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18~???視点~
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そして私は複雑な感情のままに何もできず、月日が経ち、子が生まれた。その間にハワードは自ら父に逆らい平民となり、私の側から離れることはなかったが、私は何も言わなかった。
いくら憎かろうが、愛する人で、ハワードがいなくなればまた罪人の娘として孤独になることは目に見えていて、そんな孤独の中で子供を抱えることなどできるはずもなく、私には選択肢など最初からあるはずもなかった。
せめて、いつか、この憎しみがすべて愛に変わる日が来るかもしれない、子供が生まれることで幸せな家族になれるかもしれないと、苦しい気持ちを抑えて、そうなるように願うしかなかった。
けれど不幸なことに、生まれてきた子供は男の子でハワードに……何よりハワードの父に似ているように思えて私は一層憎しみが膨れ上がった。
「こんな子いらない!こんな子供………!」
「キャロエ……っすまない、すまない………」
子供に罪はないとわかってはいるのに。仇を生んでしまったような……憎むべき対象を増やしたような気持ちとなった。自分の子供なのに。愛すべき子供だというのに、憎しみに染まった瞳でしか見れない自分が何よりも嫌だった。
「ああああっああああっ」
私が泣き叫ぶせいで泣いてしまう子供。泣きたいのは私の方だ!なんて最低なことさえ感じて、より涙が出る。生んだのは自分、彼の側から離れようとしなかったのも自分。
全部全部私が悪い。気持ちの整理をしないまま、こんな状況を生んでしまった私が。
それでもハワードは私を支えながら子供の面倒を見てくれた。子供を愛しそうな目で見る彼が、羨ましく、妬ましかった。罪のない子供すら仇として見てしまう自分がただひとり孤立したようなそんな気分に何度もさせられた。
「まぁま」
「ゼロ……」
ゼロは、息子に思わずつけた名前。息子と認められない私のせいで戸籍を作られない可哀想なこの世に存在しない子。
また名前も何もないゼロ……両親を殺した人たちの似るところがゼロとなれとつけた名前。でも名前にそんな願いを込めようと、決して見方は変わらなかったけれど。
だから、いつかは………と信じるしか私にはできなかった。
そしてそんなある日は短いようで長く、私はついに耐えきれなくなった。
愛し、憎むべきハワードを繋ぐ子供の存在が邪魔に思えて来たのだ。それはまだゼロが1歳を少し過ぎた頃。ゼロが恨むべき人物に似てくるような気がして怖くなった。
その成長を見続ける苦痛を味わうくらいならと。私は気が狂ってしまったのだろう。ハワードが仕事で留守の間、ゼロの首に手をかけた。
しかし、その瞬間
「キャロエさん!やめるんだ!」
邪魔が入った。私の名前を知る男の侵入によって。
「だれ……?」
「うああああっ」
私の手がゼロから離れるとゼロが大泣きする。邪魔をされたせいか、ゼロの泣き声のせいか、先ほどまで抱いていた殺意が急に落ち着き、それに反して私は初めて人を殺そうとしたことに恐怖を覚えた。
「わ、わた……私……!」
罪のない子供を殺そうとしてしまった。憎い人たちと同じことを私はゼロに……。落ち着いたことでその事実がとてつもなく、恐ろしくなった。
「落ち着いてください、キャロエさん!兄から事情は聞いています。僕はハワードの弟クリスです!勝手に家に入り、すみません。だから、大丈夫です。それにゼロくんは生きて……」
「ちがうちがうちがう!」
「キャロエさん!大丈夫ですから……」
「ゼロは、ゼロは、娘よ!娘だわ!娘だからあんな人たちに似るはずがない!そうよ、そうなのよ!」
「キャロエさん……?」
だから、私は自分の恨みが罪なき子供に向かないように思い込もうとした。子供は元々女の子で、仇に似るはずがないと。
全ては私という母親から自分の子供を守るために。
自分の子供を殺そうとした信じたくない事実が、無意識に、私からゼロの性別をそうだと強く思い込ませ、ゼロという名前すら消してしまった。
「ああ、メイリーン……何故、泣いてるのかしら?」
この日の出来事を何故か溢れる涙と共に抹消するかのように。ゼロという存在を忘れる。それが私にとって最善なのだと無意識にそう考え、そう強く思い込めたのはすぐだった。
