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序章
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昔から正義というものに憧れていた。
「あたし、レッドがいい!」
「おまえはおんなだろ!ピンクにしろよな!」
遊ぶのは決まって男子で、毎度似たような言い合い。でも女子はヒーローものになんて興味なくて乱暴な遊びは好まないため、言い合いになってもやはり遊び相手は男しかいなかった。それもあって喧嘩は日常茶飯事、言葉遣いも乱暴になるばかりで中学になる頃には孤立していたように思う。
それでも正義への憧れはなくならず、率先してボランティアや人助けをしたが何故か遠巻きにされるばかりで、転機が訪れたのは一人リンチに合う学生を助けたことからだった。
「いじめなんてカッコ悪いことなんてやめな!」
「あ?」
「女だからって優しくすると思ったら大間違いだぞ!」
いじめを見過ごすなんてことは私にはできずその日は標的が私になり始まった喧嘩。女相手に複数の男なんて屑だななんて思いながらも趣味の筋トレによるものか、元々センスがあったのだろう。気がつけば立っていたのは私だけだった。
「あ、ありがとうございます!」
初めての感謝の言葉。それがとても嬉しかったのは初めて自分が誰かのヒーローになれたと思えたからだろう。しかし、その喧嘩をきっかけに私に負けたのが許せなかった人たちによって喧嘩が日常化し、気がつけばヒーローとはかけはなれたヤンキー扱い。
でも悪くはなかった。ヒーローに蔓延る悪を倒して、時にはそれを仲間にして、それがまるで自分が主人公にでもなったみたいで……。何よりどうしようもない舎弟たちは最初の出会いこそよくないが、付き合えばいい奴らで、ただ行き場のない気持ちを発散させたいがために喧嘩しているのを理解してからは舎弟たちのために何ができるか考えた。
私だけがヒーローをしていてもいけないと気づいたのは舎弟のひとりが、万引きをした日。まるで何かを達成したから褒めてほしいとばかりに私に見せびらかしたのだ。
「これ最新のゲーム盗んでやりました!いっつも俺が来る度うるせぇじじいがいて……」
「返しにいくよ」
「え……姐さん?」
「これはよくないことだ」
「………っなんだよ!姐さんはあのじじいの味方なのかよ!」
万引きをした舎弟は私のひとつ下の年齢でありながらいかつい見た目で、誤解を招きやすかった。見た目で判断されるのはとても辛いこと。そのストレスが万引きなんて犯罪をしてしまったのは見るからにわかることで、泣きそうな舎弟に私はその溜め込んで苦しんでいることに気づいてやれなかったことを悔いた上で言った。
「本当はわかっているんだろう。だからあたいに言ったんじゃないのか」
「………っ俺は」
これは舎弟なりのSOSでもあったのだろう。やり方は人としていけないことだが、その判断をさせてしまうほどに彼は苦しんで、間違ったことをしたとわかりながらもどうしていいかわからず私に盗んだことをわざわざ伝えた。
「あたいも一緒に謝るよ」
「すんま、せん……」
「あんたがいい子なのあたいは知ってるよ。あんたのためなら必要なら弁償だってするさ」
その後ガミガミ怒られたものの最終的には警察沙汰にされずに済んだ。店主も普段舎弟に対して言い過ぎたことを悪く思っていたのだろう。そんなわけでその日私がすべきことは売られた喧嘩を買うよりも舎弟たちの心に寄り添うことだった。
「悩みはいくらでも聞いてやる。悪いことしたら絶対叱るけど見捨てはしないし、しそうになるくらい思い悩むならまずあたいにぶちまけろ。悪さなんてしても自分を貶めるだけだからね。どうせなら人を助けるのが当たり前なかっこいいやつになりな!」
最初からうまくはいかなかったけど、徐々にいい傾向が見られた。
「人に感謝されるのっていいもんっすね」
「俺、ありがとうなんて初めて言われたぜ!」
