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「これから話す真実は私がゼロの叔父の婚約者であった時、ゼロの父親ハワードから直接聞いた話です。最初の始まりはハワードの起こしたある出来事でした。厳しい貴族教育に嫌気が差したハワードは、屋敷を抜け出して平民で鬱憤を晴らす悪い遊びを覚えてしまいました。カツアゲ、暴行、暴言といったもので、平民としての救いはまだ彼が子供だったことでしょう。大人ほど力はなく、カツアゲといっても自分が欲しいものを買える分だけで財布の中身全てを奪わなかったり、暴言も幼稚で命に関わることはなかったようです」
「父さんが、そんなことを……?」
自分の父親がまだ子供の頃とはいえ、信じられない話なのだろう。ゼロの表情は嘘だ……と信じたくない気持ちが顔に出ている。
「しかし、子供だからこそ子を持つ親である人物が、まだ発達途上の子供であるハワードにこんなことは人としてやってはいけないと貴族関係なく説教をしました。その人物こそゼロの母親キャロエの両親でした。二人はちょうど近所に預けているキャロエに誕生日プレゼントを買って帰るところだったそうです。そんな時に出くわした相手がハワード。彼は説教に対して反抗し、いつも通り鬱憤を晴らそうとしました。けれど、正義感が強く、子供に対して思い入れも強いキャロエの父親は他の人と違いハワードを止め、説教ではなく優しく諭そうとしたみたいです。ですが、鬱憤が晴らせないなら相手を変えればいいと考えたハワードは、イライラしながらもその場を逃げ去り、相手を変えようとしましたが気分が乗らず、イライラのままお義父様……ハワードのお父様に貴族に逆らう生意気な平民がいたと、そう伝えてしまいました。それが今回に至るまでの悲劇の始まりになるとは考えもせずに……」
「それ以上は……聞きたく、ない」
この先の話に嫌な予感を覚えてしまうのは私も同じ。特にゼロは誰よりもそれを察し、聞くのを怖がっている。それでも容赦なく話は続けられた。真実を話すと決めたからこそ……中途半端に止める気はないのだろう。
「身分が絶対主義のお義父様にとって平民が自分の息子に逆らうことは許せませんでした。結果不敬きまわりないとハワードの元々の行動を咎めることなくキャロエの両親は処刑されたのです。貴族に無礼を働いた罪人として」
「……っ父さんの……父さんのせいで母さんの親が?」
ゼロにとっての父がどういう存在なのかわからないけど、先程の様子から信じられないと青ざめながら呆然とする姿を見る限り、彼にとって父がそんな人だとは思えなかったということだろう。
ましてや被害者と加害者が自分の両親みたいなもの。ゼロの気持ちは誰よりも複雑なはずだ。
そもそもこの話が真実なら、ゼロの母親………キャロエが両親の仇である息子を愛せないというのも納得できる気がする。しかし、それなら何故仇の子を生んだのか、ゼロの両親が結ばれたのかが疑問に残った。
キャロエが最後の言葉に残したとされる愛せなくてごめんねという言葉は、愛そうと努力していたようにも取れる。ゼロの母親はいつからハワードという男が自分の両親を死に追いやった人物だと知ったのだろう?
最初から知っていたなら子供を作るための行為を仇とするだろうか?
知らなかったと考えたとしてもだ。何もないゼロなんて、自分の子供に名付けるとは思えない。知ったときには既に子供を堕ろせなかった……とか?
「……こんなことになるとはハワードも思ってなかったそうです。まさか殺されるなんてと。ハワードにとってもその出来事は今までしてきた悪さを止めるくらいにショックなことでした。自分が殺したようなものだと罪悪感に苛まれて。平民に酷いことをしてきたハワードでも人の死を笑うほどに堕ちてはいなかったから。そしてそんな罪の重みを抱えながら流れた月日。ある日キャロエとハワードが偶然互いの因縁も知らずに出会いました。そこからどういう運命なのか二人は度々会うこととなり、身分差がありながらも気が合い、互いに惹かれ合うのに時間はかからなかったそうです。二人は結ばれ、恋人として幸せな日々を送っていたある日のことでした。キャロエが両親の死を貴方みたいな貴族もいるなら乗り越えられるかもしれないと親のことを話したのは。聞き覚えのある話にハワードは動揺を隠せず、キャロエは怪しみ、そうして二人は互いの正体を知り、真実を知ることになりました。そこから二人の関係は歪となったのです」
あまりにも救いのない話。もしハワードの父親が身分に寛容であったなら?人としてダメなことはダメと叱れる人だったなら?そもそもハワード様の厳しい貴族教育に抱えるストレスに気づいてあげられる人がいたなら?二人が出会わなければ……そんな考えが浮かんでは消える。
愛した人がもっとも憎むべき人だった時。私ならどうしただろう?憎むべき人の子を産んだキャロエはどんな気持ちで……ハワードの側に居続けたのだろうか?
