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本編(完結)

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あれから授業を終えた後にようやく戻ってきた兄は真剣に何かを警戒している様子だったのに、俺を見たとたん気が抜けたとばかりに急にやつれた。まるで空気が一気にしぼんだかのように。

そしてまだ放課後でもないというのに帰ると一言言うと俺すら引っ張って帰宅。外には何故か既に迎えが来ていた。

「兄さん?」

「頑張らないといけないのに……疲れた」

これは誰だとばかりに珍しく兄が疲れた表情を出すためにいつもと違って弱く見え、俺まで動揺してしまう。いったい全体何があったのだろうか?人との会話に慣れきった兄がここまで疲れを顔に出すなんて。

そんな兄は何を考えているのか、急に俺を抱き締めては顔の額を俺の肩に乗せる形で、離さなくなってしまった。正直今の兄を離す気にもなれないため好きにさせるが、俺自身がどうすればいいのかわからず手を宙にさ迷わせる。

「なにが、あったんです?」

「………」

とりあえず何があったか聞いてみたはいいものの無言なのは話したくないのか、話す元気すらなくなったのかの二つしか思い付かない。でも多分、確実に前者な気がする。ただでさえ俺を除け者にして三人で話に行ったくらいなのだから。

「困った人だなぁ」

そう思考して思わず出た言葉に一瞬だが兄の身体が強張った気がした。悪い方へ気にさせてしまっただろうか?そんなつもりはなかったんだが。

そんな兄の様子にシエル姿ではあったが元妹に会ったせいだろうか?兄がどうにもいつしか塞ぎ込んでいたあの子と重なる。それがなんだか可愛らしく見えて、気がつけば自然と宙に浮いた手の片方は兄の背に回し、もう片方は兄の後頭部を撫でていた。

「……くう、り?」

「たまには兄さんだって甘やかされるべきですよね」

自然とそんな言葉が出る。兄に拒否されて拗ねて、俺は弟であることに甘えすぎていたんだと今更気がつく。何でもできて、既に王太子としての自覚も持ち合わせ、いくら勝負をしても完勝しか知らないような強い兄だけど、クウリと二歳離れただけの子供だというのに。

それだけでなく、兄だって料理は味がないという失敗だってするし、俺を独り占めしようとする姿なんてよくよく考えれば子供がお気に入りのおもちゃを他人に渡したくないといったものに近いと思う。まあ後半に関しては度が過ぎている気がしなくもないけれど。とにかくそう考えればいくら次元違いのすごい兄と持て囃される人物でもひとりの人間に変わりはない。

なんで気づいてやれなかったんだろう?兄が誰かに甘えたり頼ったりするところなんて一度も見たことがなかったというのに。それがおかしいことだと何故俺は気づいてやれなかったんだろう。

前世で俺は大好きな妹に怒りを向けてしまったくらいに、ひとりで頑張る辛さを味わったことがあったというのに。今の今までそれを忘れていた。

「ごめんなさい、兄さん」

「なんで、謝るの……?」

「んー……理由をつけるならただの自己満足ですよ」

謝らずにはいられなかった謝罪は本当に自己満足でしかない。自分のことばかり考えて身近な人を苦しませてしまった罪悪感を薄くさせるための身勝手な謝罪。

「兄さん、よく頑張ったね」

「……っ」

そして兄の頑張りを認め、褒めるのは前世俺が望んだ言葉を言っただけに過ぎない。その言葉を行動でも示すように頭を撫で続ければ、兄から鼻水を啜るような音が聞こえた。泣いているのだろうかと感じはしたが、俺の肩に額を乗せた兄の顔は確認できないし、こういうのは見られたくないものだから気づかないフリをする。

こうして俺はしばらく兄が落ち着くまでその状態を続けた。たくさんたくさん大事な家族としての愛情を注ぐように触れて、今までの頑張りを褒めながら。その言葉は誰よりもレウルを傍で見てきたクウリだから言えることだ。

これからは兄が悪役にならないようにじゃなく、兄が兄でいられるようにしっかり兄を見ていこう。そんなことを俺は心の中で誓った。兄を前世の自分と重ねて。





ー次回予告とお知らせー
クウリの前世の兄力あにりょくがついに発揮された!さらに!ようやくクウリの無意識に忘れようと鍵をかけ語られなかった前世についての記憶が………今!

というところで申し訳ないんですが、今日の更新はこれのみです。ちょっと仕事空いた時間や仕事休みすら書きまくって休みない状態だったためさすがに疲れちゃいました……。大変申し訳ございません。

明日まで次回予告にて想像をお楽しみください。
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