人の役に立つことの楽しさ、大切さを知って気がつけば言わずとも行動していく舎弟たちは周りからヤンキーだけどいい人と言われていることに気づいているのだろうか?気づかずとも本人たちは喧嘩しているときよりもイキイキしているから言う必要もないだろう。
「ばあちゃん、また困ったら言えよな!」
「ばーか!言う前に助けろっての!」
「いつもありがとねぇ」
こういう正義も悪くない。そんな舎弟たちを見守る日常に私は満足していた。後は将来のためにもう少し勉強するようになればなぁなんて思うがあいつらだってそれはわかっているだろうからそこまでガミガミ言う気はない。
「よくやったな」
今私にできることは褒めてやることだけ。人に褒められることのなかった舎弟たちはそう言ってやるだけでまるでクリスマスのサンタさんからプレゼントをもらった子供のように笑顔を浮かべるのだ。どんないかつい野郎でも可愛くないわけがない。
大人になれば多少関係は変わるだろうが、それでもこの繋がりは大事にしたいなんて思っていた。
しかし、私の人生はひとつの事件によりあっけなく終わりを迎える。
「きゃあぁぁっひったくりよー!」
これがただの物取りなら私は今でも生きていただろう。だけど、相手はよっぽど切羽詰まっていたのかナイフを振り回しながら走っていた。
「ど、どけどけぇ!刺されたくなけりゃどけぇ!」
周囲は避けたがひとり、転けて逃げ遅れた子供と手を離してしまった母親らしき人の悲鳴に私の体は自然と動いた。
「っ危ない!………っ」
周りが見えていなかったひったくり犯から子供を庇い私に引き裂かれるナイフ。
「お、俺は、俺は悪くねぇっ!」
人を傷つけて少しは周りが見えたのだろうが、ひったくり犯は大分いかれていたようだ。
「悪いに……決まってんだろ」
「ああああああっ!」
つい言い返してしまった言葉に逆上した犯人はひったくったものを放り投げてナイフで私を何度となく刺し、辺りは悲鳴の渦、せめてと二度目刺された瞬間にこれはやばいと子供を突き放して逃がせることができただけよかったと思いながら私は意識を手放した。
「あたし、レッドがいい!」
「おまえはおんなだろ!ピンクにしろよな!」
遊ぶのは決まって男子で、毎度似たような言い合い。でも女子はヒーローものになんて興味なくて乱暴な遊びは好まないため、言い合いになってもやはり遊び相手は男しかいなかった。それもあって喧嘩は日常茶飯事、言葉遣いも乱暴になるばかりで中学になる頃には孤立していたように思う。
それでも正義への憧れはなくならず、率先してボランティアや人助けをしたが何故か遠巻きにされるばかりで、転機が訪れたのは一人リンチに合う学生を助けたことからだった。
「いじめなんてカッコ悪いことなんてやめな!」
「あ?」
「女だからって優しくすると思ったら大間違いだぞ!」
いじめを見過ごすなんてことは私にはできずその日は標的が私になり始まった喧嘩。女相手に複数の男なんて屑だななんて思いながらも趣味の筋トレによるものか、元々センスがあったのだろう。気がつけば立っていたのは私だけだった。
「あ、ありがとうございます!」
初めての感謝の言葉。それがとても嬉しかったのは初めて自分が誰かのヒーローになれたと思えたからだろう。しかし、その喧嘩をきっかけに私に負けたのが許せなかった人たちによって喧嘩が日常化し、気がつけばヒーローとはかけはなれたヤンキー扱い。
でも悪くはなかった。ヒーローに蔓延る悪を倒して、時にはそれを仲間にして、それがまるで自分が主人公にでもなったみたいで……。何よりどうしようもない舎弟たちは最初の出会いこそよくないが、付き合えばいい奴らで、ただ行き場のない気持ちを発散させたいがために喧嘩しているのを理解してからは舎弟たちのために何ができるか考えた。
私だけがヒーローをしていてもいけないと気づいたのは舎弟のひとりが、万引きをした日。まるで何かを達成したから褒めてほしいとばかりに私に見せびらかしたのだ。
「これ最新のゲーム盗んでやりました!いっつも俺が来る度うるせぇじじいがいて……」
