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29~ミリーナ視点~
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ああ……もう。これ以上どう言い繕っても疑いからは逃れられないのがわかる。終わったことだと割りきってくれればいいのに。
何故誰も彼もが犯人もどきを探そうとするのだろう?私が殺したのは正当防衛として平民ひとり殺しただけなのに。
黒幕探しみたいなことをして自分に酔っているのかしら?
「不思議なことを言うんですね。私とキャロエさんに接点はほぼなかったと思いますが」
まあ平民と貴族との接点なんてそうそうできるわけもない。忍んで平民の暮らしに溶け込もうと、身分の壁というのは崩せるはずもないのだから。
接点ができるとしたらそれは偶然か、もしくは仕組まれたもの。でも仕組まれたものも気づかれなければそれは偶然でしかない。
存分に疑えばいい。その疑いは必ずしも間違いではないとわかるようにいくらでも表情を作ろう。あからさまに動揺して真実なんてものが逆にわからなくなるように。
この世には知らなくていいものもたくさんあるのだから。息子のこととかね。
「で、でも数回くらいは……会って……」
ゼロは昔を知っていても幼い頃の記憶は頼りになるとは限らない。その年にしては記憶の混濁があったというのに、随分覚えているようには思うけど。
「そうね。ゼロを預かって返した時にも会わなかったと言えば嘘になります。けど、その数回で味方だと信用を得るなんてできるのかしら?私もキャロエさんの嫌う貴族だというのに」
にこにことわざとらしく、疑われて困ったとばかりの表情を作る。益々私を怪しむ回りが面白くて仕方ない。わかるはずがないのだ。そもそも会ったのは数回の少ない時間だけで間違いないのだから。
「てがみ………」
そんな時だった。ぼーっとした息子がそう呟いたのは。
まさか記憶がこの状況で戻りつつある?
「そういうこと……二人は、隠れて手紙のやり取りをしていたわけね?さっきから思っていたけど、息子さんが記憶をなくすような出来事があったのは、誰かさんが知られてほしくない何かをミリーナ様の息子さんに知られたのかもしれないわね」
自分の娘の婚約者の浮気についての件だけを片付ければいいものを、何故この女は人様の過去を暴こうとしているのか、理解に苦しむ。
こっちはゼロの制裁に協力するよう言っていたのに。最初からこれが目的だったのかしら?でも何をきっかけに怪しまれたのかだけがわからないわ。
今まで何一つ疑われてこなかったのに。
「それこそゼロが殴った部位がよくなかったのかもしれませんよ?」
「頭から血を流しながらも婚約者の家へ行けた方が数時間後気を失い記憶をなくすなんてこと……あると思いまして?」
「ふらついてまた頭をぶつけた可能性はあるかもしれませんね」
これに関しては私のミス。まさかイチがあの血だらけの状態で家に帰る前にエミリー嬢の元へ行っていたなんて思いもしなかった。わざわざ死んだら私を疑えとばかりの伝言まで残して。
そもそもエミリー嬢はイチが重体の時でさえ、何を考えているかわからない子だったから、余計に思いもしなかった。これだから早く婚約相手を変えたかったのに……。
それに元々二人の婚約は失敗する前提だった。イチの相手が相手だったけれど、浮気をしてくれたのはちょうどよかったのに。寧ろそれで構わないというような令嬢なら最初から選んではいなかった。
思えばこの時から私の計画は崩れていっていたのかもしれないわね。
イチの婚約自体が失敗だった。
イチに自我が芽生えたのがよくなかったのだ。あれだけ感情のなさそうな子なら……と思っていたのに。
何故誰も彼もが犯人もどきを探そうとするのだろう?私が殺したのは正当防衛として平民ひとり殺しただけなのに。
黒幕探しみたいなことをして自分に酔っているのかしら?
「不思議なことを言うんですね。私とキャロエさんに接点はほぼなかったと思いますが」
まあ平民と貴族との接点なんてそうそうできるわけもない。忍んで平民の暮らしに溶け込もうと、身分の壁というのは崩せるはずもないのだから。
接点ができるとしたらそれは偶然か、もしくは仕組まれたもの。でも仕組まれたものも気づかれなければそれは偶然でしかない。
存分に疑えばいい。その疑いは必ずしも間違いではないとわかるようにいくらでも表情を作ろう。あからさまに動揺して真実なんてものが逆にわからなくなるように。
この世には知らなくていいものもたくさんあるのだから。息子のこととかね。
「で、でも数回くらいは……会って……」
ゼロは昔を知っていても幼い頃の記憶は頼りになるとは限らない。その年にしては記憶の混濁があったというのに、随分覚えているようには思うけど。
「そうね。ゼロを預かって返した時にも会わなかったと言えば嘘になります。けど、その数回で味方だと信用を得るなんてできるのかしら?私もキャロエさんの嫌う貴族だというのに」
にこにことわざとらしく、疑われて困ったとばかりの表情を作る。益々私を怪しむ回りが面白くて仕方ない。わかるはずがないのだ。そもそも会ったのは数回の少ない時間だけで間違いないのだから。
「てがみ………」
そんな時だった。ぼーっとした息子がそう呟いたのは。
まさか記憶がこの状況で戻りつつある?
「そういうこと……二人は、隠れて手紙のやり取りをしていたわけね?さっきから思っていたけど、息子さんが記憶をなくすような出来事があったのは、誰かさんが知られてほしくない何かをミリーナ様の息子さんに知られたのかもしれないわね」
自分の娘の婚約者の浮気についての件だけを片付ければいいものを、何故この女は人様の過去を暴こうとしているのか、理解に苦しむ。
こっちはゼロの制裁に協力するよう言っていたのに。最初からこれが目的だったのかしら?でも何をきっかけに怪しまれたのかだけがわからないわ。
今まで何一つ疑われてこなかったのに。
「それこそゼロが殴った部位がよくなかったのかもしれませんよ?」
「頭から血を流しながらも婚約者の家へ行けた方が数時間後気を失い記憶をなくすなんてこと……あると思いまして?」
「ふらついてまた頭をぶつけた可能性はあるかもしれませんね」
これに関しては私のミス。まさかイチがあの血だらけの状態で家に帰る前にエミリー嬢の元へ行っていたなんて思いもしなかった。わざわざ死んだら私を疑えとばかりの伝言まで残して。
そもそもエミリー嬢はイチが重体の時でさえ、何を考えているかわからない子だったから、余計に思いもしなかった。これだから早く婚約相手を変えたかったのに……。
それに元々二人の婚約は失敗する前提だった。イチの相手が相手だったけれど、浮気をしてくれたのはちょうどよかったのに。寧ろそれで構わないというような令嬢なら最初から選んではいなかった。
思えばこの時から私の計画は崩れていっていたのかもしれないわね。
イチの婚約自体が失敗だった。
イチに自我が芽生えたのがよくなかったのだ。あれだけ感情のなさそうな子なら……と思っていたのに。
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