この真実をゼロという目の前の男は本当に知らなかったのだろうか?それとも忘れているだけ?
「父さんが、そんなことを……?」
自分の父親がまだ子供の頃とはいえ、信じられない話なのだろう。ゼロの表情は嘘だ……と信じたくない気持ちが顔に出ている。
「しかし、子供だからこそ子を持つ親である人物が、まだ発達途上の子供であるハワードにこんなことは人としてやってはいけないと貴族関係なく説教をしました。その人物こそゼロの母親キャロエの両親でした。二人はちょうど近所に預けているキャロエに誕生日プレゼントを買って帰るところだったそうです。そんな時に出くわした相手がハワード。彼は説教に対して反抗し、いつも通り鬱憤を晴らそうとしました。けれど、正義感が強く、子供に対して思い入れも強いキャロエの父親は他の人と違いハワードを止め、説教ではなく優しく諭そうとしたみたいです。ですが、鬱憤が晴らせないなら相手を変えればいいと考えたハワードは、イライラしながらもその場を逃げ去り、相手を変えようとしましたが気分が乗らず、イライラのままお義父様……ハワードのお父様に貴族に逆らう生意気な平民がいたと、そう伝えてしまいました。それが今回に至るまでの悲劇の始まりになるとは考えもせずに……」
「それ以上は……聞きたく、ない」
この先の話に嫌な予感を覚えてしまうのは私も同じ。特にゼロは誰よりもそれを察し、聞くのを怖がっている。それでも容赦なく話は続けられた。真実を話すと決めたからこそ……中途半端に止める気はないのだろう。
「身分が絶対主義のお義父様にとって平民が自分の息子に逆らうことは許せませんでした。結果不敬きまわりないとハワードの元々の行動を咎めることなくキャロエの両親は処刑されたのです。貴族に無礼を働いた罪人として」
「……っ父さんの……父さんのせいで母さんの親が?」
ゼロにとっての父がどういう存在なのかわからないけど、先程の様子から信じられないと青ざめながら呆然とする姿を見る限り、彼にとって父がそんな人だとは思えなかったということだろう。
ましてや被害者と加害者が自分の両親みたいなもの。ゼロの気持ちは誰よりも複雑なはずだ。
そもそもこの話が真実なら、ゼロの母親………キャロエが両親の仇である息子を愛せないというのも納得できる気がする。しかし、それなら何故仇の子を生んだのか、ゼロの両親が結ばれたのかが疑問に残った。
キャロエが最後の言葉に残したとされる愛せなくてごめんねという言葉は、愛そうと努力していたようにも取れる。ゼロの母親はいつからハワードという男が自分の両親を死に追いやった人物だと知ったのだろう?
最初から知っていたなら子供を作るための行為を仇とするだろうか?
知らなかったと考えたとしてもだ。何もないゼロなんて、自分の子供に名付けるとは思えない。知ったときには既に子供を堕ろせなかった……とか?
「……こんなことになるとはハワードも思ってなかったそうです。まさか殺されるなんてと。ハワードにとってもその出来事は今までしてきた悪さを止めるくらいにショックなことでした。自分が殺したようなものだと罪悪感に苛まれて。平民に酷いことをしてきたハワードでも人の死を笑うほどに堕ちてはいなかったから。そしてそんな罪の重みを抱えながら流れた月日。ある日キャロエとハワードが偶然互いの因縁も知らずに出会いました。そこからどういう運命なのか二人は度々会うこととなり、身分差がありながらも気が合い、互いに惹かれ合うのに時間はかからなかったそうです。二人は結ばれ、恋人として幸せな日々を送っていたある日のことでした。キャロエが両親の死を貴方みたいな貴族もいるなら乗り越えられるかもしれないと親のことを話したのは。聞き覚えのある話にハワードは動揺を隠せず、キャロエは怪しみ、そうして二人は互いの正体を知り、真実を知ることになりました。そこから二人の関係は歪となったのです」
あまりにも救いのない話。もしハワードの父親が身分に寛容であったなら?人としてダメなことはダメと叱れる人だったなら?そもそもハワード様の厳しい貴族教育に抱えるストレスに気づいてあげられる人がいたなら?二人が出会わなければ……そんな考えが浮かんでは消える。
愛した人がもっとも憎むべき人だった時。私ならどうしただろう?憎むべき人の子を産んだキャロエはどんな気持ちで……ハワードの側に居続けたのだろうか?
この真実をゼロという目の前の男は本当に知らなかったのだろうか?それとも忘れているだけ?
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