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噂すればなんとやら……スカーレット様の話を聞いた放課後、ばったりとその本人に会ってしまうとはなんという偶然か。スカーレット様の側にはスカーレット様に腕を組む見知らぬ女性。恐らく平民になって仲良くなった人かもしれない。
随分距離が近いが、平民だと堅苦しさがない分、これが普通なのだろう。
「レブラント伯爵令嬢………」
「スカーレット様……私を御知りで?」
「もう貴族ではございませんし、様はいりません。スカーレットと御呼びください。それに元クラスメイトですし、言葉を交わしたことも少なくともありましたから」
不思議だわ……元クラスメイトと言われると平民になったのはスカーレット様なのに、私が平民になって学園を後にした気分になる。スカーレット様って男爵令嬢だった時から高貴な存在感があるから………。平民になったとしてもあまり実感がわかない。
「お言葉に甘えてスカーレットと。スカーレットは人気者でしたから、私のような目立たない存在は失礼ながら忘れられていると思っていたのです。それで、そちらの方はご友人ですか?」
「いえ、恋人です」
「恋人でしたのね。それは失礼…………え?」
つい失礼にも固まってしまった。相手はどう見ても女性だから。同性での恋愛に偏見したりはしないけれど初めてのことでどうしていいかわからなかったのもある。
「驚かせてしまいましたね、ミルティ」
「は、はじめまして、わたし、ミルティです!5さいです!」
「5歳?」
明らかに5歳でないのは確かで、思わずスカーレットを見れば、スカーレットが悲しげな表情をしていた。
「彼女はある出来事がきっかけで幼児退行してしまっているのです。レブラント伯爵令嬢……もしよければ少しお時間をいただけませんか?ちょうどあちらにカフェもございますし」
「え?」
色々事情があるのだろうと深く聞くつもりはなかったが、何故か真面目な顔でスカーレットにカフェへ誘われるとは思ってもみなかった。スカーレットとは仲が悪いわけでもないが、仲がいいわけでもなかったから。
とはいえ、私にとって憧れの存在とは言えたから平民になろうとその誘いは嬉しいものではある。
「もちろん無理には……」
「いえ、私でよければお話を伺います」
「ありがとうございます」
スカーレットが何を考えているか全くわからないけれど、彼女を見て気になることがあった。最初の噂は本当なのか。公爵様が互いに納得した婚約破棄ではあると言ってはいるけど、純潔についての訂正は聞いていない。まあ、令嬢に対して話す内容ではないのもあるだろうけど、遠回しに否定するくらいはできたはずだ。
浮気はしていなかったと……そう言うだけで純潔の件は間違った噂とされるはず。つまり浮気自体はあった可能性がある。だけど彼女が浮気相手ならそもそもその可能性はない。
寧ろ浮気相手が同性であったことに注目されそうだ。
どちらにしても浮気は最低な行為。何故そんな行動を起こしたのか気になってしまった。今の私は浮気に敏感になりすぎているのかもしれない。
浮気という単語が思い浮かぶ限り私は互いに信じ愛し合うなんて望む未来が来る気がしないから、どこかで浮気に正当性を見出だしたいのかもしれない。
そんなのあるはずないと思いながらも。ステイの二の舞を恐れて。
「レブラント伯爵令嬢は飲み物は何にされますか?」
「あ、紅茶にミルクをつけたもので……」
「わかりました」
色々なことが頭に浮かんでいて少しぼーっとしてしまったが、スカーレットに聞かれて咄嗟に普段よく飲むものを答えた。少しの間軽い世間話をし、飲み物が運ばれてから本題へと移る。
「スカーレット、本題は……」
「そうですね。まず私は先程嘘をつきました」
「嘘、ですか?」
「レブラント伯爵令嬢はかなり前から知っていました。ロック侯爵令息と周りを気にすることなく相思相愛な姿が羨ましくて」
「羨ましい……ですか?」
少し驚いた。まさか誰よりも羨ましがられた存在に羨ましいと思われていたことが。