「返しにいくよ」
「え……姐さん?」
「これはよくないことだ」
「………っなんだよ!姐さんはあのじじいの味方なのかよ!」
万引きをした舎弟は私のひとつ下の年齢でありながらいかつい見た目で、誤解を招きやすかった。見た目で判断されるのはとても辛いこと。そのストレスが万引きなんて犯罪をしてしまったのは見るからにわかることで、泣きそうな舎弟に私はその溜め込んで苦しんでいることに気づいてやれなかったことを悔いた上で言った。
「本当はわかっているんだろう。だからあたいに言ったんじゃないのか」
「………っ俺は」
これは舎弟なりのSOSでもあったのだろう。やり方は人としていけないことだが、その判断をさせてしまうほどに彼は苦しんで、間違ったことをしたとわかりながらもどうしていいかわからず私に盗んだことをわざわざ伝えた。
「あたいも一緒に謝るよ」
「すんま、せん……」
「あんたがいい子なのあたいは知ってるよ。あんたのためなら必要なら弁償だってするさ」
その後ガミガミ怒られたものの最終的には警察沙汰にされずに済んだ。店主も普段舎弟に対して言い過ぎたことを悪く思っていたのだろう。そんなわけでその日私がすべきことは売られた喧嘩を買うよりも舎弟たちの心に寄り添うことだった。
「悩みはいくらでも聞いてやる。悪いことしたら絶対叱るけど見捨てはしないし、しそうになるくらい思い悩むならまずあたいにぶちまけろ。悪さなんてしても自分を貶めるだけだからね。どうせなら人を助けるのが当たり前なかっこいいやつになりな!」
最初からうまくはいかなかったけど、徐々にいい傾向が見られた。
「人に感謝されるのっていいもんっすね」
「俺、ありがとうなんて初めて言われたぜ!」
人の役に立つことの楽しさ、大切さを知って気がつけば言わずとも行動していく舎弟たちは周りからヤンキーだけどいい人と言われていることに気づいているのだろうか?気づかずとも本人たちは喧嘩しているときよりもイキイキしているから言う必要もないだろう。
「ばあちゃん、また困ったら言えよな!」
「ばーか!言う前に助けろっての!」
「いつもありがとねぇ」
こういう正義も悪くない。そんな舎弟たちを見守る日常に私は満足していた。後は将来のためにもう少し勉強するようになればなぁなんて思うがあいつらだってそれはわかっているだろうからそこまでガミガミ言う気はない。
「よくやったな」
今私にできることは褒めてやることだけ。人に褒められることのなかった舎弟たちはそう言ってやるだけでまるでクリスマスのサンタさんからプレゼントをもらった子供のように笑顔を浮かべるのだ。どんないかつい野郎でも可愛くないわけがない。
大人になれば多少関係は変わるだろうが、それでもこの繋がりは大事にしたいなんて思っていた。
しかし、私の人生はひとつの事件によりあっけなく終わりを迎える。
「きゃあぁぁっひったくりよー!」
これがただの物取りなら私は今でも生きていただろう。だけど、相手はよっぽど切羽詰まっていたのかナイフを振り回しながら走っていた。
「ど、どけどけぇ!刺されたくなけりゃどけぇ!」
周囲は避けたがひとり、転けて逃げ遅れた子供と手を離してしまった母親らしき人の悲鳴に私の体は自然と動いた。
「っ危ない!………っ」
周りが見えていなかったひったくり犯から子供を庇い私に引き裂かれるナイフ。
「お、俺は、俺は悪くねぇっ!」
人を傷つけて少しは周りが見えたのだろうが、ひったくり犯は大分いかれていたようだ。
「悪いに……決まってんだろ」
「ああああああっ!」
つい言い返してしまった言葉に逆上した犯人はひったくったものを放り投げてナイフで私を何度となく刺し、辺りは悲鳴の渦、せめてと二度目刺された瞬間にこれはやばいと子供を突き放して逃がせることができただけよかったと思いながら私は意識を手放した。
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