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「アラビアン……」
希望を打ち砕いた後にこんな、また希望にすがれとばかりに伸ばされる手を私は、アラビアンはどう受け取れというのか。絶望の始まりの手とも言える手を。だからこそ、何かを望むような母の眼差しから酷く逃れたい気持ちになった。今更謝られてもどうしたらいいかなんて、本当にわからない……わからないのだ。
「お嬢様!どうやら先にスープだけ作ってくださっていたようで!急いでスープだけ持ってきました!」
そんな時、食事をとりにいったウランがスープだけを持って戻ってきた。
「あら、ウラン、ありがとう。それは私が」
「あーはいはいはい。奥様、後は私がお嬢様を見ますし、後の食事は他のメイドが持ってきてくださりますので、出ていってもらえますか?」
それは清々しいほどにウランがにっこりと笑って、スープを受け取ろうとした私の母親を拒絶した。
「え………?」
まさか出ていけと言われるとは思わなかったのか、固まる母親。そんな母親にウランは、父やクラートに見せた蔑んだ目を再び見せる。
「わからないんですか?何を言ったか知りませんが、お嬢様が先程より顔色が悪いです」
スープを持ってきてからそうたたずとも、ウランは何かを察してくれたようだった。誰よりも私の世話をしてきただけあり、察しがとてもいいようだ。でもこんなに言いたい放題言って、ウランが解雇でもされたらと少し心配になる。
「わ、私はただ今までのことを……」
「ああ、謝罪したんですか。自分が楽になるために」
「違うわ!私は………!」
「お嬢様を想うなら!お嬢様の負担になるようなことをなさらないでください!これ以上、奥様がお嬢様の傍にいるのがいいとは思いません!話をしたいなら、せめてもっとお嬢様が元気になってからにしてください!」
「………っ………私はこの子の母親として……」
「旦那様の言いなりでお嬢様を放置してきた奥様の何が母親なのでしょう?まさか放置してきたことを見守ってきたつもりだなんて、バカなこと考えてませんよね?どう言い換えようと奥様がしてきたのはただの放置ですから!その被害者面いい加減やめていただけますか?本当にお嬢様を想うなら、お嬢様にスープだけとはいえ、早く食事をさせたいので早く出ていってくださいませ……早く!!」
「私は…………いえ、アラビアン………またね……っ」
これ以上居座ることに何か思ったのだろうか?母親は最後に、私に顔を向けて静かに部屋を出ていった。おかげで無意識に緊張していた身体から力が抜けたように思う。
「本来ならば今まで解雇を恐れ、強く進言できなかった私も同罪です。お嬢様の傍にいる資格も、あんなに生意気に口答えする資格もありませんが………恐れ多くも、お嬢様が寂しがっていたことに私は気づいておりましたから、代弁させていただいたつもりです。気に入らなければいつでも離れますので、口パクでも構いません。容赦なくお伝えください。今はまずスープを飲みましょう。身体が痛むでしょうから食べさせて差し上げますね」
ウランはそう言うが、私にとってウランの気遣いはとても嬉しかった。あんなにアラビアンのために言ってくれたことが。クラートはあんなんだったが、父親も母親もただのメイドであるウランに強く出られなかったのは、私を蔑ろにしてしまった自覚があったから。
そんな中で、ウランの言い分はウランの言う通り、アラビアンの叫びそのものだった。だからこそウランに強く出ようとはしなかったのだろう。
そんな代弁者であるウランが食べさせてくれたスープは、とても温かく、今を生きてるのだと今更ながら実感させてくれて、不覚にも泣きそうになった。
希望を打ち砕いた後にこんな、また希望にすがれとばかりに伸ばされる手を私は、アラビアンはどう受け取れというのか。絶望の始まりの手とも言える手を。だからこそ、何かを望むような母の眼差しから酷く逃れたい気持ちになった。今更謝られてもどうしたらいいかなんて、本当にわからない……わからないのだ。
「お嬢様!どうやら先にスープだけ作ってくださっていたようで!急いでスープだけ持ってきました!」
そんな時、食事をとりにいったウランがスープだけを持って戻ってきた。
「あら、ウラン、ありがとう。それは私が」
「あーはいはいはい。奥様、後は私がお嬢様を見ますし、後の食事は他のメイドが持ってきてくださりますので、出ていってもらえますか?」
それは清々しいほどにウランがにっこりと笑って、スープを受け取ろうとした私の母親を拒絶した。
「え………?」
まさか出ていけと言われるとは思わなかったのか、固まる母親。そんな母親にウランは、父やクラートに見せた蔑んだ目を再び見せる。
「わからないんですか?何を言ったか知りませんが、お嬢様が先程より顔色が悪いです」
スープを持ってきてからそうたたずとも、ウランは何かを察してくれたようだった。誰よりも私の世話をしてきただけあり、察しがとてもいいようだ。でもこんなに言いたい放題言って、ウランが解雇でもされたらと少し心配になる。
「わ、私はただ今までのことを……」
「ああ、謝罪したんですか。自分が楽になるために」
「違うわ!私は………!」
「お嬢様を想うなら!お嬢様の負担になるようなことをなさらないでください!これ以上、奥様がお嬢様の傍にいるのがいいとは思いません!話をしたいなら、せめてもっとお嬢様が元気になってからにしてください!」
「………っ………私はこの子の母親として……」
「旦那様の言いなりでお嬢様を放置してきた奥様の何が母親なのでしょう?まさか放置してきたことを見守ってきたつもりだなんて、バカなこと考えてませんよね?どう言い換えようと奥様がしてきたのはただの放置ですから!その被害者面いい加減やめていただけますか?本当にお嬢様を想うなら、お嬢様にスープだけとはいえ、早く食事をさせたいので早く出ていってくださいませ……早く!!」
「私は…………いえ、アラビアン………またね……っ」
これ以上居座ることに何か思ったのだろうか?母親は最後に、私に顔を向けて静かに部屋を出ていった。おかげで無意識に緊張していた身体から力が抜けたように思う。
「本来ならば今まで解雇を恐れ、強く進言できなかった私も同罪です。お嬢様の傍にいる資格も、あんなに生意気に口答えする資格もありませんが………恐れ多くも、お嬢様が寂しがっていたことに私は気づいておりましたから、代弁させていただいたつもりです。気に入らなければいつでも離れますので、口パクでも構いません。容赦なくお伝えください。今はまずスープを飲みましょう。身体が痛むでしょうから食べさせて差し上げますね」
ウランはそう言うが、私にとってウランの気遣いはとても嬉しかった。あんなにアラビアンのために言ってくれたことが。クラートはあんなんだったが、父親も母親もただのメイドであるウランに強く出られなかったのは、私を蔑ろにしてしまった自覚があったから。
そんな中で、ウランの言い分はウランの言う通り、アラビアンの叫びそのものだった。だからこそウランに強く出ようとはしなかったのだろう。
そんな代弁者であるウランが食べさせてくれたスープは、とても温かく、今を生きてるのだと今更ながら実感させてくれて、不覚にも泣きそうになった。
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