「私とクルト様は互いに恋愛感情はありませんでしたし、私の場合は恋愛対象がそもそも違いました。また、クルト様も叶わぬ恋をしていましたから」
クルト様とは次期公爵様……つまり、スカーレットの元婚約者。スカーレットの恋愛対象は言わずもがな同性なのだろう。けれど次期公爵様まで別の方に恋慕していたとは思わなかった。お二人はお似合いで仲のいい雰囲気は誰もが感じていたから。
「次期公爵様も知ってるんですね……スカーレットのことを」
「ええ、婚約前にたまたま知られる機会がありまして。寧ろそれを知られたから私は選ばれました。自分に本気にならない方なら安心だと。私も恋愛は諦めていましたが、それでも婚約は必要でしたし、理解してくれる方の側が一番でした。まあその分急に身分の高さに釣り合うよう学ぶことは増えましたが、学ぶことは嫌いではありませんでしたし、クルト様や公爵家の皆様の支えもありましたのでそれほど苦ではなかったんですがね」
「なるほど……利害の一致だったんですね。あれ?でもお二人の婚約はもう数年以上経っていますよね?次期公爵様はそんなに長い片想いを?まさか次期公爵様も……」
「あ、いえ、彼は異性相手です。ただ、婚約者がいる方でして。公爵夫婦も知っているものの相思相愛の婚約者だったため、手の打ちようもなく、それにより申し訳なさから婚約者を選べず悩むクルト様を見かねて、せめてと義務だけを果たせる私のような存在が必要だったんです」
「なるほど……。というより公爵家ご夫婦も知っていたんですね……」
「知っていたからこそ男爵家と身分に差があろうと私を求めたとも言えます。恋愛対象が違うのは一途なクルト様からすればありがたいくらいだったみたいで。一途すぎて叶わぬ恋が実るきっかけがあればいいのになんて応援したくなったくらいです。まあそれはその婚約者の男性からすれば溜まったものじゃないでしょうけど……」
確かに婚約者がいては叶わぬ恋となるのは仕方ないかもしれない。……ってこんな話聞いてよかったのだろうか?なんて思っているうちにスカーレットの心情まで聞いてしまい、寧ろなんでそこまでスカーレットが話してくれるのかわからなくなる。ミルティはきょとんとしているし。
「あの、なんで私にそれを……?それに恋愛対象が同性ならそもそもなぜ……その、純潔を失ったという噂が?」
最後は小声で言ったものの、聞いてよいものか少し不安になる。だけど、先程から色々話しているところから見るに、聞いてもいい気がした。
「私が確実に男と浮気したと思わせるためです。同性と浮気の話題は大きすぎて彼女に被害がある可能性を考慮して」
「そもそも浮気を本当にされたんですか?」
やっぱり改めてスカーレットと話して私は浮気をするような人には思えないと感じた。もうこうなれば聞けるところまで聞いてしまうつもりだ。なんとなくスカーレットは知ってほしそうな気がしたから。
それが私である理由はまだわからないけれど。
「浮気はしてません。彼女から告白はされましたし、彼女に私自身想いもありました。しかし、同性とはいえ、浮気は浮気となります。クルト様を裏切る行為をしたくはなかったので断りました。彼女もわかっていながら想いを伝えてくれたのでしょう。ありがとうと言っていつもの友人関係に戻りました。それだけです」
「ならなんで浮気なんて噂が……」
「彼女、自殺未遂をされたんです。私への想いを綴った手紙を遺書として……。男性と貴族……どちらも持っているクルト様に嫉妬して、女で平民というどちらにしても私に釣り合わない立場の自分が嫌で嫌でたまらなくなったと。私は気づいてあげれませんでした。結果が今です。彼女は幼児退行することで自分を守っています。私は今更と思いながらも自分の想いに正直になり、今からでも彼女を支えたいと思いました。だからクルトに相談しました。全てを話して」
「自殺未遂……」
死にたくなるほどの愛……ミルティは自殺をしようとするまで、どんな気持ちで友人と信じるスカーレットと会っていたのだろう?
