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37~ミリーナ視点~

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確かに復讐の炎は見え隠れしているのに、一歩踏み出せない何かを感じるようになり、進展しない状況に私は飽きてしまった。

だから………

『愛せない子がいるから辛いのかもしれないわ。それに、子供がいる限り貴女はハワードから距離を置けないでしょう。ゼロは貴女の鎖となっているのよ』

キャロエの子供を利用しようと考えた。理由は簡単。ハワードよりもキャロエの関心がゼロにあったように思えたから。

罪はないが、罪の血と己の血を受け継いだ存在。本物の罪人の子というのはキャロエにとって両親を亡くした後の自分を見ているようだったのだろう。キャロエは偽物の罪人の子だったわけだが。

だからこそうまく憎めず、しかし、愛せはしなかった。その元凶はハワードなわけだけど、キャロエを誰よりも苦しめたのは子供のゼロだと私はこの時には確信していた。

たまに私の願望かもしれないと考えもしたが。だって母親に愛されず憎まれる子供が可哀想で可哀想で……それが、楽しくて仕方ない。

人の不幸は蜜の味。だからこそ人間観察はやめられない。どんな人か見極め、どんな不幸な未来を歩むのか。少々手の加えたスパイス導きを差し込むことでさらに面白い物語を観察したい。

欲は増すばかりだった。

だからゼロを一度キャロエが殺しかけたと聞いたとき、見れなかったのが残念だったけど、未遂で終わったことでチャンスが舞い込んだことを私は喜んだ。

一度あることは二度ある。間近で見られない死に興味はない。目の前で死ぬ瞬間こそ人は美しい。

だから次は逃さないように入念に作戦を練った。キャロエがゼロメイリーンとして認識することを聞いて、それで落ち着くかもしれないから様子を見るようクリスにも、ハワードにも説得した。

クリスはこちらでゼロを引き取っては?なんて面白くないことを抜かしたけれど、改善の余地があるかもしれないのに母親と父親から離すのは可哀想だと言えば、バカな男二人はそれで納得。簡単なことだった。

そして次に起こした行動は、ゼロの存在をお義父様とお義母様に伝えること。また昔みたいに息子を誑かしたとか適当に理由をつけてキャロエとゼロの処刑があればそこで終わりだったけれど、二人は何故かキャロエとは会わず、ゼロと仲良くなろうと考えているようだった。

ハワードがキャロエのために家を出たことで、心境の変化でもあったのか。もしくはキャロエの親を処刑したことに今更罪を感じていたのか、これに関しては予想外だった。

しかし、それ以上に私は見落としていた。歪んだ母親の傍で母親に愛されたい子供が歪み始めていたことを。

『おばさん、母さんとばあさんには言うなって言われたけど、じいさんをね、ぼく殺したんだよ。母さんがぼくを愛さない理由がじいさんのせいだったから。母さん喜んでくれると思ったのに………笑ってくれなかったんだ』

ハワードとクリスがゼロを私に預けて去った後、ゼロがこそこそと悩みを相談するかのように私に言った。何を言っているのか、最初は私でも理解できなかったが、キャロエによってお義母様、お義父様が殺されたと聞いて私はショックを受け、手で口を覆い、泣いたふりをしながら口角をあげた。

これが、笑わずにいられるだろうか?予想もしない展開。ゼロの行動は私を楽しませた。私が望む展開へと導いてくれたのだから。

何より、ゼロはもしかすると私と似た存在かもしれない……そんな仲間意識すら芽生えた。
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