米国海軍日本語情報将校ドナルド・キーン

ジユウ・ヒロヲカ

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玉音放送

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 2週間後。

 リリィとドナルドとオーティスが、真珠湾基地の広い部屋に立っている。他にも大勢の兵士が立っている。一番前にラジオが置いてあり、昭和天皇の声が流れている。リリィが言う。

「何言ってるのか、わかんなーい」

 ドナルドが同意する。

「うん、わかんないな。古語みたいだ」

 オーティスが言う。

「わかんないけど、「重大放送」っつって天皇が直接話してるんだから、戦争が終わったんだろ?」

 外で「ドーン」という音がした。みんな窓に駆け寄って外を見ると、昼なのに花火が上がっている。リリィが言う。

「あー、やっぱり戦争終わったんだね。あれ、祝砲でしょ? 街に行ってみようよ」


 3人でホノルルの街に出てみると、楽しそうな群衆がいた。自動車は渋滞し、バスは超満員だが、みんな楽しそうで、叫び、歌い、踊っている。ドナルドが言う。

「あー、やっと終わったんだねー」

 リリィが同意する。

「うん。長かったねぇ」

 オーティスが言う。

「いやいや、ボクらはまだ終わってないよ。これから占領の仕事があるだろ?」

 リリィが言う。

「あ、そっか。これで東京行けるね。あんたも、きっと京都行ける」

 オーティスが両手をあげて日本語で言う。

「バンザーイ」

 リリィとドナルドも両手をあげて日本語で言う。

「バンザーイ」


 一週間後。

 リリィとドナルドとオーティスが輸送機の中に窮屈そうに座っている。リリィが窓の外に何かを見つける。ドナルドとオーティスに手で知らせる。窓の外には雪を抱いた富士山が見える。


 リリィとドナルドとオーティスが海軍のジープに乗ってデコボコ道を走っている。なんだか、みんなグッタリしている。運転席のオーティスが言う。

「輸送機は早かったけど、乗り心地悪かったなー」

 うしろの席のドナルドが同意する。

「うん。ひどかった」

 助手席のリリィが言う。

「乗り心地はそこそこだけど時間のかかる船と、どっちがいいのか、難しいとこねー」

 3人がちょっとグッタリした様子でジープでデコボコ道を進む。リリィが言う。

「でも、ほら、もうすぐ憧れの東京よ」

 オーティスが尋ねる。

「ここどこ?」

 リリーが携帯地図をとり出す。

「うーんと、ヤマトね。カナガワケンの」

 オーティスが言う。

「カナガワケンか。東京までどの位だろ?2時間以上かかるの?」

 リリィが考える。

「うーん、1時間半くらい?」

 オーティスがため息をつく。

「ふー。1時間半も、このデコボコ道かぁ」


 3人の乗ったジープが、舗装されていない道路を走っている。道の両側に、爆撃を受けたあとの、壊滅した家屋が並んでいる。オーティスは、ジープを止める。3人でジープを降りて、魔法瓶からコーヒーを注いで、立ち飲みを始める。ドナルドが言う。

「なんか、東京に近づくほど、何にもなくなってくな」

 オーティスが同意する。

「ほんとだ。空襲が激しかったんだなぁ」

 道の向かいから、子供が二人ジッと見ている。リリィが気付いてほほえみかける。子供たちもほほえみ返す。メリーがジープの中のカバンをまさぐって、チョコレートをとり出す。それを子供たちに差し出すと、子供たちがすごいスピードで近づいてきてチョコレートをつかみ、またすごいスピードで立っていた場所に戻り、チョコレートを割って、2人それぞれに珍しそうにチョコレートを眺めてから口に入れる。

「うめー」

「うめー」

 ひとしきりチョコレートに感激したあと、やっと気付いたようにリリィに向かって一礼した。リリィはほほえんでいる。

「かわいいわねー。お腹空いてるのかな?」

 少し離れたところから、オーティスの声がする。

「おかーさーん、ここはどこですか?」

 リリィがオーティスを見て、顔をしかめる。

「ずいぶん気安いわね。「おかーさん」なんて。急に外人の、それも兵士に話しかけられたら、お母さん、困るじゃない」

 見ると、オーティスはお母さんと楽しそうに話している。お母さんが声をあげて笑う。リリィがビックリする。

「あれ? 楽しそう」

 ドナルドが言う。

「ボクたちにはよくわからないけど、ここはオーティスの故郷なんだよ。やっと故郷に平和が訪れたのを、オーティスは誰かと喜びたいんじゃないかな?」

 リリィがジトっとドナルドを見ている。ドナルドがそれに気付く。

「な、なに?」

 リリィが笑う。

「ドナルドって鋭いわね。その通りだね」

 オーティスは、お母さんと楽しそうに話をしている。
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