「結果彼は応援してくれました。ならば婚約を解消しようと。だけど彼に申し訳がなかったのと、彼が令息の浮気による噂の拡大によって、浮気をしていない令息までもが疑われ婚約者とぎくしゃくし始めたのを、よくない流れだと案じていたからひと芝居うつことにしたのです。噂に惑わされるなという意味を込めた噂を流すことで。私がそれなりに影響力があるのは自覚していましたし」
「ご自分を犠牲にしてまで……?」
「それで修復される幸せがあるなら……そう思ったのです。何より、何も悪いことはしていないのに、噂のせいで肩身が狭くなる人があってはならないと思いました。それにあの噂ずっと気に入らなかったんです!浮気をすることで婚約者の愛を確かめる?浮気で確かめられる愛なんてあるはずがない!というか何様だ!愛を確かめる暇があるなら互いの愛を育むべきだ!そうすれば確かめずともわかるだろうよ!浮気を正当化させるな!浮気は浮気であって正当性なんて微塵もねえんだよ!………っと、失礼いたしました。つい」
「は、はあ………」
こんなスカーレットは初めてで戸惑いを隠せない。そんな私に気まずげにスカーレットは私に言った。
「申し訳ございません。幼い頃に父が一度浮気をして母を泣かせたことがありまして………言い訳がましい父に飛び蹴りしたのはあの日だけですね。それからと言うものの浮気と聞くと怒りが………」
飛び蹴り………今のスカーレットからでは考えられないくらいやんちゃだった可能性が浮上する。でもそれなら酷くなる令息による浮気話はスカーレットにとって据えかねるものだっただろう。
でもなんだろう。スカーレットの怒りにびっくりはしたけどそれ以上に何かもやもやしていたものがす……っと消えた気がした。
「そっか……私、スカーレットと同じ気持ちだったんだわ」
「よかった……。少し顔色が明るくなられましたね」
「え?」
「どことなく、暗かったから。言ったでしょう?私はあなた様を羨ましく感じていたと。それだけに、そんなレブラント伯爵令嬢を裏切ったロック侯爵子息は許せるものではありませんでした。明らかにあなた様を試すような態度に何度殴りたくなったか………。ミルティのこととは別に、高等部に入るまでと変わってしまったお二人の関係もずっと気にかけていました。でもあまり仲が大してよくもないのにどう声をかけたものかと悩んでいるうちに時は過ぎてしまって………」
「お気遣いありがとうございます。私なんかを気遣っていただいていただけでも嬉しく……」
「私なんかなんて言わないでください。レブラント伯爵令嬢は素敵な方ですもの。素敵なところを聞かされすぎて今なら100個くらい楽々言えそうなくらいです」
「聞かされすぎて………?」
スカーレットの言葉にん?となった。スカーレットには私について話すような人がいたということだから。あれ、私って知らないうちにそんなに有名にでもなっていたのだろうか?
「こ、これは………口が滑りましたわ……。聞かなかったことに……」
「あ、はい……それと、ステイとは昨日婚約破棄いたしましたのと、ステイ自身は平民になりましたので……」
「まあ!まあまあまあ!これはひょっとしてひょっとするのかしら?」
「???」
何故かスカーレットが嬉しそうで訳がわからない。浮気するような人と婚約破棄をしたことに喜んでいる………のだろうか?少し違う気がする。
「すかーれっと、うれしいの?にこにこしてる」
「ふふ、ええ。友人の……に可能性が芽生えたから」
ミルティが相変わらずきょとんとしながら聞けばスカーレットは興奮気味に答えるものの、何か肝心な部分が小さい声で言われ聞き取れなかった。
私とスカーレットのご友人が何か関係あるのだろうか?
