兄を悪役にさせないために全力を出した結果～ヤンデレブラコン化は悪役よりマシですか？～

本編(完結)

友達は夢、恋人は来世、婚約者は殺される

兄がマジ……忍術を習得して少し。中等部なんて言い方は違えど、前世で言う中学校に近い。最初こそ年は違っても友達ひとりくらいできないかなと思っていた俺だが、日が経つごとにそれはどうやら甘い考えだったと知る。

まず、中等部に入学してから毎日隣にはぴったりと兄がくっつき離れない。それでも二人して王族なので人はいくらでも寄ってくるので最初こそチャンスがあると信じて疑わなかった。

しかし、人が寄ってくれば必要以上の会話はさせてもらえず、兄の様子からして相手側の無駄話が長く利益にならないとわかると煩わしそうにし出し、不機嫌になりかかることもあったため、友達を作ろうなんて雰囲気は出来るはずもない。

ちなみに兄を不機嫌にさせない解決方法としては、見張っているのかまるで影から這い出たようにルンルンが現れてマジ……忍術でみんなの気を逸らしてくれるので、その間に二人してその場を離れるというもの。

そんなことが続く中で友達は夢なのだと早々に理解を得る。ある意味兄以外にルンルンと関わりがあるだけいいのかもしれない。友達になれないか聞いたら無理だと言われたけど。

『下僕なら喜んで』

腐腐腐ふふふと笑うルンルンはやっぱり変だった。もちろん下僕に関しては丁重にお断りしたが。

とにもかくにも友達が夢なら恋人はと思ったがそもそもが一応王族なのでそういうのには厳しいので来世に期待するべきだろう。来世前世みたいな世界であることを願って。なら、婚約者探しは？とりあえず今はやめとくべきだと思った。

「兄さん、俺の婚約者って」

「クウリ、私に殺人をさせないでほしいな」

そんな返答を頂いたのでさすがの俺にでも理解できますとも。俺に今婚約者ができたら殺されるって。それすなわち兄が悪役の道一直線の未来が浮かんだのでまだ成人もしてない内から独身を決意した。

兄は俺を孤独にさせるのがお望みかと気が遠くなったが、正しくは独占欲に近いと理解はしている。でなければ兄は俺に関わることなく、人から引き離して俺をひとりにさせるなんて造作もないことだと思っているから。

これは喜ぶべきなのか微妙だけど、兄に嫌われることを考えればいいはずだ。今嫌われたら俺ひとりで兄が悪役に進み始めても止められる気がしない。ゲームでさえクウリは攻略対象たちの力を借りていたのだから俺なんかがひとりじゃ余計に無理なのは目に見えている。ちなみにヒロインはまぁ、みんなを褒める係だったかな、確か。とりあえずヒロインがもしこの世界にいても頼りにすべきじゃないことは改めて確認できた。

「兄さん、この本がどこにあるか聞いてきますから……」

「大丈夫。ここにある本はクウリが前に本を読んでいる間に、配置も題名も覚えたからね。その本はこっちだよ」

「あ、ありがとうございます」

ついに司書にすら話しかけさせてくれない徹底ぶりにもはや攻略対象全員揃っても太刀打ちなんて夢の夢じゃないかと思う俺。やっぱり兄を悪役にさせないという考えは正解だろう。今は身内だからとかじゃなく、今の兄なら国を滅ぼしかねない犯罪者になれると思い、俺はより兄を悪役の道に行かせないと決意を固めるのだった。

まだ悪役の道に進み始めていないことを信じて。