それほどにショックな日であり、私の精神が完全に崩壊してしまった日でもある。
いくら憎かろうが、愛する人で、ハワードがいなくなればまた罪人の娘として孤独になることは目に見えていて、そんな孤独の中で子供を抱えることなどできるはずもなく、私には選択肢など最初からあるはずもなかった。
せめて、いつか、この憎しみがすべて愛に変わる日が来るかもしれない、子供が生まれることで幸せな家族になれるかもしれないと、苦しい気持ちを抑えて、そうなるように願うしかなかった。
けれど不幸なことに、生まれてきた子供は男の子でハワードに……何よりハワードの父に似ているように思えて私は一層憎しみが膨れ上がった。
「こんな子いらない!こんな子供………!」
「キャロエ……っすまない、すまない………」
子供に罪はないとわかってはいるのに。仇を生んでしまったような……憎むべき対象を増やしたような気持ちとなった。自分の子供なのに。愛すべき子供だというのに、憎しみに染まった瞳でしか見れない自分が何よりも嫌だった。
「ああああっああああっ」
私が泣き叫ぶせいで泣いてしまう子供。泣きたいのは私の方だ!なんて最低なことさえ感じて、より涙が出る。生んだのは自分、彼の側から離れようとしなかったのも自分。
全部全部私が悪い。気持ちの整理をしないまま、こんな状況を生んでしまった私が。
それでもハワードは私を支えながら子供の面倒を見てくれた。子供を愛しそうな目で見る彼が、羨ましく、妬ましかった。罪のない子供すら仇として見てしまう自分がただひとり孤立したようなそんな気分に何度もさせられた。
「まぁま」
「ゼロ……」
ゼロは、息子に思わずつけた名前。息子と認められない私のせいで戸籍を作られない可哀想なこの世に存在しない子。
また名前も何もないゼロ……両親を殺した人たちの似るところがゼロとなれとつけた名前。でも名前にそんな願いを込めようと、決して見方は変わらなかったけれど。
だから、いつかは………と信じるしか私にはできなかった。
そしてそんなある日は短いようで長く、私はついに耐えきれなくなった。
愛し、憎むべきハワードを繋ぐ子供の存在が邪魔に思えて来たのだ。それはまだゼロが1歳を少し過ぎた頃。ゼロが恨むべき人物に似てくるような気がして怖くなった。
その成長を見続ける苦痛を味わうくらいならと。私は気が狂ってしまったのだろう。ハワードが仕事で留守の間、ゼロの首に手をかけた。
しかし、その瞬間
「キャロエさん!やめるんだ!」
邪魔が入った。私の名前を知る男の侵入によって。
「だれ……?」
「うああああっ」
私の手がゼロから離れるとゼロが大泣きする。邪魔をされたせいか、ゼロの泣き声のせいか、先ほどまで抱いていた殺意が急に落ち着き、それに反して私は初めて人を殺そうとしたことに恐怖を覚えた。
「わ、わた……私……!」
罪のない子供を殺そうとしてしまった。憎い人たちと同じことを私はゼロに……。落ち着いたことでその事実がとてつもなく、恐ろしくなった。
「落ち着いてください、キャロエさん!兄から事情は聞いています。僕はハワードの弟クリスです!勝手に家に入り、すみません。だから、大丈夫です。それにゼロくんは生きて……」
「ちがうちがうちがう!」
「キャロエさん!大丈夫ですから……」
「ゼロは、ゼロは、娘よ!娘だわ!娘だからあんな人たちに似るはずがない!そうよ、そうなのよ!」
「キャロエさん……?」
だから、私は自分の恨みが罪なき子供に向かないように思い込もうとした。子供は元々女の子で、仇に似るはずがないと。
全ては私という母親から自分の子供を守るために。
自分の子供を殺そうとした信じたくない事実が、無意識に、私からゼロの性別をそうだと強く思い込ませ、ゼロという名前すら消してしまった。
「ああ、メイリーン……何故、泣いてるのかしら?」
この日の出来事を何故か溢れる涙と共に抹消するかのように。ゼロという存在を忘れる。それが私にとって最善なのだと無意識にそう考え、そう強く思い込めたのはすぐだった。
それほどにショックな日であり、私の精神が完全に崩壊してしまった日でもある。
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