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君がいないと

あかりの気持ち

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「まって、伊織君、待って!」
 そう言ったけど、伊織君の足は止まらなくて、そのままビルの影に行っちゃて。
 そして楽しそうに笑顔で電話を始めて……なんだか悲しくなって。
 この後、伊織君と上手く話す自信がなくて。
 私はその場から逃げ出した。

 暗い路地の裏で昔のことを思い出す。
 小学生みんな私を裏切って私から離れて行って。
 私のとこから誰もいなくなって。一人になって。

 でもそれをみーちゃんと伊織君が救ってくれて。
 私の世界にあかりをともしてくれて。
 二人のおかげで私は私に戻ることが出来て。

 でもなんだか最近離れてる気がして。
 みーちゃんは彼氏さんの話ばっかりだし伊織君は後輩ちゃんとずっと一緒だし。
 なんだか楽しそうで、私といるよりうれしそうで、私よりお似合いで。
 私なんかよりずっとキラキラしてて、私では一生敵わないって。

 だから絶対つなぎとめて置きたくて。
 そっちの方になびいてしまう前に私のところに居てほしくて。


 ……今日みーちゃんに伊織君とのことが伝わった時、もう大丈夫だと思った。
 もう大丈夫、もう心配することは何もないって。


 でも、ダメだった。
 伊織君が電話したとき、その顔が変わった時やっぱり怖くなって、不安になって。
 後輩ちゃんと話すとそっちの方に行ってしまいそうで、伊織君の気持ちがそっちに傾いてしまいそうで怖くて、不安で。
 だから、引き留めようとして。
 重たい女とかみっともないとか、どんなことを思われてもいいから思われてもいいから絶対に行ってほしくなくて。
 絶対に伊織君の心を引き留めて置きたくて。

 でも、行ってしまって。
 私の腕からするする抜けて行って。

 伊織君はそんな人じゃないってわかってるのに。
 なんだか楽しそうにみえる顔に悲しくなって、勝手に逃げ出して。


「星月さーん!」
 近くで伊織君の声が聞こえる。どこか心配そうに聞こえるそんな声が。

 ……正直今すぐ出て行きたい。
 後ろから抱きついて「びっくりした?」って……そして伊織君に好きだってちゃんと伝えて、伊織君の気持ちもしっかり聞くんだ。

 ……でも否定されたらどうしよう。
 そう言うんじゃないって、君の事はそうじゃないって……そんな風に拒絶されたらどうしよう。そうなっちゃたら私は、私は……


 伊織君の私を探す声はずっと届いてて。
 でも、聞かないふりして、傷つくのが怖くて……私は路地裏の隅で小さくなった。

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