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1章悪役令嬢の秘密
7~ハート侯爵当主視点~
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私はこの世でもっとも最悪な父親だろう。いや、父親と言うことすら烏滸がましいかもしれない。久々見た娘は最後に見たときよりも痩せ細りまだ生きているのが不思議なほど。
若い瞳は期待すらない絶望に満ちたかのような暗い瞳で、私が去る最後まで娘は私を憎むように睨んでいた。
当たり前だ。私は命に余命あるアイとどう接していいかわからなかった。あんな弱々しい娘に対して私が触れれば殺してしまいそうで、壊してしまいそうで怖かった。妻も健康に産んであげられなかったことを悔いて会うことを拒み、私自身いつしか会えた日には不器用な言葉でアイを傷つけるだけしかできず、これ以上傷つけたくないと会う頻度は日に日に減った。
娘に会いたくない
その理由は大事になりすぎて失う恐怖が増しそうだったから。
娘は生きてさえいればいい
それでも少しでも長く成長を見守りたい。そのためなら全財産なくなろうと私たちは構わない。
侯爵にふさわしくあれ
コーカイ様に惹かれているだろう娘のためを想うからこその言葉。努力をすれば報われる。きっと公爵のご子息にも見初められるだろうと。
婚約者に気に入られろ
互いに愛し合い短くとも幸せな結婚生活を。子は難しいかもしれないが、私たちにはできなかった家族の幸せを味わってほしかった。夫婦もまた家族。そんな願い故に出た言葉。
どれも誤解を与えてしまう言葉ばかり。なんと愚か誤解すら解けず娘の気持ちをわかったフリしてわかっていなかっただなんて。
決してコーカイ様との婚約は政略的なものじゃない。命少ない娘のために必死に………。
「ジンセー公爵に謝らなければな」
公爵当主だけには話してある娘の事実。優しい公爵様はそれで娘が救われるならばと許してくださった婚約。だというのに私は娘のために結局何もしてやれなかったという結果。
娘の幸せのために私は何ができたというのだろう?疑問を持つことはない。ただ、愛してやればよかった。これは私が怖がりすぎた結果だ。関わるのが遅すぎた残り3ヶ月なんてあまりにも短く誤解ひとつ解く時間はないに等しい。
婚約の解消を娘が望むなら私はそう動くだけだ。だが、本当に娘はコーカイ様に恋をしていなかったのだろうか?妻も確信していたように言っていたというのに。
なんて考えても仕方ない。
娘に関わってこなかった私たちがどう疑問に感じようが関わってこなかった時点でわかってあげられることは何もないのだ。せめてコーカイ様が娘の心の安らぎとなれば、学園で友達のひとりでもできたならと思ったが………。
難しい願いだったのだろうか。
願うばかりの親ほど愚かなものはない。娘が幸せを知らずに死を迎えたのならそれは………
「私たちのせいだ……っ」
今更私と妻が愛を伝えたところできっとアイの心には響かない。これはきっと今まで娘の死に怯えて放置してきた私たちの罰だろう。
愛しているよ、その一言がなんと重いことか。
その日、妻に娘の話をすれば妻もまた泣き崩れた。
若い瞳は期待すらない絶望に満ちたかのような暗い瞳で、私が去る最後まで娘は私を憎むように睨んでいた。
当たり前だ。私は命に余命あるアイとどう接していいかわからなかった。あんな弱々しい娘に対して私が触れれば殺してしまいそうで、壊してしまいそうで怖かった。妻も健康に産んであげられなかったことを悔いて会うことを拒み、私自身いつしか会えた日には不器用な言葉でアイを傷つけるだけしかできず、これ以上傷つけたくないと会う頻度は日に日に減った。
娘に会いたくない
その理由は大事になりすぎて失う恐怖が増しそうだったから。
娘は生きてさえいればいい
それでも少しでも長く成長を見守りたい。そのためなら全財産なくなろうと私たちは構わない。
侯爵にふさわしくあれ
コーカイ様に惹かれているだろう娘のためを想うからこその言葉。努力をすれば報われる。きっと公爵のご子息にも見初められるだろうと。
婚約者に気に入られろ
互いに愛し合い短くとも幸せな結婚生活を。子は難しいかもしれないが、私たちにはできなかった家族の幸せを味わってほしかった。夫婦もまた家族。そんな願い故に出た言葉。
どれも誤解を与えてしまう言葉ばかり。なんと愚か誤解すら解けず娘の気持ちをわかったフリしてわかっていなかっただなんて。
決してコーカイ様との婚約は政略的なものじゃない。命少ない娘のために必死に………。
「ジンセー公爵に謝らなければな」
公爵当主だけには話してある娘の事実。優しい公爵様はそれで娘が救われるならばと許してくださった婚約。だというのに私は娘のために結局何もしてやれなかったという結果。
娘の幸せのために私は何ができたというのだろう?疑問を持つことはない。ただ、愛してやればよかった。これは私が怖がりすぎた結果だ。関わるのが遅すぎた残り3ヶ月なんてあまりにも短く誤解ひとつ解く時間はないに等しい。
婚約の解消を娘が望むなら私はそう動くだけだ。だが、本当に娘はコーカイ様に恋をしていなかったのだろうか?妻も確信していたように言っていたというのに。
なんて考えても仕方ない。
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難しい願いだったのだろうか。
願うばかりの親ほど愚かなものはない。娘が幸せを知らずに死を迎えたのならそれは………
「私たちのせいだ……っ」
今更私と妻が愛を伝えたところできっとアイの心には響かない。これはきっと今まで娘の死に怯えて放置してきた私たちの罰だろう。
愛しているよ、その一言がなんと重いことか。
その日、妻に娘の話をすれば妻もまた泣き崩れた。
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