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君がいないと

君と一緒に帰りたい

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「い、伊織君こんばんは」
「こんばんはって……まだ4時過ぎだよ、放課後だよ星月さん」
 放課後、病院に行った真斗を見送って帰ろうとすると星月さんに呼び止められた。
 何か用かな? 欲しいものでもあるのかな?
「その、伊織君は、その……」
 そう言いながらもじもじしてそれでいて不安そうな目で見つめてくる星月さん。
 ええっと、どうしたんだろう……あ。
「そうだ、星月さんもクッキー食べる? 昼休みに香菜ちゃんから貰ったんだけど」
「……ッ! いらない、違う、そうじゃなくて!」
 どこか怒ったような星月さんの顔にちょっと気持ちが焦るというか何というか……

 さっき真斗に言われたことを思い出す。
 お前はもうちょっと女心を勉強した方が良い―よし、この後星月さんとどこかに行こう。そして色々教えてもらおう、その……色々。
『あの!』
 誘おうとした声と星月さんの声が被ってしまう。
 何とも言えない、すごく気まずい雰囲気。
「あ、その、星月さんからでいいよ」
 変な空気の中取りあえず星月さんにバトンを投げる。
「うん、ありがとう……あの、そのね……」
 星月さんはやっぱりそわそわした様子でなんだか不安そうで。
 口を開くのもちょっと心配そうで。

「あの伊織君、今日……あ!」
 言いかけた星月さんの言葉は何かで遮られる。
「……どうしたの?」
「いや、その……用事思い出しちゃったから! ごめんね伊織君また明日!」
 そう言いながら逃げるように小走りに走っていく星月さん。
「ちょ、ちょっと待ってよ、星月さん!」
 でもその声は星月さんに届くことなく、廊下をカーンと反響した。


「あれ先輩、どうしたんですか? いつものお友達さんは?」
 星月さんが帰った後の廊下で声が聞こえる。
「……え? ああ、香菜ちゃんか、真斗なら病院行くって帰ったよ」
「そうですか……それで先輩はどうしてここで立ち往生を?」
「いや、それはその……あ、そうだクッキー美味しかったよ、ありがとう」
「本当ですか、良かったです!」
 ごまかしたような言葉にもキレイな笑顔が飛んでくる。

「うん、ありがとう。それじゃあまた明「待ってください、先輩! その……先輩今日帰り一人ですよね? 一緒に帰りませんか? ……ほら、家の方向同じですよね!」
 まくしたてるようにそういって首を傾ける香菜ちゃん。
 正直、モヤモヤするし、気分ものらないし……でもなんかあれだし。

「うん、いいよ」
「ありがとうございます先輩!」
 僕の答えにガッツポーズで答える香菜ちゃんをボーっと見守った。

「そうだ先輩、私家の近くに美味しそうなアイスクリームのお店見つけたんですよ! 一緒に行きませんか?」
「……それはやめておこうかな」
「えー、でも先輩の家の途中にありますし! すごく美味しそうでしたし! ……そのダメですか?」
「……わかった、テイクアウトだよ」
「はい、食べながら帰りましょう!」


 ☆

 ……本当は伊織君と一緒に帰りたかった。
 今日もみーちゃんは部活休んで彼氏さんとデート。大好きな彼氏さんと楽しい楽しいお家デート。
 だから今日もひとり。今日も私はひとりぼっち。
 だから一緒に帰りたかった。一緒に楽しくお話しながら帰りたかった。
 
 でも……見えちゃって。
 
 廊下の角から出てきた後輩ちゃんの嬉しそうな顔が見えちゃって。
 なんだか怖くて、しんどくて、申し訳なくて……そのまま逃げちゃって。
 だから嘘ついて、学校飛び出して、一人で帰って。
 
 でもやっぱり寂しくて、悲しくて、後悔して。
 でもやっぱりダメな気がして。



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