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デート(追跡)編

母親襲来

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「えへへへ、ふふふ、ふへへへ……ふふふ」
「……大丈夫、星月さん? ごめんなさい、その、さっきの……」
「え? ……いやいやいやいやいや、違う、違うよ、伊織君! そそ、そうだ、次はどのゲームする? つ、次で決着つけるよ!」

 そう言って僕の顔を見ない様に駆け出す星月さん。
 僕も顔見れないと思ったし、慌ててついていった。

「あ、ねえねえ、伊織君このゲーム、このゲームしよ! すっごく面白そう!」

 駆け出した星月さんが指さしたのは銃を撃つタイプの3Ⅾゲーム。
 空を飛び回る感じでかなりやりごたえがある感じ。
 確かにこれはすごい面白そう!

「……あれ、でもこれ協力プレイしかないよ? 決着つかなくない?」
「あ、本当だ……でもまあいいや! 伊織君と協力してゲーム、やってみたいし!」

 そう言ってほほ笑む星月さん。そう言われると……やるしかないね!
 僕協力ゲームは意外と得意だし。
「OK、足引っ張らないでよね!」
「へへ、伊織君こそ!」
 またまた強気な顔をした星月さんがコインを入れるとゲームがスタートする。

「……さっきはあんなこと言ったけど、背中は任せたよ、伊織君!」
 その星月さんの声に僕も大きく頷いた。

「伊織君、右右! 右に敵いる!」
「ちょっと待って、これ操作難しい……あと、すごく酔いそう」
 敵はかなり強かったし、グルグル回る謎に難しい操作間で頭はクルクルするし、照準は全然合わないしで結構大変だったけど。

「大丈夫、伊織君!? わかった、ここは私に任せて! とりゃ!」
「ありがとう、さっすが星月さん!」
「そうでしょ、そうでしょ! もっと褒めていいけど今はゲーム集中!」
「OK、僕も復活、頑張るよ!」
 その分星月さんが頑張って敵をなぎ倒して。
 だから僕もそれにこたえるために頑張って、クルクルする目を何とかまっすぐ向けて。

「やったー、ゲームクリアだよ! やったね、伊織君!」
「結構難しかったけど何とかなった!」
 だからゲームクリアしたときまた大きくお空にハイタッチした!

「ふえー、結構やりごたえあったね、さっきのダンスと合わせて結構汗かいちゃった」
 そう言って胸をパタパタする星月さん。
 ちょっと目のやり場に困る……ことはあんまりなかったけど僕も結構汗かいちゃった。

「そうだ、伊織君最後二人のスコア出るみたいだけどこれで勝負にしない? これでラストの決着つけちゃおうよ!」
「それはずるいよ、星月さん! 君の方が活躍してたじゃん!」
「へへへ、私はずるい女ですから!」

 にやりと笑う星月さんの後ろに今回のスコアがバン! と映し出される。

 その点数はやっぱり星月さんの方が高くて、僕の点数は全然届いてなくて。

「やったね、わたしの勝ちだ! へへへ、何してもらおうかな~?」
 スコアを見た瞬間勝ち誇った顔で僕の方を見てきた星月さんはすぐにニヤニヤ何かを思案するような顔をする。
「えっと……その僕ができる範囲なら何でもするよ? その焼き肉とかは無理だけどラーメンとか、ぬいぐるみとかなら……」
「えー、どうしようかな? 伊織君に何してもらおうかなぁ?」
 僕の言葉にさらにニヤニヤを深める星月さん。
 ええい、もう何とでもなれい!

「……えい!」
 とんでもない要求を覚悟して目を瞑っていると右手にふにっと柔らかい感触。
 目を開けると星月さんが腕を絡ませていた。

「……ちょっと星月さん、どうしたの急に!? ちょっと恥ずかしい……」
「これがお願いなんだけど……ダメ?」
 腕を絡ませた星月さんが上目遣いで聞いてくる。

「いや、その……本当にこんなのでいいの? もっといいことあるけど……」
「いいの、急なお願いだし、それに……今の私はこれでいいから」
 そう言ってピタッと頭を寄せてくる。
 ポカポカの体温とか少し汗ばんだ鼓動とかが近くに伝わってきて。
 なんだかドキドキして。

