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究極の選択だ。私はしばし猫と見つめ合いながら悩む。ふわふわの艶のいい白い毛を撫でたい。思う存分に。

けれど今そんなことしている場合ではないし、とりあえず騒いでいる似た者同士をなんとかしなくてはいけない。わかっているけど猫から目を離せないのだ。

「にゃうん?」

撫でないの?とばかりに首をこてんと傾げる猫が実は猫好きな私を誘惑する。わざと、わざとなのだろうか?比べるものではないが、殿下やリアンヌよりよっぽど強敵だ。

「撫でればいいんじゃないですか~?」

「え?で、でも」

「にゃ!にゃ!」

「ほら、猫もそうしろって言ってますよ~」

「猫の言葉がわかるんですか?」

「いや、わかんないですけど~」

あまりに猫と見つめ合うからか見かねたエヴァン様が撫でるように言ってくれる。猫がそう言うならと少し手が動いたものの、当然だが人間のエヴァン様に猫の言葉がわかるはずもない。

猫の魅惑で冷静さが……これが殿下の策略なら見直すけど……

「だ、だれか!いたいぃぃぃっ!」

「かお、かおがあぁぁっ」

それはなさそうだ。

「こほん……まずは殿下たちを静かにさせましょうか」

「いいのか……ですか、猫は」

「ね、猫は今構うことではないので」

リドル様にまで言われ立つ瀬がない。しっかりしないといけない場面で……もう、猫は後よ、後!

「にゃう……」

お願いだから!落ち込まないで猫様!そう見えるのは私が猫好きが故の妄想かもしれないけど。

「随分騒がしいね」

そんな中、猫から意識を離れさせる声が響く。殿下と同じく誰もが知る人物とも言える人の声。しかし、ここに来るはずのないお方が。

「ラーダ殿下……!お体は……!」

「ふふ、久しいねラフィーナ嬢。最近は体の調子もいいんだ」

そのお方はユーザ殿下の兄君、体が弱いことを理由に王位継承権を放棄したお方。健康であれば本来私の婚約者はラーダ殿下であり、王太子もこの方だったはずだ。

「ふーっふー……っな、何故、兄上、がっ」

痛みに耐えながらもラーダ殿下の登場に驚きを隠せない様子のユーザ殿下。ようやくあげた顔は思った以上に引っ掻き傷が多くある。それは叫ぶほどに痛いはずだ。

「随分、痛そうだね……大丈夫かい?」

さすがのラーダ様もひきつった笑みを見せる。顔を押さえていたため今初めてその傷の多さを見て私も今笑おうとすればひきつりそうだ。あまりに惨すぎて……。

自業自得とはいえ、同情してしまいそうなほどに血も流れている。猫は手加減を知らない。化膿する前に消毒を早くした方がいいと思うけど聞いてもらえないだろう。

にしてもユーザ殿下の傷を見た後では、リアンヌの一回限りの引っ掻き傷について本人は叫びに叫んでいるが大袈裟に思えてくる。それほどにユーザ殿下は目を離した短い間に何があったのかというくらいに猫の爪跡が酷かった。
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