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彼は死んだということになっている。
なっている、と煮え切らない言い方になっているのは、誰かが彼の死を確認したという訳ではないからだ。
空中で爆発炎上し海上へ墜落した飛行機に乗っていたのだから、確認できないのは仕方ないことであろう。そもそも確実に死の証拠を得られた乗員の方が少ないのだから。生きていなければ死んだことになるのはやむを得ない。
彼を含めた乗員の関係者らは当該飛行機の運用や事故の回避可能性に関して納得したわけではなかった。とはいえ、航空機はこれまで人類が作り出してきた乗り物のなかで、もっとも安全に徹した運用がなされている乗り物といえるだろう。そこで原因が明らかでない事故が起きても誰も責めることはできない。煮え切らないまま、乗員の死は受け入れられた。その中の一人として、彼もまた死んだことになった。
ここからはもしもの話になる。
事故の瞬間、彼がここでないどこかの宇宙――それは例えば異世界とでも呼ばれるようなところ――に転移していたとしよう。彼の遺体は発見されていないのだから、その可能性は否定できない。そんな現象はあるのかはわからない。あるとしても極めて確率が低い現象なのだろう。
仮にそれがあったとしよう。しかし、それを誰も観測しておらず、また誰も確認できていないのならば、それは結局死んだのと同じである。死体が発見できるわけでもなし、もう元いた世界でしゃべれるわけでもなし。それに地球上の有機物の質量からみれば彼の質量は誤差である。もちろんなにかのタイミングで戻ってくるというのならば話は別であるけれども。
だから彼は死んだ扱いにするべきであろう。残された者は彼の死を悼み、そしていずれは忘れる。彼が戻ってくることは考えがたく、そして残された者は先へすすまなければならないのだから。
なっている、と煮え切らない言い方になっているのは、誰かが彼の死を確認したという訳ではないからだ。
空中で爆発炎上し海上へ墜落した飛行機に乗っていたのだから、確認できないのは仕方ないことであろう。そもそも確実に死の証拠を得られた乗員の方が少ないのだから。生きていなければ死んだことになるのはやむを得ない。
彼を含めた乗員の関係者らは当該飛行機の運用や事故の回避可能性に関して納得したわけではなかった。とはいえ、航空機はこれまで人類が作り出してきた乗り物のなかで、もっとも安全に徹した運用がなされている乗り物といえるだろう。そこで原因が明らかでない事故が起きても誰も責めることはできない。煮え切らないまま、乗員の死は受け入れられた。その中の一人として、彼もまた死んだことになった。
ここからはもしもの話になる。
事故の瞬間、彼がここでないどこかの宇宙――それは例えば異世界とでも呼ばれるようなところ――に転移していたとしよう。彼の遺体は発見されていないのだから、その可能性は否定できない。そんな現象はあるのかはわからない。あるとしても極めて確率が低い現象なのだろう。
仮にそれがあったとしよう。しかし、それを誰も観測しておらず、また誰も確認できていないのならば、それは結局死んだのと同じである。死体が発見できるわけでもなし、もう元いた世界でしゃべれるわけでもなし。それに地球上の有機物の質量からみれば彼の質量は誤差である。もちろんなにかのタイミングで戻ってくるというのならば話は別であるけれども。
だから彼は死んだ扱いにするべきであろう。残された者は彼の死を悼み、そしていずれは忘れる。彼が戻ってくることは考えがたく、そして残された者は先へすすまなければならないのだから。
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