上 下
17 / 28

17

しおりを挟む
自分の気持ちを自覚してから数日後、早くも龍の退院が決まった。無理こそはできないが、安静にしている分には家でもいいそうで暴れないようにだけきつく言われている。俺を後ろからもたれるように密着する龍が聞いているかはともかく。

何度か傷口が開きかけていたみたいなので仕方ないと言えばそれまでだが。とりあえず俺が傍にいれば問題はないだろう。

「立ってて大丈夫か?」

「んー、意外に平気。兄さんの癒しパワーかも」

「何言ってんだか」

甘えたな龍の手に右手を重ねてやれば龍のもうひとつの手が俺の右手を包み込む。話を終えたばかりの医者と看護師の目が痛いが、龍が気にしないのなら俺は構わない。

「本当に仲良しね!でもそろそろ帰りましょ?龍をずっと立たせてるわけにもいかないしね」

車イスを拒否したのは龍だが、それでも確かに立たせたままなのは傷口に悪いだろうと俺も思うため母の言う通りにする。意外というべきか母に関しては、龍が入院する前はともかく、普段から俺と龍が仲良くしているのを見てきたからか、特に気にした様子はない。

実は龍の入院中キスしたところを見られて慌てもしたがいつも通り仲良しね~、で終わった。寧ろ気にする俺の方がおかしいとばかりに龍も気にした様子もなくてとりあえず母に関しては俺も気にしないことにした。

「龍、大丈夫か?」

「兄さんがいるから大丈夫」

「何だそれ」

車に乗るときも気遣っていれば龍はそれが嬉しいとばかりににこにこと笑っていて本当に怪我してるのかすら怪しいほどに上機嫌だ。まあそれでも無理はさせられないが。

そんなわけで龍を気遣いつつ、二人で後部座席に座り母が運転し始めれば母の唐突な質問に俺は吹き出すことになった。

「結婚はいつするの?」

「ぶ……っへ、か、母さん?」

もはや兄弟を通り越した関係わかってますとばかりの行き過ぎた質問に頭が混乱する。他人ならともかく母さんは家族だからこそ動揺が先立つ。

「兄弟でも結婚できるの?」

しかし、龍はとても冷静だ。やはり俺がおかしいのか?と感じてしまう。

「んー、無理だけど、婚姻届書くことはできるし、家族内でしちゃえばいいじゃない」

「か、母さんはいいのか?俺と龍がそういう関係でも」

「寧ろ大歓迎よ」

あっさりとした母の答えに気持ちを封じ込めていたときの自分が本当にバカみたいに思えてくる。

「兄さん……いいの?僕と兄弟以上になっても」

なんて思っていれば隣から目をきらきらさせた龍が。そう言えば行動が先立って俺自身の気持ちは伝えてなかったなとこれまた今更気づく自分にため息が出そうになる。なんだかんだ龍をまた不安にさせてしまっていたのだろう。

愛してるとは伝えたが、龍からすればそれは兄弟としてとしか思われてなくてもおかしくはない。それは伝えてないと一緒だ。

「ああ、遅くなってごめんな。俺も龍を愛してる。兄弟としても、それ以上としても……こんな情けない兄ちゃんだけど俺でいいのか?」

「うん……!兄さんがいい!兄さんじゃなきゃ嫌だ!」

ロマンも何もない母のいる車の中だけど龍は満面の笑みで嬉しそうに笑うので照れ臭さよりも嬉しさが勝る。自分の気持ちを伝えただけでここまで喜ばれる俺は世界一の幸せ者だろう。

「まあまあまあ!見せつけてくれるわね!というかまだ恋人同士じゃなかったの?パパにも報告して二人で喜んでたのに」

きっとキスの場面を見られた日からそういう風に思われていたのかもしれない。俺たちの関係を受け入れてくれる母に感謝と知らないうちに父にも報告されていた驚きと、母の言い分から父にも受け入れられている安心感にこの家族の一員でよかったと心底思った。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染

海野
BL
 唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。  ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...