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まず冒険者になるためにはギルドへ行かなくていけない。初めての城の外だからちゃーんと地図も持ってきた。持ってきたけど………。

「おっかちいなぁ……」

不思議と同じ場所をぐるぐるしている。そういえば前世はよく迷子になっていたような……。そんなところまで引き継がなくてもとは思うけど、方向音痴なのはどうしようもない。

なんて思っていれば異様に周りの視線が痛いような……?いくら城の外が初めてでも僕が第二王子なのがバレちゃっただろうか?そう思いもしたけど、よく見ると僕じゃなくて僕の後ろに注目しているようだ。

「え?」

地図に集中していたせいで全然気づかなかったけど、何故か猫がぞろぞろと僕についてきていた。僕が止まったからか座って僕が動くのを待っているようだ。

いや…………なんで?

首を傾げれば猫もどうしたにゃ?とばかりに首を傾げる。これはいくら僕でも、可愛さコンテストがあったとしたら、余裕でこの猫たちには負ける気がした。

何せ、生まれる転生前から猫が大好きだからね!何故僕についてきていたのかよくわからないけど、僕は知らず知らずにこの猫集団を魅了し、なつかせてしまったのかもしれない。

「……おいで?」

そう都合のいい考えが浮かべば、すぐに思ったのはあのもふもふに触りたいということ。なつかれてるならいくら触っても許されるはずだと期待して。実際その集団のボス猫だろう存在が、僕に近寄ってきた。

「にゃぁ」

だが、手元までは来ず、近くまで来たかと思えばそのまま折り返すように回って、まるでついてこいというばかりにボス猫が鳴く。同時にぞろぞろと動き出す猫。

「えー………?」

一体なんだろう?と思いながらも、魅惑のもふもふパラダイスに釣られて集団猫についていく足が止まらない。そうしてある場所に着くと猫たちが止まった。

「にゃ」

「あ!ギルドだあ!」

まさかの猫はギルド案内人だった。迷っていた僕を猫が見かねてって……………………そんなことある?

「にゃん……」

な、なんだろう?達者でな、みたいな感じでボス猫は他の猫を連れて去っていく。周囲もそんな猫たちに視線を釣られたようだけど、集団なせいか、ボス猫の近寄るなオーラのせいか、近づく人はひとりもいなかった。

そうして猫を見送り、周囲が何か聞きたそうにうずうずしてるのを見て、にこりと笑い、ギルドへ逃げる。正直聞かれてもわからないし。あれだけいて、一匹もモフれなかったのも残念でならない。

さて一難去ってまた一難と言うけど、まさか4歳の幼児相手に、前世ではよくあった異世界ファンタジーのラノベみたいなテンプレを経験するとは思いもしなかった。

「おいおい、ガキが迷子かぁ?」

いかにもな悪人顔で図体のでかいおじさん。それが僕に、わざわざ絡みに来るのだからとりあえずろくでもない人なのは理解した。

いや、見た目で判断は………

「ぼく、ぼうけんしゃとうりょくにきましたっ!」

「お前みたいな?ちびが?冒険者だあ!?しかも、ひとりでぇ?」

時に見た目通りの場合もあるよね!

ここまでクズだと逆に容赦なく色々やっても罪悪感を感じないから僕は嫌いじゃない。

「おじしゃん、おなまえは?」

「はっ!名前はまず自分から名乗るもんでちゅよ~?」

なるほど、とことん僕をバカにする気でいると。しかし、それくらいで涙を見せる気は全くない。涙はここぞというときに出さないと信用は勝ち取れないからね。

「そうなんでしゅね!で、なまえは?」

寧ろここは勝ち気で行く。

「ああ?聞こえなかったのか?てめぇなんかに名乗る名はねーよ!」

そんなこと一言も言ってないのに……もうボケが始まってるのかもしれない。それなら名前を忘れてる可能性もあるのかも?

「なら、ナナシしゃんでしゅね。じぶんのなまえもわからないなら、しょうじきにいわなきゃでしゅよ?」

「なっ」

僕がそう言うと、ギルドの中で僕らを見ていた冒険者たちがくすくすと笑い始めた。名前の件だけではなく、幼児にからかいをスルーされ、あげくにはその幼児に可哀想な目で見られるのはさぞ屈辱的だろう。特にこういうプライドだけはいっちょ前そうなタイプであろうおじさんには。

「では、ナナシしゃん、これかりゃ、よろちくおねがいしましゅ!ぼくはぼうけんしゃのてちゅぢゅき手続きがありましゅので」

そんなおじさんは予想通り見るからに怒りに震えていたが、あえて気づいてないふりをして、僕は冒険者手続きに行こうとする。これでもし冷静になって絡まないなら終わってもよかったんだけど………。

「ガキがぁっ!大人からかってんじゃねぇぞ!」

まあ、そうはならないよね。怒り爆発とばかりに怒鳴り声をあげ、まさかのまさか僕を殴りかかろうとする。転けた振りをして避けてもいいけど、あえて殴らせてあげて父に言いつけ、青ざめる姿を見るのも楽しそうだ。

けど、痛いのはやっぱりいやだなぁと思い、避けることを考えたときだった。

「やめろ」

「てめ……っ!」

僕を殴りかかった拳を受け止め、助けてくれた人物が現れたのは。
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