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2章次に無駄なプライドをへし折るとしましょう

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「奴隷って、あまりに逆らうようなら殺せるのよ?主人に抵抗する家畜なんていらないものね」

まあ静かになったとはいえ、追い詰める気満々な私は剣の近くに座り込みにっこりと笑って殿下を見上げる。

「お、脅す気か………」

「脅す?私は処刑だ処刑だと何の権限もなしに叫んで身分で脅すバカとは違いますわ。真実を言っているだけです。脅しではなく、本当にできることで貴方が死のうと生きようと私にはどちらでもいいわ」

あらあら、真っ青になって今更死の意味を理解できたのかしら?

「しょ、処刑は取り消す、だから………っ」

「殿下、いえ奴隷。何様かしら?」

「ひ、ひぃっ」

情けない声。仮にも元王子であるなら堂々としてほしいものだわ。

「貴方、本気で私を処刑にできるものと思っていたの?自分の父に認められもしない生まれた身分だけの存在の貴方が。人をバカにするのも大概になさいよ?」

「ご、ごめなさ………っうぐ」

涙目となるバカにぱしんっと一発頬を叩く。その衝撃でぽろりと涙がひとつ溢れれば止まらず驚いた様子で私を見て震えるバカ。

「どんだけ我慢してきたかわかるかしら?」

「うっふ………っ」

ぱしんっ

「貴方がバカをやらかす度尻拭いをして」

「い………っ」

ぱしんっ

「貴方が何かを仕出かす度陛下に呼ばれるのは私で」

「ぐぅ……っ」

ぱしんっ

「貴方には遊ぶ時間余裕があるのに私は貴方のせいで自分の時間すら作れない」

「も………っ」

ぱしんっ

「なのに不貞を働き、証拠なしに無実の私を処刑?あんな尻軽令嬢いじめるくらいなら罪人になろうと貴方を殺す勢いでいじめるわよ!」

「ごべ……っ」

ぱしんっ

「今更謝ろうと許すものですか!」

右頬も左頬も叩きに叩いて少しばかりスッキリするも、日々を思い出すとどうにも怒りは治まらない。思った以上に私は溜め込んでいたことを自覚する。

平気なつもりだったのだけど………ね。私もまだまだ未熟だわ。

「……………」

ふとバカを見れば血の流しすぎか、叩きすぎか、バカは衛兵に抱えられながら気を失っていた。それを見て肩の力が抜ける。

「………情けないわ、こんなバカ相手に感情を隠しきれないなんて」

「コエデル嬢様の頑張りは城のものたち全員が理解しております。今までのことを考えれば当然かと」

「そう………そうかしら」

「私たちは貴女ほど未来の王妃に相応しい人はちないと思っています」

「未来の王妃ね………」

果たして頼まれたただひとりの教育すらできなかった私がなれるものだろうか。

この国は好き。でも、それはあの人が好きだから。そんな不純な理由を持つ私が王妃に本当に相応しいのだろうか。それでもあの人のために私は王妃になる覚悟はある。

情けないことに私も結局はバカと同じように身分が必要なのだ。発言力ある身分が。

私はできるなら王にした人物を失脚させて彼を王に仕立てたい。この国を愛し、誰よりも国の王に相応しいのはあの人だと思うから。その隣に立つのが私なら、私は誰よりもあの人に信頼される臣下のひとりして動こう。

私は国よりもあの人に相応しくありたいから。でもそのために失脚してもおかしくなく、王家の血筋をしっかり受け継いだこのバカを一度王にさせるのが一番の近道なのだ。

だというのに、バカはバカなことしかせず王になる以前の問題。なんて使えない人なのか。

ああ、きっとその怒りもあったのかもしれない。冷静になろうとしていたのに、バカがあまりにも喚くから。私だってこのバカを奴隷になんてしたくはなかった。

今の段階では。

「まあ、将来のことはともかく今はそれを手当てしてこの首輪をつけて。私はもう疲れたから休むわ」

「「はっ」」

世の中は不公平。こんなにも民に見放され生きる価値がない人物ばかりが威張れて、あんなにも立派な人は表に出ることが許されない。

それもくだらない理由で。

そう悩むくらいならあの人を表に出してやれる方法を実行すればいいが、この国の王の命令で監禁された生活をする表に出ることが許されないあの人を手っ取り早く表に出すには王族を皆殺しにすること。だけどさすがにそんな行動はとれない。あの人の側に長くいたいし見守りたいから。それに私の力ではどちらにしろ無理だろう。

それに血濡れた王座にあの人はなりたがらないと思う。人を憎んでいいだろうにあの人は生かしてもらえているといつも笑顔だから。

あの人でも私の知らないところで泣いたり怒ったりすることがあの人にはあるのだろうか?

その時あの人は誰かが傍にいてくれるのだろうか?もしいるならば私は嫉妬してしまいそうだけどひとり寂しく孤独に泣いて怒るくらいならば私の嫉妬なんて気にしてられない。

少なからず私はさっきの衛兵のように私をわかってくれる民たちがいてそのことに救われる思いがあることに変わりはないから。

「もし、あのバカを王子に戻せなかったら………」

他の王子の婚約者に名乗り出ることもできるけれどバカを奴隷に抱えたままなら難しいだろう。他の王子たちはバカを嫌っているから。

バカひとりのせいで前途多難すぎて頭を抱えたくなる。家まで帰る元気もなく、私は城に用意された部屋にあるベットで体を休ませるため眠りにつくのだった。
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