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まだその時ではなくて

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「父を殺した事情はまだ話せない。しかし、皇帝の跡継ぎとして必要な………ことだった」

陛下の瞳が揺らぐ。どこか納得しきれてないような、後悔をするようなそんな瞳。それを見ると噂のように皇帝になるために父親を殺したようには思えない。

「そうですか……」

「聞きたいとは思わないのか?」

「気にならないとは言いませんが、陛下が話せないことを話せという権利もございませんから。それに、殺したくて殺した訳じゃないって顔に出てます」

「……! そんなにわかりやすかったか?」

「ふふっはい」

あれで出してないつもりだったのかと思えば陛下も少し可愛く思えた。こういった姿が昨日トールには見えていたのかもしれない。トールに指摘されず、陛下の噂ばかり気にして今も怖がっていれば私は未だそれに気づきもしなかっただろう。

トールには感謝すべきかもしれない。でも寝起きの私に準備もさせず、上着だけ着せてみっともない姿で陛下の前に連れてきたのは許さないんだから!

「………っ」

「陛下?」

それはそれとして陛下の反応につい笑ってしまえば陛下は驚いたように目を見開いた。さすがに気に触っただろうかと少し不安になる。

「初めて………笑ったな」

「え?」

「可愛い」

「っ!?」

ただ私が笑っただけで何故そんなに嬉しそうなのか。何よりその愛しいとばかりの甘さを含んだ声で可愛いと言うだけでなく、顔面凶器とばかりの美しい容姿で笑みを浮かべながらは反則だと思う。顔が熱くて仕方ない。

「? 顔が赤いな……疲れでも出たか?」

「ち、ちが………うぅっ」

「こ、怖がらせただろうか?」

「そそそうじゃなくてぇ……っ」

頼むから少しばかりそっとしてほしいのに、陛下に誤解をさせたくはなくてもう頭が大パニックだ。鋭いようで意外と陛下は鈍感なのかもしれない。これでは陛下が勝手に誤解して傷ついてしまいかねない。

「コルトリア………」

「へ、陛下がかっこいい顔で可愛いなんか言うから照れてるんですぅーっ!」

だから私は自爆の道を選んだ。人を傷つけてまで羞恥から逃げようなんてことはしたくないから。例えその原因の人でも!

「照れて………?意識、してくれたのか?」

「うう……っ」

なんで、なんでわざわざそれを聞くのか!意識も何も陛下はご自身の容姿と声のよさを自覚すべきだ。誰だって陛下に可愛いなんて言われたらなんとも言えぬこの気持ちと共に身体中が熱くなるに違いない。

「く、くく………っこんなに嬉しい気持ちは久々だ」

私が羞恥と闘ってる中、嬉しそうに笑う陛下は暴君という言葉とはかけはなれた青年のようだった。

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