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「ああ、リアリーを朝から見られるなんて私はなんて幸せ者だろうね」

リアリーは私リアリーヌの愛称。そんな愛称とキザな言葉を放ちながら起きてそうそうにこにことした笑顔で私を見るのは姿。何故私の部屋に?

なんて疑問文はもはや抱かない。いつだって気がつけば隣にいるのがシアルトであり、気にかけるだけ無駄だと悟っている。だから私は無言で起き上がり支度を始めようと鈴を鳴らす。

追い出すのすら面倒だ。何せ私は朝に弱いから。

「リアリー朝から不機嫌な君もまた美しいね」

なんて機嫌よく話すシアルトにため息を吐きながらコンコンとノックをして入ってくる侍女は驚く素振りもなく私の支度を始める。

「頼んでくれたら私が着替えくらいするのに」

「陛下、私のお仕事を奪われては困ります」

「私がリアリー専属の侍女になるのはどうだろうか?」

「……王妃様、今日はこちらでいかがですか?」

「いいわね」

バカなことを言うシアルトについには侍女すらも無視。話でわかるだろうが、この侍女にすらも呆れられ無視される私の夫ことシアルトは信じられないことにこの国の頂点に立つお方。

え?国が心配?そこは器用な方だから信頼していいわ。けど、私への愛情をもう少しだけ抑えてほしいと思うこの頃。

最初こそ今とは全く正反対の物静かな人だったし、こんなにこやかに笑うどころか睨む顔つきで恐れられるような人だった。実際、私も最初は怖かったもの。

そうそう確か………

「……お前が、俺の婚約者?」

「は、はい……っ」

「ふーん……」

政略な婚約で仲良くしなさいと二人にされた最初の日、睨むようにして言われたそれはとても怖かった覚えがある。幼いながらも言葉をはっきりと言えるシアルトは、まだ舌足らずな私に余計恐怖心を煽り、その日はそれ以降ただ静かにお茶を飲むだけで終わりを告げた。そして後日以降はただただ親に言われて会ってはシアルトに睨まれるばかりで泣きそうなくらいに辛い日々。

そんな日々に終止符が打たれたのは緊張のあまり私がドジを踏んで転けそうになった時だった。

「危ない!」

そう叫んでシアルトはすぐ私を転ける前に庇って下敷きになった。

「で、でんかぁ……っ」

それに気づいて慌てて立ち上がろうとするもどうしよどうしよと焦ってうまく立ち上がれない時だ。

(く……っおれがちゃんとエスコートできないばかりにリアたんを危ない目に!しかも力がないばかりにこんなカッコ悪い庇い方リアたんに幻滅されたらどうするつもりだ!俺!ああっでもリアたんに触れられたのはラッキー………いやいや、これは不可抗力で……)

明らかにシアルトの声なのに彼は口を動かさず目を瞑っているから私はよくわからず首を傾げる。

(そ、それにしてもリアたんはいつ降りるのだろうか?俺としては嬉しいが、目を開けられる気がしない。だって目を開けた先に天使が俺に乗っかっているんだぞ?天国行き間違いなしだろう。俺はまだ死ぬわけにはいかない)

やっぱり聞こえると思いながらも、逆に少し落ち着いてようやく殿下から退けばぱちりと殿下が目を開け立ち上がり、私は恐る恐る近づいた。

「で、でんか、だいじょうぶ、ですか?」

「お前は……怪我は?」

「だ、だいじょうぶ、です……っあの、たすけてくれて、ありがとう」

「………っああ」

その日それからよくわからない殿下の声が聞こえることはなかったが、私はある日自分の力を知ることになる。

……兄によって。

「リアリー、殿下とはうまくやれてるかい?」

それは兄が心配して私の部屋に訪ねて来て頭に手を置かれた時だった。

(うまくいってないならすぐ婚約は白紙にしよう。そうしよう。殿下がリアリーを泣かすようなら国を見限ってやる!)

「にいさま、こんやくはくしにするの?」

「え?」

そこからはあっという間に私の能力は家族に伝わる。どうやらうちの家系で稀に現れる能力らしく、人に触れることで心を読み取れるのだとか。

それを聞いて知る真実はひとつ。

あの人、私のことあの怖い顔つきでリアたんって呼んでるの?別の意味で怖くなった瞬間だった。
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