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君がいないと
ケーキと雑貨と大天使
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星月さんに手を引かれて電車で2駅、徒歩5分。
駅周辺のにぎやかな場所から少し引いた場所に喫茶店メタマルフォーゼ。ちょっと前に香菜ちゃんといった場所で男女二人で行くと半額になる気でも狂ったのかっていうお店。本日の目的地はここみたいだ、女の子は甘いの好きなんだね、僕も好き!
「いやー、甘いね、美味しいね、最高だね! みーちゃんおすすめのお店だったから来てみたけどおすすめされた以上だよ、このケーキ! 来てよかったね、伊織君!」
「テンション高いね、星月さん……確かに美味しけど僕この前来たばっかりだから」
メタマルフォーゼの落ち着いた店内に椅子がガタっと勢いよく引かれる音が響く。ケーキに落としていた目を上にあげると星月さんが驚いた顔で僕に顔を近づけていた。
「え!? なんで!? 誰と!?」
「ちょっと星月さん近い近い……学校の後輩といったんだよ、迷子の子犬を助けたお礼に、って」
星月さんは怪訝そうにこちらを見つめている。クリームまみれの口が開く。
「もしかしなくても、その後輩ってさっき学校で楽しそうに話してた女の子? いつも話してる女の子?」
「うん、そうだよ、香菜ちゃん……どうかした?」
そういうと星月さんはつーんと唇を尖らしてそっぽを向いてしまった。もしかして怒ってらっしゃる?
「あのー、星月さんどうかされましたか?」
「いや、別に! 伊織君がどうしてようとそっちの勝手だけど、私的にはあんまりそういうのはしてほしくないなって!」
口を尖らせたままの星月さんが強めの口調で答える。
「そういうのって?」
「……あの、その……浮……か」
「え、なんて?」
「何でもない! ともかく、伊織君は私の彼氏なんだから! あまりみーちゃん以外の女の子と仲良くなってほしくないの! 明星女子との合コンとかもいかないで!」
「別に香菜ちゃんとはお礼に遊びに行っただけだしそんな……それに合コンは行ってないし」
「それはそう、そうなんだけど、私的にはちゃんとしたいというか、ちょっと最近親密すぎるというか、この前も二人で……ああ、もう知らない!」
そういってプン! と外を向いてしまった。なんか自分勝手に話切られてちょっともやもや。
そもそも香菜ちゃんをそんな目で見たことないし、星月さんの方が可愛いし仲いいし楽しいし……女の子の気持ちはわからないからもう僕はケーキを食べよう。
甘くておいしいケーキをむしゃむしゃ食べていると、ふぐみたいに真っ赤に膨れ上がった顔で外を見ていた星月さんから突然何かを見つけたのか「あ!」という小さな声が漏れる。
「どうしたの?」
「あ……その、さっきビルの隙間からきれいな金髪が見えたんだけど、あれもしかしたらみーちゃんだったりして。……あ、ごめん、嘘、忘れて! そんな都合よくみー「よし、追うよ、星月さん!」
「え!?」
僕の言葉に星月さんが驚いたような声を上げる。「え!?」じゃないですよ、捜査官!
「何言ってるの、星月さん! 少しでも黒田さんの痕跡を見つけたら追うってのが僕たちの使命でしょ! だから早く、ケーキを掻き込んで!」
僕がそういうと、一瞬不満そうな顔をした星月さんは観念した様にケーキを掻き込み始めた。
「ほふ、ひほひふふひふほほへはふは……ははひはははひほひへほひひは」
ぼそぼそとつぶやいた言葉は食べかけのケーキが邪魔して聞こえなかった。
それより僕は早急にお会計だ、いくらですか! 今日はお金持ってます!
「すごい、本当に黒田さんだ……! 星月さん、君やっぱすごいよ! さすが黒田さん検定2段!」
「うん、ありがとう……」
急いでビル街に行ってみるとそこには本当に黒田さんがいた。さすが星月さん、一瞬の視力、一瞬の判断力!
