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あれから、黒いもやのようなものが消えて、周囲の人たちは自分がどういう状況になっていたのか理解できていなかったようだし、オネエ様がクラートだったというユリアの衝撃発言までさえも、殿下以外聞こえていなかったようだ。

気がつけばネオンはまるで煙のように消えていて、ユリアはヒロインらしい顔つきであったこともなかったかのような表情に、オネエ様も怪訝そうにしていた。状況についていけないから余計だろう。

それからは特にあれほどの問題はなく、穏やかな日々が………と思われたが、そんなこともない。

何せ生まれ変わったオネエ様は生まれ変わる前よりモテまくる。何せ、男女関係ないのだから。オネエ様の性別がどちらでも構わない!という人が増えた。

おかげでオネエ様と毎日寮で以外離れずにいる私にも、離れていった取り巻きに代わって好意的な人ができ、学園が前より随分楽しい。

ちなみに寮に関しては去勢をしていないからさすがに女子寮に入れろとはならなかったのか素直に男子寮を承諾するオネエ様だったが、オネエ様の美人さに男子寮に放り込むのも……と教師は悩んだ末、使われていない旧女子寮の取り潰しをやめ、そちらをオネエ様の寮とした。

ひとり旧とはいえ、立派な大きな寮を与えられたオネエ様の寮は、オネエ様が男か女どちらなのか益々謎を深まらせ、相手が誰であろうとオニイ様、オネエ様と呼びたくなる年上雰囲気も醸し出すため、尊敬の意を込めて、オネニイ寮と後に呼ばれる。

それもそれとして、あの日からユリアに関しては特に何かしてくることもなく、ふとした時に殿下と笑いあっているのを見たり、ひとりでどこかへ行っていくのを見たりと、何かをしているようだ。恐らく攻略対象関連じゃと私は考えている。

あの黒いものの件を考えれば何かすべきなのだろうけど、私に何かできる気などしない。下手に突っ込んでオネエ様にも迷惑をかけたくはなかった。

それに、私たちの元へ集まる人だかりを見て、たまに怨めしそうにユリアがこちらを睨むのだが、その時のユリアの顔はヒロインのはずなのに、ホラー顔になるからおばけが苦手な私にとっては恐怖とでしかない。それ故、近づく気にもならないのだ。

今できるのは少しでも人と仲良くしていくこと。ユリアがもし隠しキャラを目指しているのなら、私にも生きていける希望があるから。オネエ様やウランのおかげで生きる嬉しさを知って、なんとか未来に打ち勝つために頑張るつもりではいた。

でもその可能性が、ヒロイン自らの行動によってあがったのだ。ただ、いくら怖くてもヒロインを犠牲にしてもいいのか……とも思うし、何故、ヒロインが死ぬのかまではよく覚えていない。

悪役令嬢が生きて、ヒロインが死ぬ。唯一隠しキャラが存在する話。隠しキャラがどんな人だったか……それが思い出せないのも問題だ。ネオン様みたいに会えばわかるだろうか?なんて思いつつも、隠されたキャラに会う可能性があるのかがよくわからない。

隠しキャラはヒロインが攻略対象全員に告白されることで、悩めるヒロインによって始まる物語なのだから。そこまでは覚えているのに、肝心な部分だけがわからない。

「アラビアン、疲れたのかしら?」

「あ、いえ……ただユリア様をあのままにしてもいいのかと………」

「そうね……。アタクシを狙わずにいてくれるのはありがたいくらいだけど、放置も怖いわね」

どうやら考え込みすぎたことでオネエ様を心配させてしまったようだ。ユリアのことを言えばオネエ様もやはり思っていたようだが、黒いもやの件で慎重になっているのがわかる。

下手に近づけば火傷ではすまないだろうから。

「週末、家に帰るから今回のことアラビアンがいいのなら整理しましょうか」

「ええ」

確かに家の方がウランもいて落ち着くかもしれない。学園は人の目が多いから。両親はウランがなんとかしてくれるだろうし……。

そう考えつつ、週末はオネエ様と二人、家に帰ることになった。

週末明け、またある意味大事件が起こることなど考えもせずに………。
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