「あの……」
「あら、もうこんな時間だわ。レブラント伯爵令嬢お時間いただきありがとうございました。あまり遅くなっては危ないですからそろそろ帰りましょう」
「そう、ですね」
結局なぜ私に色々話したのかはわからないままだったけれど、スカーレットのおかげでようやく気持ちが整理できた気がしたので、十分だと思い聞くのは控えた。
それにスカーレットとはなんとなくまた会える……そんな気がしたから。
「では、今日はお付き合いありがとうございました」
「ばいばーい」
「はい、こちらこそ……ばいばい」
そうして互いの帰路へ。帰り道、私は朝と違い明るい気持ちで帰宅することができたのは言うまでもない。スカーレットが私の言いたいことを言葉にしてもらえたそんな感じがしたから。
それを言いたかった本人はいなかったけれど、ね。
随分距離が近いが、平民だと堅苦しさがない分、これが普通なのだろう。
「レブラント伯爵令嬢………」
「スカーレット様……私を御知りで?」
「もう貴族ではございませんし、様はいりません。スカーレットと御呼びください。それに元クラスメイトですし、言葉を交わしたことも少なくともありましたから」
不思議だわ……元クラスメイトと言われると平民になったのはスカーレット様なのに、私が平民になって学園を後にした気分になる。スカーレット様って男爵令嬢だった時から高貴な存在感があるから………。平民になったとしてもあまり実感がわかない。
「お言葉に甘えてスカーレットと。スカーレットは人気者でしたから、私のような目立たない存在は失礼ながら忘れられていると思っていたのです。それで、そちらの方はご友人ですか?」
「いえ、恋人です」
「恋人でしたのね。それは失礼…………え?」
つい失礼にも固まってしまった。相手はどう見ても女性だから。同性での恋愛に偏見したりはしないけれど初めてのことでどうしていいかわからなかったのもある。
「驚かせてしまいましたね、ミルティ」
「は、はじめまして、わたし、ミルティです!5さいです!」
「5歳?」
明らかに5歳でないのは確かで、思わずスカーレットを見れば、スカーレットが悲しげな表情をしていた。
「彼女はある出来事がきっかけで幼児退行してしまっているのです。レブラント伯爵令嬢……もしよければ少しお時間をいただけませんか?ちょうどあちらにカフェもございますし」
「え?」
色々事情があるのだろうと深く聞くつもりはなかったが、何故か真面目な顔でスカーレットにカフェへ誘われるとは思ってもみなかった。スカーレットとは仲が悪いわけでもないが、仲がいいわけでもなかったから。
とはいえ、私にとって憧れの存在とは言えたから平民になろうとその誘いは嬉しいものではある。
「もちろん無理には……」
「いえ、私でよければお話を伺います」
「ありがとうございます」
スカーレットが何を考えているか全くわからないけれど、彼女を見て気になることがあった。最初の噂は本当なのか。公爵様が互いに納得した婚約破棄ではあると言ってはいるけど、純潔についての訂正は聞いていない。まあ、令嬢に対して話す内容ではないのもあるだろうけど、遠回しに否定するくらいはできたはずだ。
浮気はしていなかったと……そう言うだけで純潔の件は間違った噂とされるはず。つまり浮気自体はあった可能性がある。だけど彼女が浮気相手ならそもそもその可能性はない。
寧ろ浮気相手が同性であったことに注目されそうだ。
どちらにしても浮気は最低な行為。何故そんな行動を起こしたのか気になってしまった。今の私は浮気に敏感になりすぎているのかもしれない。
浮気という単語が思い浮かぶ限り私は互いに信じ愛し合うなんて望む未来が来る気がしないから、どこかで浮気に正当性を見出だしたいのかもしれない。
そんなのあるはずないと思いながらも。ステイの二の舞を恐れて。
「レブラント伯爵令嬢は飲み物は何にされますか?」
「あ、紅茶にミルクをつけたもので……」
「わかりました」
色々なことが頭に浮かんでいて少しぼーっとしてしまったが、スカーレットに聞かれて咄嗟に普段よく飲むものを答えた。少しの間軽い世間話をし、飲み物が運ばれてから本題へと移る。
「スカーレット、本題は……」
「そうですね。まず私は先程嘘をつきました」
「嘘、ですか?」
