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35.5~テオ視点~

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「アラビアン嬢!アラビアン………!アン!頼む戻ってきてくれ………!」

急にアラビアン嬢がボーッとし始めてこちらの声が全く聞こえない様子になった。

私が恐れていた事態。これは明らかに神託に近い状態。本来なら聖王である私が止めてはならないものだが、このままではアラビアン嬢は……私が守りたかったアンを完全に思い出させてしまう。

ああ、嘘も下手だからと真実を話ながら本当に隠したいものを誤魔化す方法は、よくなかったのかもしれない。

「アラビアン………?アラビアンはどうしたの?何をしたの!?」

クララ嬢は私が何かをしたと混乱しているようだ。取り乱している私の言葉に何か知っていると感じ取ったのだろう。

「これは神のお告げ………では?」

教会でウランは神託の瞬間を聖女の魂を持つものとして見たことがある。だからこそ気づいたのだろう。でも、教会の人間ではないアラビアン嬢が何故?と不思議そうにしている。

本来神のお告げ……神託は、教会の人間という前提で神の加護が強いものにしか告げられないものだから。

「神のお告げとは国の危機の救いとして神様からの助言……でしたっけ?おとぎ話のような話でしたが……実際にあるんですか?」

神のお告げに関しては貴族の教会のあり方としての勉学にちらっと出たりするため、メラニー嬢も知っていたのだろう。クララ嬢も聞いたことはあるような様子だが、いまいち信じきれていないようだ。

まあ、神のお告げは公開できるようなものではないから仕方ないのだが。

それにしても神託の時間があまりにも長い。私が封じたアラビアン嬢の記憶を解いてしまうおつもりなのか。神様による力なら、元々神様から力を授かった私は敵わない。

さすがに見過ごせない事態と判断されたのだろう。私が闇の存在を逃がしてしまったばかりに。万全の準備をして挑んだつもりが、本物の魂と混ざった闇の存在は、強力だった。魂の方に代償があるはずなのに、それさえも気にかけずあれだけの力を。

なりふり構わない力というのは厄介でしかない。

「さっきも言いましたが、聖王や聖女の誕生は神託によって知ることができます。それを世では神のお告げとして記されているだけです」

だんだんと取り乱しても仕方ないと冷静になる。神託は聖王の僕であっても邪魔ができないのだから止められるはずもない。なのにそれを知りながら止めようと取り乱すなんて……でも、愛する人が消えようとする瞬間を見たことがある僕にとってとても恐ろしいことだった。

アラビアン嬢が………神様から使命を賜ったアンの記憶を思い出すことが。

『ねぇ………回収失敗しちゃった……。あなたと離れたくないって……思って………っアラビアンも協力してくれたのに!どうしよう、どうしよう………!』

少女……アンの泣く姿が今でも頭にこびりついている。思い出したらまたアンとして泣いてしまうのだろうか?その時私はなんと言ってあげればいい?

闇の存在を祓えなかった私が。
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