「ま、星月さんがそれでいいならいいかな! ……それじゃあこれからどうします!?」
 少し声が上ずってしまった僕を見て星月さんはクスクス笑いながら答える。

「ふふふ、なんか面白いね……えっとね、私のど渇いちゃったから休憩したい! この辺に行きたいカフェがあるからそこ行こうよ!」
「……星月さん今日の目的覚えてる?」
「……みーちゃんの彼氏の素行調査!」
「ちょっと遅いし、ちょっと違うけど合格」
「もう、不合格とかあったわけ?」
「そりゃあ色々あるよ。例えばデ……」
「あー言わないでいい、言わないでいいから! それよりカフェ行こ、カフェ! レッツゴー!」
 元気よく叫んだ星月さんを隣に感じながら、僕たちはカフェへ足を進めた。

 ……それを見つけるまでは。
 

 ☆
 しばらく腕を組んで談笑しながら歩いていると路地の向こうで誰かが手を振っているのが目に入った。
 ちょっと小さめのシルエットに落ち着いた色の服装、そしていつも見てる顔……!

「星月さん、ちょっとここで待っててね」
「え……どうしたの?」
 困惑する星月さんをよそに僕はその人物の下へ走り出す。

 その影の前に立つと影は嬉しそうに口を開いた。

「いやー、伊織偶然ね! こんなとこで出会うなんて! デート中ごめんね! その袋……彼女さんと服を買いに言ったでしょ!」
「……絶対図ってたよね? 僕に会うためにこの辺うろうろしてたんでしょ!」

 僕はその影―自分の母親に向かって声を荒げてしまう。何してんだこの人。

 僕の言葉に母さんは空を向いて口笛を吹く。確信犯じゃねーか、こんにゃろう。
「そんなことより伊織、母さんに彼女紹介してよ! どうせいずれ紹介するんだからいいでしょ!」
「いやだ「なんでよ! 見してよ! いいじゃん、別に! また家に呼ぶんでしょ!」

 僕の言葉を遮ってわめきだす母さん(38)。
 恋愛がらみでやだやだもーどの入った母さんはてこを使ってもめったに動かない(38歳)。

 ……仕方がない、ここは可哀そうだけど星月さんに犠牲になってもらおう。いずれ母親に会いたいと言っていたし、しょうがない犠牲だ。

「わかったよ、ほし……あかりにあわせてあげるからこんなところで駄々こねないでしゃんとしてよ、みんな見てるよ」
「うん、じゃあ早く紹介して!」
 現金な人だな、本当に。

「あ、伊織君何してた……えっと、その人は……」
「⋯⋯これ家のお母さん」
「お義母さん!? ししし失礼しました! わ、わたくし、伊織君の彼女やらしてもらっています、星月あかりと申します!」
 突然の母親の襲来にものすごくてんぱりながらなんとか応対する星月さん。やらしてもらっていますはちょっと危ないけどまあ、大丈夫だろう。
 
 後はうちの母親がどんな反応するかだが……

「こんにちは、私は伊織の母です。伊織から話は聞いています」
 よそ行き清楚モード!? なんで? いつものハイテンションは?

「あ、はい、そうです、私が伊織君の彼女の星月あかりです! いつも息子さんにはお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ迷惑かけていないか心配ですよ。不束者ですがこれからもうちの息子と仲良くしてくれたらうれしいです」
 そういってにこっと笑う母さん。
 誰だおまえ、僕の知ってる母さんはここでテンション上げてマシンガンで聞きまくるんだぞ、僕の知ってる母さんを返せ!
「そ、それはもちろん! こ、これからもよろしくお願いします」
 その星月さんの言葉にもニコッと笑うだけで何も言わない母さん。
 なんか言えよ、いつもの恋バナ大好きマンになれよ。
「ふふふ、それじゃあ若い子の邪魔にならないようにおばさんはここで帰りますね。それじゃあ、デート楽しんでくださいね」
 そういって去り際に僕に向かって「素敵な娘と一緒になれてよかったね」ときれいな笑みを向け、そのまま視界から消えていった。

 母さんはどうしてしまったのだろうか? 昨日のテンションやさっきのテンションと違いすぎる。
 明日病院に連れて行った方がいいかもしれない。
「ねえねえ、伊織君のお母さんすごくおしとやかでいい人だったね! もしかしたら君のお父さんもロリコンじゃなくていい人なのかな!? お義父さんに会うのもちょっと楽しみになっちゃた!」
 そのワクワクした言葉に僕はあいまいに笑う。「普段こんなんじゃないんだけどね」とは言えなかった。
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