……だけど、なんだか星月さんのテンションが低くてちょっと調子が狂う。いつもの調子に戻ってほしいな……!
「……伊織君それ何してんの?」
「え、黒田さんレーダーだよ! ほら僕は黒田さんの存在を感知すると前髪が伸びるんだ! ほら、うにょーん、うにょーんって!」
「ふふふ、何それ……私のレーダーはこうやって下唇が伸びるのよ。ほら、こんな感じでうにょーんって」
そうやってよくわからない動きをした後笑顔になる星月さん。良かった、調子戻ったみたいだ。ちなみにあのレー ダーのやつは自分でもよくわかりません!
それで話は戻るけど、黒田さんはビル街の細い路地を一人で歩いている。これは、危ない、誰かに襲われたり後をつけられたりしたら大変だ、僕らが守らなければ!
そんなこんなで、2回目にもなると小慣れ観が出てしまっている後追い作業を星月さんと続けていると、黒田さんの方に動きあり。小さな、どこか懐かしさも感じるような雑貨屋さんの中に入っていった。
星月さんのほうを振り向く。
「いくよ」という風に首をコクコク振っている。
よし、突撃開始! 前回の不完全燃焼をここで回収しよう!
雑貨屋さんの中は小さそうな見た目とは裏腹に結構奥行きがあって広く感じた。でも中ではバレない様に慎重に立ち回る必要がありそう。
品ぞろえはって言うと、可愛い小物だったり日用品だったりがたくさん置いてあるTHE・雑貨屋! というようなところだった。見たことないようなレアそうなものも置いてあるし、何というかTHE・穴場って感じ。可愛いイルカの置物やクリオネのマグカップなど結構僕の心を躍らすような商品をそろっている。
「おー……ねえねえ、伊織君、ちょっと来て! これめっちゃ可愛いしすごい! 一緒に買わない?」
やっぱり女の子はこういうところが好きなのか星月さんが小声でも隠し切れないほど興奮した声で僕のことを呼ぶ。
「なになになに……うわ、これめっちゃ可愛い!」
「そうでしょ、そうでしょ!」
「ちょっと、星月さん声大きい! しー、してしー!」
そうやって指を口にやると今の自分の状況をようやく思い出し、てへっと笑う星月さん。
でもこれはちょっと興奮してしまうのもわかる。
星月さんが指さしたのは北極の仲間たちがデフォルメでそれでいてリアルに描かれている可愛い動物マグカップ。 確かにこれはテンション上がる!
「ねえ、正直私はこれ『買い』なんだけど伊織君はどう思う?」
「うん、僕も『買い』だよ。よし、じゃあ一緒に「あ、あーちゃん! やっぱりあーちゃんだ! 隣にいるのは……松原君!?」
福音が聞こえる。
「えーと、もしかして邪魔しちゃった?」
振り向くと、天使がいた。
☆
振り向くと天使がいた。下からのアングルでもやっぱり天使。
その天使が申し訳なさそうに頬を搔いている。
だめだ、天使にそんなことさせるんじゃない、早く釈明するんだ!
そう脳が僕の体に命令をしているのは感じるが、僕の体の方は全然動いてくれない。出そうと思った言葉も、動こうとした関節もメデュー……いや、これは失礼だ、ごめんなさい。神様の後光にひざまずくことしかできない愚民のように固まってしまって動けなくなる。
やばい、どうしよう、本当にどうしよう……
耳には星月さん?が話している波のせせらぎのような声と黒田さんの「仲良かったもんね!」「いつから、いつから?」「え、私とおんなじなの! 運命だね! あーちゃんやっぱり好き!」
という声が聞こえてくる。ついでに昇天したような鳴き声も聞こえる。
えーと……何の会話でしょうか?
そんな回らない頭で取りあえず現在の状況を把握しようと頑張っていると黒田さんが僕の方へ視線を向ける。え、なんでしょうか、私に至らぬところが……!
