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君がいないと

告白

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「……私怖かったんだ。飽きられちゃったんじゃないかって、私なんていらないんじゃないかって」
しばらく泣き続けた後、涙が枯れた星月さんが話始める。
「伊織君はさ、お母さんに私の昔の話どれくらい聞いた?」
「ほとんど聞いたよ……いろんなことを」
「そっか、じゃあ話は早いや……私ね小学生のころいじめられてたんだ」
軽いトーンの声とは逆に服をつかむ手にぎゅっと力が入ったのがわかる。
「小学生って酷いよね……顔に大けがをした私を『怪獣だ! 倒せ!』って言って殴ったり、蹴ったり。仲の良かった女の子も私の顔を見てバカにして、水をかけて『これで少しは怪物の顔も増しになる』って……そんなことが続いたせいで、私もう人が信じられなくなって、次第に学校にも行けなくなって」
袖を持つ力がだんだん強くなっていく。
「転校した中学校でも同じようなことが続いて……そんな状況をお母さんとみーちゃんなんだ。私のためを思って転校させてくれて、そこでみーちゃんと出会えて。私はもう一度星月あかりに戻ることが出来たの」
そういってうずめていた胸から顔を上げる。
目の周りに真っ赤な跡がついている。
「みーちゃんとの過ごす毎日はずっと楽しかった……みーちゃんには病気のお母さんっていう絶対的に大切な人もいたけど、私はみーちゃんの大切な友達以上の存在でいれるように頑張った。慣れないメイクもお料理もダイエットも……みーちゃんの隣にふさわしい人になるように頑張って、弱い自分も過去の自分も振り切って、隣に相応しい存在になれたと思ってた」
そういうと星月さんは斜め上を向く。そこには黒田さんと二人で取った写真が大切そうに飾ってあった。
「でもね、でもね……最近ちょっと変わっちゃった。みーちゃんの彼氏……17歳の誕生日になる前からみーちゃん嬉しかったんだろうね、彼氏さんの事ばっかり話すようになって、なんだかみーちゃんが遠くなった気がして、どっかに行ってしまったみたいで、私一人取り残されたみたいで、彼氏さんのことが憎くなって……バカだよね、みーちゃんの幸せが一番、って言っておきながら結局じぶんのことしか考えてなかった。自分のことしか見えてなかった」
「……」
「だから君に告白した。みーちゃんがこれ以上遠くに行ってしまわないように、みーちゃんと同じところにいたくて……ごめんね、利用するようなことしちゃって……でも好きなのは本当だから……嬉しかった」
途中ぼそぼそ言いながら転がっていたアザラシのぬいぐるみを抱きかかえニコッと笑う星月さん。
「伊織君ありがとう。こんな私の話をいつも聞いてくれて、いろいろ付き合ってくれて、そばにいてくれて、いつも助けてくれて。伊織君に会えて……本当に良かった」
「……こ、こちらこそ、どうもありがとう」
「もう……それでね伊織君、もう一個だけお願い聞いてもらっていい?」
そういうと僕の袖をぎゅっとつかむ。
「あのね、まだ人前に怖いから……やっぱり一人では怖いから、明日どこか連れて行ってくれない? 伊織君と2人ならきっと大丈夫だと思うから。だから……ね?」
そういってまだうっすらと残る頬の傷を撫でながら上目づかいで見つめてくる。
「……わかった、どこか行きたいとこある?」
「それは、伊織君に任せるよ!」
そういって今日1番の笑みを浮かべる星月さん。
やっぱり笑顔がよく似合う。

「……伊織君、ありがとう。本当にありがとう」
「……聞いてました?」
すこししてから部屋をでるとお母さんに声をかけられた。
申し訳なさそうにポリポリと頬を掻く。
「うん、ちょっとね……でも今が良ければそれでいいから。ありがとう」
「あ、すいません、その……どういたしまして」
そういって照れ隠しにテーブルに置いてあった焼きたてと思しきクッキーをつまむ……!
「お母さん本当に料理上手なんですね! それでは明日あかりちゃんを迎えに来ますので……よろしくお願いします!」
深々と頭を下げ、星月家をさる。
「本当……あの子には敵わないかもね」
家の中からそんな声が聞こえてきた。

「お母さん……」
「……あかり、良かった、良かった! 本当に良かった!」
「……ごめんね、お母さんごめんね」
「もう、なんであんたが謝るのよ……ほらあんたの好きなクッキー焼いたから一緒に食べよ。お腹空いてるでしょ?」
「うん、ありがとう、お母さん……美味しい」

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