないや。
「ほんと、華子のためにこうして集まってやってるってのに」
うん、未希、いつもありがとうね。
文句ばっかり言われるけど、心配してくれてるのちゃんと分かってる。
「平和そうな寝顔。あほ面とも言うけど」
あんだとぉ?
ああ、ダメだ。言い返したいのにもう寝落ちしそう。
「……なぁ、未希姉ぇ」
「何?」
「華子姉ちゃん、やっぱりあのとき死んだんだよな……?」
「うん……今、華子がここでこうしているってことは、多分そう言うことなんだと思う」
「そっか。やっぱそうだよな……」
なんかふたりしてわたしのこと話してるみたいだけど。
もう限界。
おやすみなさい、よい夢を――。
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