「あーちゃんの事これからよろしくね、松……伊織君!」
………………あ。
駅周辺のにぎやかな場所から少し引いた場所に喫茶店メタマルフォーゼ。ちょっと前に香菜ちゃんといった場所で男女二人で行くと半額になる気でも狂ったのかっていうお店。本日の目的地はここみたいだ、女の子は甘いの好きなんだね、僕も好き!
「いやー、甘いね、美味しいね、最高だね! みーちゃんおすすめのお店だったから来てみたけどおすすめされた以上だよ、このケーキ! 来てよかったね、伊織君!」
「テンション高いね、星月さん……確かに美味しけど僕この前来たばっかりだから」
メタマルフォーゼの落ち着いた店内に椅子がガタっと勢いよく引かれる音が響く。ケーキに落としていた目を上にあげると星月さんが驚いた顔で僕に顔を近づけていた。
「え!? なんで!? 誰と!?」
「ちょっと星月さん近い近い……学校の後輩といったんだよ、迷子の子犬を助けたお礼に、って」
星月さんは怪訝そうにこちらを見つめている。クリームまみれの口が開く。
「もしかしなくても、その後輩ってさっき学校で楽しそうに話してた女の子? いつも話してる女の子?」
「うん、そうだよ、香菜ちゃん……どうかした?」
そういうと星月さんはつーんと唇を尖らしてそっぽを向いてしまった。もしかして怒ってらっしゃる?
「あのー、星月さんどうかされましたか?」
「いや、別に! 伊織君がどうしてようとそっちの勝手だけど、私的にはあんまりそういうのはしてほしくないなって!」
口を尖らせたままの星月さんが強めの口調で答える。
「そういうのって?」
「……あの、その……浮……か」
「え、なんて?」
「何でもない! ともかく、伊織君は私の彼氏なんだから! あまりみーちゃん以外の女の子と仲良くなってほしくないの! 明星女子との合コンとかもいかないで!」
「別に香菜ちゃんとはお礼に遊びに行っただけだしそんな……それに合コンは行ってないし」
「それはそう、そうなんだけど、私的にはちゃんとしたいというか、ちょっと最近親密すぎるというか、この前も二人で……ああ、もう知らない!」
そういってプン! と外を向いてしまった。なんか自分勝手に話切られてちょっともやもや。
そもそも香菜ちゃんをそんな目で見たことないし、星月さんの方が可愛いし仲いいし楽しいし……女の子の気持ちはわからないからもう僕はケーキを食べよう。
甘くておいしいケーキをむしゃむしゃ食べていると、ふぐみたいに真っ赤に膨れ上がった顔で外を見ていた星月さんから突然何かを見つけたのか「あ!」という小さな声が漏れる。
「どうしたの?」
「あ……その、さっきビルの隙間からきれいな金髪が見えたんだけど、あれもしかしたらみーちゃんだったりして。……あ、ごめん、嘘、忘れて! そんな都合よくみー「よし、追うよ、星月さん!」
「え!?」
僕の言葉に星月さんが驚いたような声を上げる。「え!?」じゃないですよ、捜査官!
「何言ってるの、星月さん! 少しでも黒田さんの痕跡を見つけたら追うってのが僕たちの使命でしょ! だから早く、ケーキを掻き込んで!」
僕がそういうと、一瞬不満そうな顔をした星月さんは観念した様にケーキを掻き込み始めた。
「ほふ、ひほひふふひふほほへはふは……ははひはははひほひへほひひは」
ぼそぼそとつぶやいた言葉は食べかけのケーキが邪魔して聞こえなかった。
それより僕は早急にお会計だ、いくらですか! 今日はお金持ってます!
「すごい、本当に黒田さんだ……! 星月さん、君やっぱすごいよ! さすが黒田さん検定2段!」
「うん、ありがとう……」
急いでビル街に行ってみるとそこには本当に黒田さんがいた。さすが星月さん、一瞬の視力、一瞬の判断力!
