泣かないで!~王子様は悪役令嬢に笑ってほしい~

荷居人(にいと)

文字の大きさ
上 下
25 / 40
1章ー幼少期ー

18

しおりを挟む
それは先生が急に行方不明になり、代わりとして来た父上直々に勉強を教えてもらっていた日。

「ちちうえ、おしごとはだいじょうぶですか?」

さすがに1ヶ月ほぼ毎日他の教師が来ることなく国王でもある父上が先生代わりとして来ているため、いいのだろうかと心配になって問いかけた。

「ルクスは仕事人間だからな。私の仕事もついでに頼んでいる。国璽こくじも預けているから問題ない」

「こくじってなんですか?」

「国の印鑑のことだ。キリアスにも見せたことがあるだろう。あれを押せばどんな要求も国が認めたことになる」

それって宰相とはいえ、父上以外が預かっていいものなんだろうか?ふとそんなことを思う。いくら宰相が信用におけるとはいえ。

「もしわるいことにつかわれたらどうするんですか?」

「モサール先生にキリアスがお願いすればなんとかなる」

「僕がですか?」

「寧ろ私では自分の責任は自分で何とかしろと言われるだろうな」

「せいろんだとおもいます」

そもそも伯爵家の当主でもない先生に国の一大事をなんとかしてもらうといったのが間違っている。いくら先生でもそんなことをなんとか……………できる気しかしないのはなんでだろう?先生だから?

もういっそ僕が国王になるまで国を先生に預ける方が平和な気がするなぁ。なんて父上への尊敬が薄れたそんな午後に事件は起こった。

「邪魔するぜぇ!」

「誰だ!」

父上と僕、母上と先生以外しか許可なく入れないであろう場に明らかに城の者でない服装をした怪しい人たちがぞろぞろと入り込んできた。当然扉の前には衛兵がいたはずなのに争う音ひとつなく。急なことに父上は立ち上がり僕を庇うようにして立つ。

「ここに誰でも入れるように許可をいただいたんでぇ?お邪魔しましてねぇ」

にたにたと笑いながら柄の悪い人のリーダーのような人は、ぴらぴらと紙を見せつける。その紙には以前確かに見た覚えがある先ほど言い方を覚えた国璽なるものが押されていた。言い方からして城を自由に出入りできるものなのだろうか。

「ちちうえ……」

「いや、まさか、こんな許可が通るとは思わんだろう!?」

人にそんな大事なものを預けるからと父上を睨んで見せれば僕を庇っていた父上が慌てた様子で僕に振り返る。宰相も何を間違ってこんな許可を……なんて思っていれば、二枚目の紙をさらに見せ始めて嫌な予感がした。残念ながら少し離れていて小さくて字が見えない。見えたとしても僕には読めない文字があったかもしれないが。

「で、陛下及び、王子様誘拐にも許可いただいちゃったんでぇ大人しく誘拐されてくださいよぉ?まあ、抵抗したところで無駄だけどねぇ」

わざわざそんな許可をとる悪党も悪党だけど許可をした宰相の考えがわからない。仕事のしすぎで頭がおかしくなっちゃったんだろうか?父上が仕事しないから………。

「ちちうえ、かえったらさいしょうにあやまりましょうね」

「うーん……王子様よ、誘拐の意味わかってるかぁ?」

「息子は今時ないくらい純粋ピュアすぎるのだ……」

「王様も大変だなぁ」

「わかってくれるか……」

「話は聞いてやっから、腕出せよ。逃げれねぇように一応なぁ」

「ロープはだめです。僕は、はだがよわいのですぐあかくなっちゃうんです」

先生がいつか言ってました。誘拐されるときは犯人に従いながらも自分の意見も主張してみること、と。僕はまだ子供だからある程度なら聞いてもらえる可能性があるって。まずは自由を少しでも確保するよう言ってました。父上は大人だから大人しく手首を巻かれてる。僕を庇ったあれはなんだったのかななんて思うけど父上は顔こそ怖いだけで弱いのを僕は知ってるから仕方ないと思う。

父上は昔から剣や運動に関してはからっきしだめだと母上が内緒で教えてくれていたから。

「あーならあのおじさんに抱っこしてもらいなぁ。逃げようとすんなよぉ?」

「はい!」

僕は悪党のリーダーみたいな人に言われた通りに言われたおじさんに抱っこをせがめば、おじさんは悪党とは思えない優しい手付きで抱き上げてくれる。悪い人たちだけど、なんだか憎めない人たちだ。でも誘拐は悪いことだって先生が言ってたからやっぱり悪党ではあるんだろう。

「うーん、いい返事ぃ。誘拐してる気分じゃなくなるわぁ」

「じゃあ、しないでください。わるいことはだめです」

反省したのかとそう言えばぽかんとする悪党のリーダーのような人。

「いやいやいや、その通りなんだけどねぇ?そうじゃねぇんだよ。あぁもう調子狂う!まあ、目的は達成したし、とりあえず基地へ戻るぞ!」

「「「「おう!」」」」

「おへんじははいです!」

「「「「はい!」」」」

「いや、お前ら何王子様に従っちゃってんの!?」

結局悪いことはやめるつもりはないようでがっくりしながらもお返事の仕方を注意すればすぐに直してくれたおじさんやお兄さんたち。

先生が言ってました。徐々に悪党をしつけることで逃げ道が必ずできると。だからだめなことはだめって言いました。悪い人たちだけど、きっと僕がいい子にしてあげます!

そう僕は決意して父上と一緒に誘拐された。前代未聞の誘拐許可にどうしたらいいのかと戸惑う衛兵たちを置き去りに。

「ちゃんとかえってきますからだいじょうぶですよー!」

せめて心配させないようにそう大声で伝えれば

「いや、帰られても困るんだけどよぉ……どんな教育してるわけぇ?」

「面目ない……」

リーダーのような人にそんなことを言われて、ため息を吐くようにして返す父上に、僕はよくわからず首を傾げたのだった。
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...