上 下
42 / 75
本編(完結)

思い出したら最後

しおりを挟む
随分くだらない理由での自殺だと思う。自分のために頑張ってくれただろう妹を置いて逝くというのは妹から家族を奪ったに過ぎない。

それでもあの時ようやく呪縛から解放されたようで死が救いになっていた。今考えると妹に対して罪悪感はあるし、その記憶が妹にあるかどうかわからないけどあるなら謝りたいとも思う。

ちなみに死ぬきっかけとなった記憶を思い出してあの時のように戻らず済むのは、何も今の俺からして前世だからそう深く考えずに済んでいるわけではない。

傍に、俺と同じ境遇で明らかに俺よりもすごい人がそれでも俺を褒めてくれている。なんなら意識を失う前は俺に気づかれないように裏から手助けすらして俺の努力を誰よりもわかった上で認めてくれてさえいた。そんな兄の言葉は決して適当に言ってるわけじゃないとわかるからこそおかしくならずに済む。

今思えば俺はクウリになるべくしてなったと思う。全てはレウルと会うために。

それからは何故か俺の方が兄から離れがたくなってしまった。前世のようにならないよう生きていくためには兄が必要だと、兄だけが救いだとどこかで感じているが故に。死にたい訳じゃない。けれど、記憶を思い出したことでまたあの不安に駆られそうで、生きることが怖くなりそうでたまらないのだ。

なのに兄が傍にいるだけで大丈夫と理由なく思える自分がいる。兄はあの日から俺の方から傍を離れないようにしていることに気づいているだろう。でも理由まで理解しているとは思わない。

とはいえ、兄は俺が傍にいようとするその行動を咎めはしないし、勉学や剣など厳しい面もあるがそれ以外は甘やかしてくれているのがわかるほどに声も、その言葉すらも、なんなら行動全てが俺に対して甘い。

その甘さは頭を撫で、抱き締め、触れるだけのキスを頬や額に降らせ

「クウリ、愛しているよ。私の愛はクウリだけに生涯捧げよう。誰よりも何よりも……クウリのためなら私は国を敵にしようとなんだってするから、このままずっと傍にいておくれ」

耳に響くようなうっとりとしたくなる声で言葉を囁く。

「うん……俺も兄さんのこと……」

「大丈夫、わかっているよ。それを聞くのはまだ早いんだ。今聞いてしまえば私は片付けるべきことすら忘れてクウリに狂ってしまう。だから全てを片付けたときにそれを聞かせて?」

なのにそれはどこまでも一方的。たくさんの愛を伝えてくれるのに俺には言わせてくれないのだから。でもそれはそれで兄の深い愛を感じられて心地がいい。

そんな兄に対する感情に気づいたのは実を言うとつい最近。俺の中で前世の記憶は最後の砦だったのだろう。あの日、前世の死を思い出してすぐは確かに家族としての愛情を兄に注いだ。兄が落ち着いてのその日以降は死ぬまでの道程が頭から消えない日々が続き、そんな日々の中である日自分が無意識にあの日から兄の傍を離れられずにいることに気づく。その気づきでようやくその感情を知るに至ったのだ。

家族以上で恋と言うにはまだ足りない、心深くに根付いてとれないほどの愛に。

今まで兄を怖い怖いと内心言いながら離れようとはせず、身内に悪役にさせないためなんて理由まで付けて本当に離れたくなかったのは自分だったのだと今更気づいたその感情はまさに《依存》という言葉が当てはまるだろう。

俺は無意識に兄に自分へ執着するように仕向けていたのかもしれない。自分の存在価値を見出だすために。兄を自分がどうしようもないときに寄りかかれる存在とするために。そんな自分勝手な理由でそう仕向け、無意識とはいえ偶然の産物すら手伝って結果はこの通りうまくいっている。

「もう……離せない」

「クウリ?何か言った?」

「ん?何も言ってないですよ?それより頭撫でるのやめないでほしいです。俺、今日テスト頑張ったんですから!兄さんも満点よくできました!」

くしゃくしゃと両手で兄の髪を乱雑に撫でることで誤魔化せば目の前には嬉しそうに微笑む兄の姿。

「ふふ、ごめんね?ありがとう」

また一度止めた手で俺の頭を撫でてくれる俺だけの兄。そんな今の兄を失くせば俺は前世のように躊躇いなく死を選ぶだろう。



ー作者よりコメントー
久々の2ページ更新!仕事休みなので頑張ってみました!

今回、ついに本性を現したクウリと言うべきでしょうか。兄のヤンデレが目立ち、本来最初から病んでいたのはクウリの方という……。
兄がいなければだめなのは実はクウリでしたね。

これから二人はどうなるのか、最後まで見守っていただけたら幸いです!
しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...