……だけど、なんだか星月さんのテンションが低くてちょっと調子が狂う。いつもの調子に戻ってほしいな……!
「……伊織君それ何してんの?」
「え、黒田さんレーダーだよ! ほら僕は黒田さんの存在を感知すると前髪が伸びるんだ! ほら、うにょーん、うにょーんって!」
「ふふふ、何それ……私のレーダーはこうやって下唇が伸びるのよ。ほら、こんな感じでうにょーんって」
そうやってよくわからない動きをした後笑顔になる星月さん。良かった、調子戻ったみたいだ。ちなみにあのレー ダーのやつは自分でもよくわかりません!
それで話は戻るけど、黒田さんはビル街の細い路地を一人で歩いている。これは、危ない、誰かに襲われたり後をつけられたりしたら大変だ、僕らが守らなければ!
そんなこんなで、2回目にもなると小慣れ観が出てしまっている後追い作業を星月さんと続けていると、黒田さんの方に動きあり。小さな、どこか懐かしさも感じるような雑貨屋さんの中に入っていった。
星月さんのほうを振り向く。
「いくよ」という風に首をコクコク振っている。
よし、突撃開始! 前回の不完全燃焼をここで回収しよう!
雑貨屋さんの中は小さそうな見た目とは裏腹に結構奥行きがあって広く感じた。でも中ではバレない様に慎重に立ち回る必要がありそう。
品ぞろえはって言うと、可愛い小物だったり日用品だったりがたくさん置いてあるTHE・雑貨屋! というようなところだった。見たことないようなレアそうなものも置いてあるし、何というかTHE・穴場って感じ。可愛いイルカの置物やクリオネのマグカップなど結構僕の心を躍らすような商品をそろっている。
「おー……ねえねえ、伊織君、ちょっと来て! これめっちゃ可愛いしすごい! 一緒に買わない?」
やっぱり女の子はこういうところが好きなのか星月さんが小声でも隠し切れないほど興奮した声で僕のことを呼ぶ。
「なになになに……うわ、これめっちゃ可愛い!」
「そうでしょ、そうでしょ!」
「ちょっと、星月さん声大きい! しー、してしー!」
そうやって指を口にやると今の自分の状況をようやく思い出し、てへっと笑う星月さん。
でもこれはちょっと興奮してしまうのもわかる。
星月さんが指さしたのは北極の仲間たちがデフォルメでそれでいてリアルに描かれている可愛い動物マグカップ。 確かにこれはテンション上がる!
「ねえ、正直私はこれ『買い』なんだけど伊織君はどう思う?」
「うん、僕も『買い』だよ。よし、じゃあ一緒に「あ、あーちゃん! やっぱりあーちゃんだ! 隣にいるのは……松原君!?」
福音が聞こえる。
「えーと、もしかして邪魔しちゃった?」
振り向くと、天使がいた。
☆
振り向くと天使がいた。下からのアングルでもやっぱり天使。
その天使が申し訳なさそうに頬を搔いている。
だめだ、天使にそんなことさせるんじゃない、早く釈明するんだ!
そう脳が僕の体に命令をしているのは感じるが、僕の体の方は全然動いてくれない。出そうと思った言葉も、動こうとした関節もメデュー……いや、これは失礼だ、ごめんなさい。神様の後光にひざまずくことしかできない愚民のように固まってしまって動けなくなる。
やばい、どうしよう、本当にどうしよう……
耳には星月さん?が話している波のせせらぎのような声と黒田さんの「仲良かったもんね!」「いつから、いつから?」「え、私とおんなじなの! 運命だね! あーちゃんやっぱり好き!」
という声が聞こえてくる。ついでに昇天したような鳴き声も聞こえる。
えーと……何の会話でしょうか?
そんな回らない頭で取りあえず現在の状況を把握しようと頑張っていると黒田さんが僕の方へ視線を向ける。え、なんでしょうか、私に至らぬところが……!
「あーちゃんの事これからよろしくね、松……伊織君!」
………………あ。
応援ありがとうございます!
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