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「……っこれ、くらい……なんてことは……っ!」

ラーダ殿下の言葉に対してそこまで意地を張らなくても……と思うほどユーザ殿下の目は涙目だし、あれだけ叫んでいたのだから今更意地張られても……と思わなくもない。

「そ、そう……ならいいんだけど……。エヴァン、結果はどうだったのかな?」

意地を張るユーザ殿下にラーダ殿下は若干引きながら何かをエヴァン様に尋ねる。

「私からすれば予定通りですが……思った以上に酷い有り様ですね~。まあ、証人はた~くさんいますよ~?」

「なるほど……報告は後で聞くとして私も決断しなければね」

ラーダ殿下が現れた時点でもしかして……と思った。ユーザ殿下を侮辱しても現れない衛兵、命令されても猫が来るハプニングはあれど誰ひとりとして来ない異常事態。どれもユーザ殿下と同じ王族が命令でもしない限り、城の中で王族の命令で衛兵ひとり来させないことなんてできるはずもない。

ということは、この場にこのタイミングで現れたラーダ殿下の指示による可能性が高い。いや、エヴァン様に何かを尋ねる時点で決まりだろう。エヴァン様も恐らく共犯者。なんならここにいる人たち全員。

でもそれは明らかにユーザ殿下に人望がないからできたこと。王太子でありながらなんと嘆かわしいことか。

「あ、兄上……?」

ユーザ殿下もようやくラーダ殿下の様子に何かおかしいと感じ始めたのか戸惑いが見られる。その姿はまるで迷子の子供のよう。

「ユーザ・マクリミア、私ラーダ・マクリミアが陛下の代理として告げる。本日をもってユーザ・マクリミアの王位継承権は剥奪。ラーダ・マクリミアの王位継承権を復活とし、ラーダ・マクリミアが王太子となる……以上!」

とたんユーザ殿下をクソ王子と言って糾弾していた人たちが喜びの声をあげる。待っていましたとばかりに。ついていけないのは私とユーザ殿下とリアンヌと首を傾げる猫様だけ。

今のユーザ殿下は王に相応しくないと思えど簡単には王太子の座をなくすなんてできるとは思わなかった。なのにこんなにもあっさりと……ラーダ殿下が来たときにはもしかしてとは思ったが、それでも信じられない気持ちでいっぱいだ。

信じられない気持ちに対してはユーザ殿下、リアンヌもそうだろう。ユーザ殿下は呆然とし、さっきまで顔の傷で叫んでいたリアンヌはその言葉に誰よりも目を見開いていた。

「嘘……嘘よ……ユーザ様が王太子じゃなくなるなんて!………あ、ああっ!そういうことね!ラーダ様は私が好きなのね!」

「あの子、頭は大丈夫なのかい?顔の傷より酷そうだけれど」

「私からはなんとも……」

別の叫びに変えたリアンヌにラーダ殿下はドン引きとばかりに私に聞いてきたが、まだ気持ちの整理がつかない私はそう返すことしかできなかった。
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