米国海軍日本語情報将校ドナルド・キーン

ジユウ・ヒロヲカ

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クリスマス

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 12月の焼け跡の東京の夕焼けがうつくしい。

 夕日に照らされた焼け跡の町並みを、海軍のジープが2台走っていく。リリィとドナルドが運転している。


 谷中の小さな路地の前に、人だかりが出来ている。

 路地の奥、吉田さんの家の前に、おめかしした小学校低学年の娘が立っている。吉田奥さんと年配の女、それを見ている。

「うーん、こんな感じでいいんですか?」

「いいよ、いいよ、可愛いもんだよー」

 おめかしした娘がうれしそうに笑う。年配の女が吉田さんの奥さんを見る。

「あんたもキレイだよ。アメリカさんに口説かれても、ついてっちゃダメだよ」

 吉田奥さんが苦笑する。

「やめてくださいよ。子どもの前で」

 路地に大家が姿を見せる。

「おーい、できたかー」

 大家と男孫3人が紋付き袴で立っている。吉田さんの奥さん、小走りに大家に寄っていく。

「大家さん、今日はすみません」

 年配の女も大家に近づいてくる。

「あら、大家さん、今日も紋付き? 背広じゃないの?」

「てやんでぃ、正式な席は紋付きって昔っから決まってんだよ」

 年配の女、通りの方を見て驚く

「あれれ。人だかりだ」

 大家が苦笑する。

「おぉ、ドナルドたちがジープで来たんだよ。大人気だよ」

 年配の女が笑う。

「ドナルドって、トモダチみたいに」

 大家が抗議する。

「トモダチだろ? この前来た時「トモダチになりましょう」って言われたし。なー」

 と、吉田さんの奥さんに同意を求めると、吉田さんの奥さんが苦笑いでうなづく。


 リリィとドナルドがジープの前で立っている。大家と男孫3人と吉田さんの奥さんと女子ども1人が近づいていく。大家が気安く声を上げる。

「ハーイ、リリィ、ドナルド、今日はすまないね」

 ドナルドがすまなそうに一礼する。

「こんにちは。みなさん、すいません、高級な車が用意できなくて、ジープで」

 大家と孫3人、目を輝かせて見ている。

「んなこたーないよ。ジープ乗ってみたかったんだ。乗ってもいい?」

 ドナルドがうなづくと、大家と孫3人が楽しそうにジープに乗り込んで、あちこち見たり、さすったりする。


 リリィのジープに吉田さんの奥さんと娘、ドナルドのジープに大家と孫3人。大家がひとだかりに向かって言う。

「じゃ、みんな、行ってくっから」

 ジープ2台動き出す。人ごみの先頭にいた年配の女、なぜか「バンザーイ」と言って両手を上げ出す。まわりの人々も「バンザーイ」と唱和して両手を上げ出す。人だかりの人々全員が「バンザーイ」と唱和して、両手を上げだす。

 みんなが何か言っているので、ジープに乗っている大家が振り返ると、みんながバンザイしている。大家が両手をあげて止める。

「やめろ、やめろ、何でバンザイなんだよ」

 大家が両手を上げてバンザイを返すので、人だかりの人々は盛り上がって、さらに大きな声で、さらに大きなバンザイを始める。

 2台のジープが、子どもたちを乗せて、夕日に照らされた焼け跡の東京を走っていく。


 机の上に、たくさんのご馳走が並んでいる。その向こうに、大家と吉田さんの奥さんと子ども4人が並んで座って、ご馳走を凝視している。

 会場の前の方で牧師が話終わる。

「アーメン」

 会場のみんなが「アーメン」と唱える。

 大家と吉田さんの奥さんと子ども4人がビッグスマイルで向かいに座っているドナルドを見る。ドナルドは困っている。

「まだなんですよ。合唱があるんです。もうちょっと待ってください」

 大家と吉田さんの奥さんと子ども4人が、あからさまにションボリとなる。

 合唱する人々が、会場の前の方に並ぶ。大家がそれを見ている。

「あれ? あれは日本の人?」

 ドナルドが答える。

「えぇ。両国の人たちだそうです。日米の合唱ですね」

 大家が感心する。

「へー。そりゃぁ、洒落てらぁ」

 うつくしい賛美歌が聞こえ出す。

 4人の子どもたちが、食べ物を食べようとするので、大家と吉田さんの奥さんが止めている。


 合唱が「きよしこの夜」に変わる。

 大家と吉田奥さんと子ども4人が、みんなガツガツご馳走を食べている。

 皇居のお堀端。お堀端のGHQビルが、クリスマスの飾りで彩られている。
 大家と吉田さんの奥さんと子ども4人が歩いていて、その後ろをドナルドとリリィが歩いている。大家がクリスマスの飾りを見て感心している。

「いやー、やっぱアメリカさんはスゴイんだねぇ。食いもんはたくさんあるし、みんな美味しいし、こんなキラキラした飾りはあるし、、、」

 4人子供たちが立ち止まって、クリスマスの飾りを見ている。それぞれの顔にクリスマスの飾りの光があたっている。吉田さんの奥さんも感心する。

「ほんとねー。きれいねー」

 ドナルドが微笑する。

「アメリカでは、家族そろって祝う日なんですよ。来年は吉田さんと祝えるといいですね」

 吉田さんの奥さんがとびきりの笑顔でうなづく。大家さんも喜ぶ。

「いいねぇ。あいつ帰ってきたら、長屋のみんなでクリスマスしよう。ドナルド、あんたも来てくれよ」

 ドナルドが少し困る。

「うれしいお誘いですが、、、」

 ドナルド、少し沈黙して、はしゃいでいる子どもたちの様子を見ている。

「ありがたいお誘いで、ぜひ参加したいですけど、でも大家さん、私もクニに帰りたくなりました」

 ドナルドがクリスマスの飾りの灯に照らされている。はしゃいでいる子どもたちも、吉田さんの奥さんも、大家さんも、リリィも、クリスマスの飾りの灯に照らされている。
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