悪役令嬢に転生したみたいですが、すでに婚約者は攻略されているみたいなので死んでみることにしてみました

荷居人(にいと)

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翌日、起きた瞬間からカオスだった。

「お嬢様……坊っちゃまが………お亡くなりに………!」

そうガクガク震えながら泣くウランの隣には、何故かその亡くなったと言われる兄クラートの姿…………のような人が。ただし、何故か前世でいう舞妓のような化粧に、サイズの合ってないドレスを着た異様な光景。

しかもそのドレスはアラビアン………私のではないだろうか?サイズが合わないせいでパンパンだし、いくら男子にしては華奢な兄でも、体型の違う女性のドレスは今にも破けそうだ。

「クラートは死んだの、今日からアタクシはクララよ!」

声からしてやはりクラートだった。少し声を高くしているようだが、やはり男子特有の低さがあるし、喉仏が隠せてない。

それはそれとして、その名前はだめな気がする。前世の記憶がそう告げている。クララはなんかだめな気がすると、何故そこはクラコじゃないの?

「なん、で」

あ、声が出た。これがショック療法というものか。朝起きたらお兄様がおネエ様になっているのだからあらゆる意味で衝撃的。効果は抜群だ。

「声が出たのね。安心したわ!アタクシ思ったの………!アラビアンに酷いことをしてきたアタクシは兄である資格はないと!竿もなくしたかったのだけどパパンとママンに止められたのよ」

「さ、お……」

ついクラートの股辺りを見てしまった。しかもパパン、ママンって何?兄でいる資格がないというのはともかく、何故その路線に走ったのか全く持ってわからない。多分私は、前世を思い出してから一番混乱している。

「旦那様、奥様は共に悲鳴をあげながら必死に止めたのですがこの通りです………。せめて後継者を作るまでは竿はなくすなと……。うじ男相手に言い過ぎたとは思いませんが、こうなるとは思わなかったのです!」

そりゃそうである。誰が悲鳴をあげ倒れた兄が、目を覚ましてすぐおネエになると思うのか。しかももはや別人である。私を嫌っていた兄は何処へ………?

「いえ、ウランのおかげだわ。アタクシはうじ虫だった。嫉妬で妹を傷つけてばかりで………寂しい思いに気づかず、いじめなんてものに加担させてしまった原因はアタクシにもあるわ。でも反省するには遅すぎたのよ………だからアタクシは姉として生まれ変わるの!」

どうしよう、ついていけない………。でも私を想って考えた結果なんだよね?その気持ちは素直に嬉しい………嬉しいのに舞妓顔のおネエかぁ…………。

「………おネエ、様………?」

「ええ、うじ虫のどクズ兄は死んだの!これからは姉妹としてよろしくね!………いやなら、無理には言わないわ。でもこれからはアラビアンのために姉としてしっかり償うつもりよ」

私を嫌っていたお兄様は死んで、私を想うおネエ様ができた………。

「よろしく………おねが、いします………?」

とりあえずおかげで声が出たのでよかったとして、私は深く考えることはやめた。

「ええ、よろしくね!これからは姉として………いや、それでも、最後だけは兄として謝罪したい。許す必要はない。今まで我慢した分俺を責めてもいい。混乱させて誤魔化したいわけでもない。俺は兄どころか人として最低なことを言ったし、思った。今ならなんでそんなことをとすら思うが、ただの言い訳だ。死んだふりなんてバカげた発言、アラビアンをより追い詰めるような言動をしてきたこと、本当にすまなかった!」

「おに、い、さま………」

兄としてならあまりにもふざけた格好だが、それでもその真剣さは伝わってきたし、土下座までする兄に、胸が締め付けられるほどに泣きたくなった。真っ直ぐに伝えられた謝罪は、母親に謝罪された時よりも素直に受け入れられる。

「償いなんて言ったが、償いでアラビアンへの態度を変えるわけじゃない。それでも償いはしっかりするべきだから、アラビアンが俺をもう見たくないと言うなら俺はこの家との縁を切り、平民でも奴隷にでもなる覚悟だ。しかし、まだ……俺を突き放さないでくれるのならばお前に酷く当たった男としての兄を捨て、変な話かもしれないが、生まれ変わる意味としても姉として俺はアラビアンを支えていたい。慣れないせいで化粧が濃くなったり服もこんなんだが、ふざけているわけじゃない。俺は俺なりにしっかりと過去と決別する意味でも、アラビアンと同じ女になろうとすることで、ウランのようにアラビアンの気持ちを理解できる姉になりたいとそう思ったんだ」

それがおネエになった理由なの、か。兄は兄として考えた結果が今の形なのだろう。それが私を想ってした行動の結果ならば、私は今後、姉としてのクラートを見ていきたいと思う。私は安易に死ぬことを選んだけど、兄の場合は兄である部分を殺して姉になることを選んだ……ただそれだけ。

「ありが、とう……おにい、さま………でも……」

「アラビアン?」

「承知しました、お嬢様」

「え、あ、ウラン!?」

気持ちは素直に嬉しい………が!その舞妓のような顔と、サイズのあってないパンパンのぴっちぴちドレスは勘弁してほしい。ただの恥である。それをウランに視線を向けることでウランも同じことを考えていたのか、兄を引っ張って部屋を後にする。

朝から疲れた気もするが、少しだけ自分の口角があがったような気がした。
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