「レブラント伯爵令嬢はかなり前から知っていました。ロック侯爵令息と周りを気にすることなく相思相愛な姿が羨ましくて」
「羨ましい……ですか?」
少し驚いた。まさか誰よりも羨ましがられた存在に羨ましいと思われていたことが。
「私とクルト様は互いに恋愛感情はありませんでしたし、私の場合は恋愛対象がそもそも違いました。また、クルト様も叶わぬ恋をしていましたから」
クルト様とは次期公爵様……つまり、スカーレットの元婚約者。スカーレットの恋愛対象は言わずもがな同性なのだろう。けれど次期公爵様まで別の方に恋慕していたとは思わなかった。お二人はお似合いで仲のいい雰囲気は誰もが感じていたから。
「次期公爵様も知ってるんですね……スカーレットのことを」
「ええ、婚約前にたまたま知られる機会がありまして。寧ろそれを知られたから私は選ばれました。自分に本気にならない方なら安心だと。私も恋愛は諦めていましたが、それでも婚約は必要でしたし、理解してくれる方の側が一番でした。まあその分急に身分の高さに釣り合うよう学ぶことは増えましたが、学ぶことは嫌いではありませんでしたし、クルト様や公爵家の皆様の支えもありましたのでそれほど苦ではなかったんですがね」
「なるほど……利害の一致だったんですね。あれ?でもお二人の婚約はもう数年以上経っていますよね?次期公爵様はそんなに長い片想いを?まさか次期公爵様も……」
「あ、いえ、彼は異性相手です。ただ、婚約者がいる方でして。公爵夫婦も知っているものの相思相愛の婚約者だったため、手の打ちようもなく、それにより申し訳なさから婚約者を選べず悩むクルト様を見かねて、せめてと義務だけを果たせる私のような存在が必要だったんです」
「なるほど……。というより公爵家ご夫婦も知っていたんですね……」
「知っていたからこそ男爵家と身分に差があろうと私を求めたとも言えます。恋愛対象が違うのは一途なクルト様からすればありがたいくらいだったみたいで。一途すぎて叶わぬ恋が実るきっかけがあればいいのになんて応援したくなったくらいです。まあそれはその婚約者の男性からすれば溜まったものじゃないでしょうけど……」
確かに婚約者がいては叶わぬ恋となるのは仕方ないかもしれない。……ってこんな話聞いてよかったのだろうか?なんて思っているうちにスカーレットの心情まで聞いてしまい、寧ろなんでそこまでスカーレットが話してくれるのかわからなくなる。ミルティはきょとんとしているし。
「あの、なんで私にそれを……?それに恋愛対象が同性ならそもそもなぜ……その、純潔を失ったという噂が?」
最後は小声で言ったものの、聞いてよいものか少し不安になる。だけど、先程から色々話しているところから見るに、聞いてもいい気がした。
「私が確実に男と浮気したと思わせるためです。同性と浮気の話題は大きすぎて彼女に被害がある可能性を考慮して」
「そもそも浮気を本当にされたんですか?」
やっぱり改めてスカーレットと話して私は浮気をするような人には思えないと感じた。もうこうなれば聞けるところまで聞いてしまうつもりだ。なんとなくスカーレットは知ってほしそうな気がしたから。
それが私である理由はまだわからないけれど。
「浮気はしてません。彼女から告白はされましたし、彼女に私自身想いもありました。しかし、同性とはいえ、浮気は浮気となります。クルト様を裏切る行為をしたくはなかったので断りました。彼女もわかっていながら想いを伝えてくれたのでしょう。ありがとうと言っていつもの友人関係に戻りました。それだけです」
「ならなんで浮気なんて噂が……」
「彼女、自殺未遂をされたんです。私への想いを綴った手紙を遺書として……。男性と貴族……どちらも持っているクルト様に嫉妬して、女で平民というどちらにしても私に釣り合わない立場の自分が嫌で嫌でたまらなくなったと。私は気づいてあげれませんでした。結果が今です。彼女は幼児退行することで自分を守っています。私は今更と思いながらも自分の想いに正直になり、今からでも彼女を支えたいと思いました。だからクルトに相談しました。全てを話して」
「自殺未遂……」
死にたくなるほどの愛……ミルティは自殺をしようとするまで、どんな気持ちで友人と信じるスカーレットと会っていたのだろう?
