暴君皇帝は幼妻にご執心

なんでこうなった？～トール視点～

僕はトール・スモール。スモール家長男であり、スモール家の中では末っ子でもある。スモール家は親戚すらも大人になっても見た目が幼いという特徴がある。さらには純粋というか天然というか、今までよく貴族社会で生き残ってきたなと疑問視されるぐらいには貴族社会では浮いた存在。

そんな中でスモール家の遺伝を継ぎながら背の高い僕は所謂先祖返り。この幼い見た目でバカにされるのをなんとかできないかと背の高い人と結婚したということがきっかけだとか。それでもスモール家は対して変わらず稀にその血が急に現れ僕みたいなのが生まれるらしい。

まあそれはいいとして、このスモール家は決して貧乏ではないし、僕の家族もバカではないはずだけど単純というかなんというかとにかくまだ成人もしてない僕がいうのもあれだけど両親すらも世話が焼ける。

それは僕が生まれた頃から。何せ僕が生まれて最初に言った言葉が

『だまされちゃ、めっ』

だったらしい。ちなみにこれにより両親が詐欺に騙されずに済んだらしいし、使用人たちは今でも生まれたときから素晴らしいと僕を褒め称える。なんならスモール家が治める領地の住民さえもが未だに同じことで褒めるから切実にやめてほしい。普通に恥ずかしいから。

何せスモール家は貴族でありながら領地の平民と仲がよく、なんなら平民たちの方がしっかりしているためスモール家が今まで無事に貴族でいられたのも平民たちが自ら世話を焼きに来るからだ。なんならスモール家の領地では平民の方が貴族について詳しかったりする。

それもそのはず、スモール家は優しすぎるが故に没落した貴族や犯罪を犯して貴族でいられなくなったものですら平民でよければと受け入れ、困ってないかと度々様子見しては助けに来るため誰もが絆さていく。そして、いつかスモール家が困ったとき役立つようにと子供に、貴族を知らぬもので望むもの全員に貴族社会と似た教育をできる限り教えてきた時代が今でも続いているため、それはもう平民で生きながら貴族に詳しいというか、今ではそれが常識にすらなっている。

スモール家の領地はそこまで広くないのもあり、民たちの協力体制はすごいし、忠誠心も異常なほど。中には荒くれものすら民が引き入れ、スモール家の恩恵だと半ば洗脳じゃないか？と思うようなスモール家語りと荒くれものになるしかなかった人物たちはそこで初めて優しくされることで気がつけば住民になっている。

なんなら、迷惑はかけられないと自ら自首しにいき、釈放後スモール家の住民になるべく戻ってくるのだから感心するしかない。

住民になればこれまた必要知識として貴族が習うことも進んで習うのだからそれはもうスモール家の住民の賢さといったら………それにより、スモール家の領地はそこまで広くないにも関わらず学者になったり、騎士になったりと優秀なものたちが多い。

それでも国に仕えながらも幼い見た目と身分や過去のこと関係なく優しさを存分に注がれた領民たちは、スモール家を守るためなら国だって裏切るなんて言えるのだから心配だ。さすがに言い触らすような真似はしないが。そんなわけで民に守られる貴族こそがスモール家であり、今まで無事貴族をやれてきた理由であった。そんなんだから余計他の身分を気にする貴族にバカにされているみたいだけど。それに関しては民がいるから貴族であれるというのにバカはどっちだと思うが。

まあそんなこんなで珍しくスモール家にないタイプの僕がスモール家に生まれたのはそれはそれでスモール家がより安泰するとして民としては喜ばしいことなんだとか。

まあそんなわけで今日陛下が開かれる舞踏会については民や使用人たち含め、着いていった方がいいのでは？と誰もが父や母、姉に過保護なため散々言われたが、父が着いていくとなると領地の仕事が片付かないため残るしかなかった。なんで成人もしてない僕がしてるんだろ………と思うけどそこはもうよくあることだし、慣れたから構わない。父も仕事はしっかりやるタイプが、何せ一生懸命やっているのはわかるものの仕事が遅いため、結局毎度手伝ってしまうのだ。

それはそれとして話を戻すが、皇帝様に開かれたものだとしてもたかが舞踏会。姉も久々の社交界に緊張しすぎてるだけで最近はめっきり行ってないが、早々なことは起こらないだろうと言えばみんなもなんだかんだと納得したようだった。

でも民に言われた通り、仕事を明日に回してでも着いていくべきだったと今なら思う。

「皇帝の前で気絶？皇帝に妻にしたと宣言された？結婚式の詳細が後に届く？なんでそうなったの……？」

「目が、合ったから………？」

目があってそうなるなら適齢期からの挨拶は絶対と書かれていたから逃げようがなかったじゃないか。結局僕が付き添いで行っても無駄だったってこと？もう訳がわからない。

「こんなことなら父上に女装させて代わりに行かせるんだった………」

「やはりトールもそう思うか………」

「はぁ……」

こんな考えが浮かぶなんて僕の頭はキャパオーバーしたらしい。とりあえず、普段は頼りない部分が多い父だけど家族愛だけは確かな父がすんなり認めたとは思わない。とはいえ、僕自身陛下との話が許されるならしたいと思う。

でないとただでさえ未だ脅迫してくる伯爵への対処を考え中だからと民たちに怒りを我慢してもらっているのに、そこへ皇帝の強制で姉様が結婚という話を知れば、元荒くれものたちでなくてもこれ以上耐えさせられる気がしな………

「「「「「「「「国に反逆のときが来た！全てはスモール家のために！」」」」」」」」

「「「「「スモール家のために！」」」」」

…………いやいや、情報伝わるの早くない？頼むからやめて？

「みんな元気がいいな……」

「領地に戻ったって気分ね」

「なんだか安心するわね！」

「父上、母上、姉様、落ち着いたのはいいけど、あの叫びを変にスルーしないでよ………」

「「「「「武器を持てー！」」」」」

「ああっもう！止めてくるから待ってて！」

「「「いってらっしゃーい」」」

家族がこれだから僕はまだ成人もしてないのに気が抜けない日々なのだ。いざというときはやれる人たちだし、僕も大好きな家族だけれど、もう少しなんとかならないものか………。

「まあ……家族のためなら頑張るけどさ」

でも結局は僕もスモール家の血筋だからだろう。家族愛は誰にも負けていない自信があるし、どうあっても家族のためならいくらでも頑張ってしまいたくなる。それが苦痛とは決して思わないし、頼られることもなんだかんだ嬉しい自分がいるから。