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「その日は父さんがケーキを買ってきてくれて家族三人で祝っていた。叔父さんも、仕事が終わり次第叔母さんと後から来てくれる予定で、ケーキを先に食べながら祝っている時だった。母さんが突拍子もなくごめんなさいとそう言って隠し持っていた包丁で俺と話していた父さんの胸を貫いたのは」
祝っている時に突然だったのか。幸せになると思われたそんな時に……。
「何が起きたのか理解できなかった。さっきまで笑い合ってい父さんが真っ赤に染まって、同じように笑っていたように見えた母さんが涙を流しながら父さんを刺した包丁を持っていたから」
楽しい瞬間が一気に血に染まれば、それは確かに記憶を改竄したくなるほどのショックになるかもしれない。それが自分の母親による手によってなら余計に。
ハワードが事故で死んだと記憶を改竄したのは、母親が父親を殺したことを認めたくない気持ちがそうさせたのがわかる。
「その時、キャロエさんは他に何か言っていたの……?」
「ずっと謝ってた。ごめんなさいと繰り返し。それで謝りなが母さんは包丁を捨て、俺の首を締めて殺そうとした」
「そこで私とクリスが家に着いたの。クリスはゼロを守るためにキャロエさんをゼロから離したけれど、あまりに暴れるからと覆い被さるように上から押さえつけたのが間違いだった。近くに包丁が落ちていることに気づかなかった夫は、キャロエさんを押さえつけるのに必死で包丁を手に取ったことに気付かず………そのまま刺されたわ」
状況は違えど、そこをゼロは叔父が母親を襲おうとしたと改竄……したのね。全ては母親の仕出かしたことを信じたくない幼い心がそうさせた。
「それで、叔父さんを退け、また俺を殺そうとした母さんから包丁を奪い取った叔母さんが母さんを殺した」
「……ええ、思い、出したのね」
付き人の正体はミリーナ様……?なら、付き人は殺されたわけじゃなく、存在しなかったのね。ゼロは無意識にそれを理解した上で記憶を改竄してしまっていたのかもしれない。
「そうして死ぬ寸前母さんが残した言葉が、愛せなくてごめんねという言葉……だった。まだ子供だったけど、理解するにはそれだけで十分だったんだ。母さんは俺が母さんに愛されたくて祖父を殺したのを理解した上で庇おうとしたことを。俺が母さんを追い詰めた。俺が追い詰めたせいで母さんは一家心中をしようとした。俺が祖父を殺したから………っ」
自分のせいで起きた悲劇。それが、記憶を改竄せずにはいられなかったほどのショックな出来事。
母であるキャロエが父であるハワードを殺し、さらには止めようとした叔父までを殺した後、ゼロを守るために叔母にキャロエを殺させてしまった。私が子供のときその現場にいたなら、正気でいられただろうか?
でも記憶を改竄したせいで、ゼロはさらなる罪を重ねてしまった。殺人ほどではないかもしれないが………それでも罪に小さいも大きいもない。
自分を保つためだったにしても……過去は覆せないのだから。
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「何が起きたのか理解できなかった。さっきまで笑い合ってい父さんが真っ赤に染まって、同じように笑っていたように見えた母さんが涙を流しながら父さんを刺した包丁を持っていたから」
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ハワードが事故で死んだと記憶を改竄したのは、母親が父親を殺したことを認めたくない気持ちがそうさせたのがわかる。
「その時、キャロエさんは他に何か言っていたの……?」
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状況は違えど、そこをゼロは叔父が母親を襲おうとしたと改竄……したのね。全ては母親の仕出かしたことを信じたくない幼い心がそうさせた。
「それで、叔父さんを退け、また俺を殺そうとした母さんから包丁を奪い取った叔母さんが母さんを殺した」
「……ええ、思い、出したのね」
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でも記憶を改竄したせいで、ゼロはさらなる罪を重ねてしまった。殺人ほどではないかもしれないが………それでも罪に小さいも大きいもない。
自分を保つためだったにしても……過去は覆せないのだから。
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