暴君皇帝は幼妻にご執心

下衆伯爵捕獲

そんなこんなでトルンタ侯爵夫人は気が済んだのか、後は任せますねとひとりその場を去っていった。馬車にも乗らず走って。走ってトルンタ家からここまで行き来しているんだろうか………？と疑問はあるものの、誰もが見なかったことにした。

「珍獣………いや、侯爵夫人もいなくなったことだし、このクズを処罰のために連れていかなくてはな」

侯爵夫人を珍獣扱いしそうになる陛下になんとなく共感しながらも、陛下が直接連れていくのだろうかとこれまた疑問を浮かべる。宰相様は人を運べそうな力がありそうには見えないから……。そもそも急だったから私たちの他には御者しか連れてきてないのがおかしい気がする。

陛下の強さは暴君とは別の意味で噂になるぐらいだから腕は確かなんだろうけど………。

「陛下直々に処罰されるなんて運のいい人ですね～」

そんなことを思っていれば、宰相様がいい気味だとばかりに悪どい顔をしながらそう言いのけた。まるで宰相様の方がどこぞの悪役のようだわ。

「とりあえずお前がこれを馬車まで運べ」

「え？私がですか？」

「こんな汚いものを俺に運べと？」

「あまり重いものは持てないんですが………ひきずりますか」

伯爵にとって運がいいのか悪いのか、宰相様に両足を抱えられずるずると引きずられるも、既に外だったため大した距離ではなかった。しかし、わざとかわざとじゃないのか顔を地面につけられた上で引きずられていたので伯爵の顔は余計ぼろぼろに。

もはや侯爵夫人からやられたのもあり、原型が留まってない。父を脅したり許せた人ではないけれどこの姿を見ると自業自得とも言えるけど少しばかり同情する。

もちろん許しはしないけど。

「性犯罪に暴行、脅迫とトリプル犯罪者ですからしっかり裁いてくださいね！陛下！」

……と思ったのも束の間。伯爵を運び終えたどこか殺やる気満々な宰相の言葉に、同情の余地はないとすぐ思い直す。なんせやったことが倍に返ってきただけなのだから。

「皇族への反逆罪も追加しろ」

「伯爵は内乱でも起こそうとしてたんですか……？」

思ってた以上に悪どい犯罪者だったのかと驚きを隠せない。反逆者なんて陛下の敵として死を覚悟するようなものなのだから。うまい話があっても、賢い貴族なら反逆だけは陛下が生きている間はするはずがない。

でもこの伯爵は賢そうには見えないわね………まさか、本当に………

「未来の皇妃に手を出そうとしたのだから当然罪は受けなければいけないだろう？」

未来の………皇妃？

「え、私………？」

「俺はコルトリア以外を娶るつもりはない」

「………っ……そ、そうですか」

お、おかしいな、顔が熱いわ………皇妃なんて恐れ多いだけのに………なんで………？