上 下
36 / 75
本編(完結)

疲労~レウル視点~

しおりを挟む
「それで?どういうお話でしょうか?」

そう切り出したのは私を睨むシエルという伯爵家の息子。目を覚ましてから突然別人のようになったと聞いたときから、私はひとつの可能性を考えてはいた。その可能性も一度しか会ってないクウリに対する言葉を聞くことで確信を得るに至る。

その可能性とはあの忍者の末裔である彼と同じく前世を持つ人物。言葉の数々からあの『君と共に』を知る人物であること。

そして恐らくは。ただわからないのは『君と共に』の本来のヒロインであろうその存在。

今思えば少し前のあれは失態だった。ピンクすぎるからこそヒロインだと勝手に勘違いし、何故同じ中等部にいるのかと焦ってしまったから。どうあがいてもあれが言っていた可能性、強制力が働いているのかと。

クウリが奪われる。

そんな考えに囚われムキになった。結局は偽物だったようだけど、今思っても紛らわしく、クウリを自分のものと断言するようなあれは頭がおかしい。ヒロインでないと判断できたのはシエルの言った偽ヒロインという言葉のおかげ。

恐らくヒロインの姿を知っているからこそ言えたのだろう。そのヒロインの姿はシエルの隣にいる人物ではないかと考えている。彼女を見てクウリは確かに驚きを隠せなかったようだから。

ちなみに毒牙偽物を沈めたシエルを男がご令嬢に暴行なんてと言って罰する気はない。ただなんてよくあることだからね。

思考を巡らせても次へは進めないので、そろそろシエルとやらの答えに答えよう。

「単刀直入に聞くけど、前世でクウリとはどんな関係だったのかな?」

クウリと離れている無駄な時間はできるだけ省くべきものとして確信をついた質問からする。思わぬ質問だったのか、驚いたように目を見開いたシエル。

「まさか貴方も前世の記憶があるの?」

思わず自分の言葉が出るほどに動揺しているようだ。質問しているのは私だけれど、前世の記憶持ちが気になるのは仕方ないかもしれない。あえて、あると答えてもいいけれどどうしたものかな。

「お二人は何を言って……?」

「ハナちゃんは気にしないで?これは私と殿下とのお話だから」

「シエルちゃんがそう言うなら……」 

そんな中理解できないとばかりのピンク嬢の言葉は彼女に前世の記憶がないことがわかる。それだけでもひとつの収穫だろう。随分とシエルに従順な様子が気になるけど、記憶がないならやりようはある。

あの様子から見て、今のクウリがピンク嬢に惹かれるとは思えないしね。ある意味ピンクすぎて別の意味で目がいくことはあるかもしれないけど。

「今のクウリとの関係は私が妹で、クウリがお兄ちゃんだったのよ」

どうやら返事をしない私に前世の記憶があると勝手に判断し、勝手に気を許した様子で質問を答え出す。まあ今は周囲に人もいないし、タメ口を使うななんて言わないけどね。話し方なんて正直どうでもいい。でもそれとは別に警戒心解かすの早すぎないかな?と思わなくもない。

例え前世の記憶が私にあったとしても味方とは限らないのに。実際はないけどね、記憶。向こうが勝手に勘違いしただけ。

どちらにしろクウリの元妹なら……クウリもクウリでちょっとあれなところがあるから変に思い込んで警戒心なくしても納得かな。クウリと似てる部分があると思うと少し腹が立つけど。今は私の弟なのに。

「え、シエルちゃん、お姫様なの!?」

「ハナちゃん、何か勘違いしてるけど、まず私はこんな口調だけど男よ」

「そうだったね!あれ、でも、シエルちゃん、殿下の妹って……」

「気になるならもう耳塞いでなさい。貴女は私よりバカなんだから」

「うん!」

私の周りにはバカしか集まらないのかな?私が考え込んでいる間に漫才を始めた二人。しばらくその漫才を見せられた私はもはや腹が立ったことすらどうでもよくなった。シエルはともかく、ピンク嬢はまともだと最初こそ思ったけどあの偽と比べてしまえば誰だってまともに見えるものだと今更気づく。

なんならシエルは自分がバカだと認めているし、ピンク嬢に関しては自分以下のバカ認定をしている。本人は頷いてるし……。そう言えばクウリも確か自分が頭弱いと認めていたっけ?自覚あるおバカさんが多いことで……。喜べないからね、これ。

とりあえず自覚ないバカよりかは自覚ある方がいいかもしれないけど、クウリ以外のバカを見てもちっとも心が動かない。バカ可愛いのはクウリだけで十分だからバカの披露漫才はやめてくれないかな、本当。
しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...