「結果彼は応援してくれました。ならば婚約を解消しようと。だけど彼に申し訳がなかったのと、彼が令息の浮気による噂の拡大によって、浮気をしていない令息までもが疑われ婚約者とぎくしゃくし始めたのを、よくない流れだと案じていたからひと芝居うつことにしたのです。噂に惑わされるなという意味を込めた噂を流すことで。私がそれなりに影響力があるのは自覚していましたし」
「ご自分を犠牲にしてまで……?」
「それで修復される幸せがあるなら……そう思ったのです。何より、何も悪いことはしていないのに、噂のせいで肩身が狭くなる人があってはならないと思いました。それにあの噂ずっと気に入らなかったんです!浮気をすることで婚約者の愛を確かめる?浮気で確かめられる愛なんてあるはずがない!というか何様だ!愛を確かめる暇があるなら互いの愛を育むべきだ!そうすれば確かめずともわかるだろうよ!浮気を正当化させるな!浮気は浮気であって正当性なんて微塵もねえんだよ!………っと、失礼いたしました。つい」
「は、はあ………」
こんなスカーレットは初めてで戸惑いを隠せない。そんな私に気まずげにスカーレットは私に言った。
「申し訳ございません。幼い頃に父が一度浮気をして母を泣かせたことがありまして………言い訳がましい父に飛び蹴りしたのはあの日だけですね。それからと言うものの浮気と聞くと怒りが………」
飛び蹴り………今のスカーレットからでは考えられないくらいやんちゃだった可能性が浮上する。でもそれなら酷くなる令息による浮気話はスカーレットにとって据えかねるものだっただろう。
でもなんだろう。スカーレットの怒りにびっくりはしたけどそれ以上に何かもやもやしていたものがす……っと消えた気がした。
「そっか……私、スカーレットと同じ気持ちだったんだわ」
「よかった……。少し顔色が明るくなられましたね」
「え?」
「どことなく、暗かったから。言ったでしょう?私はあなた様を羨ましく感じていたと。それだけに、そんなレブラント伯爵令嬢を裏切ったロック侯爵子息は許せるものではありませんでした。明らかにあなた様を試すような態度に何度殴りたくなったか………。ミルティのこととは別に、高等部に入るまでと変わってしまったお二人の関係もずっと気にかけていました。でもあまり仲が大してよくもないのにどう声をかけたものかと悩んでいるうちに時は過ぎてしまって………」
「お気遣いありがとうございます。私なんかを気遣っていただいていただけでも嬉しく……」
「私なんかなんて言わないでください。レブラント伯爵令嬢は素敵な方ですもの。素敵なところを聞かされすぎて今なら100個くらい楽々言えそうなくらいです」
「聞かされすぎて………?」
スカーレットの言葉にん?となった。スカーレットには私について話すような人がいたということだから。あれ、私って知らないうちにそんなに有名にでもなっていたのだろうか?
「こ、これは………口が滑りましたわ……。聞かなかったことに……」
「あ、はい……それと、ステイとは昨日婚約破棄いたしましたのと、ステイ自身は平民になりましたので……」
「まあ!まあまあまあ!これはひょっとしてひょっとするのかしら?」
「???」
何故かスカーレットが嬉しそうで訳がわからない。浮気するような人と婚約破棄をしたことに喜んでいる………のだろうか?少し違う気がする。
「すかーれっと、うれしいの?にこにこしてる」
「ふふ、ええ。友人の……に可能性が芽生えたから」
ミルティが相変わらずきょとんとしながら聞けばスカーレットは興奮気味に答えるものの、何か肝心な部分が小さい声で言われ聞き取れなかった。
私とスカーレットのご友人が何か関係あるのだろうか?
「あの……」
「あら、もうこんな時間だわ。レブラント伯爵令嬢お時間いただきありがとうございました。あまり遅くなっては危ないですからそろそろ帰りましょう」
「そう、ですね」
結局なぜ私に色々話したのかはわからないままだったけれど、スカーレットのおかげでようやく気持ちが整理できた気がしたので、十分だと思い聞くのは控えた。
それにスカーレットとはなんとなくまた会える……そんな気がしたから。
「では、今日はお付き合いありがとうございました」
「ばいばーい」
「はい、こちらこそ……ばいばい」
そうして互いの帰路へ。帰り道、私は朝と違い明るい気持ちで帰宅することができたのは言うまでもない。スカーレットが私の言いたいことを言葉にしてもらえたそんな感じがしたから。
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