上 下
21 / 75
本編(完結)

クウリ~レウル視点~

しおりを挟む
クウリが目を覚まさない。あの日、クウリとシエルという伯爵のご子息が倒れたパーティーはもしや毒か暗殺かとパニックになった。

もちろんすぐにクウリたちは城内にある救護室へ運び込まれ、料理や飲み物には検査が入り、それらを口に含んだ者たちには一応高位貴族を優先に診察が入ったりと大忙し。そのためクウリの誕生日は無事を確認後自然と幕を閉じることに。何にしても主役がいないのだから仕方ない。

無事を確認は言葉通りで、特に毒や暗殺の可能性はなく二人の体に異常はないと判断された。けれど、それからというものの目を覚ます気配が一向にない。シエルという少年も伯爵家の屋敷に届けられたものの同じくして目を覚まさないと聞く。

あの日から私は今まで以上に業務等に励み、暇さえあればクウリの傍にいるようにしている。今日もまたクウリの目が覚めないかと願いながら、ふとクウリに期待するようになった自分の過去を振り返った。

それはまだクウリを国のための物としか考えていなかった時に遡る。

『殿下はまるで人の心をお読みになっているかのように聡いですなぁ!』

そんなバカなことを言う貴族がいた。その言葉に私は心なんて読めるはずないでしょと心の中でバカにしたものだ。

顔の表情や仕草、目や口許、どこかしらに目を向けて会話の流れで自然と探せば何が嘘で本当か、必要な知識さえあれば何が目的か、何を求めているかくらいすぐにわかるようなことだったのだから。

それに呆れていれば似たような人はいくらでもいるということだろう。またもや呆れるようなことを言われる。

『殿下は神童です!常に先をお読みになられるなんてまるで神の使いですね!』

これまたお伽話みたいな存在になった覚えもないのになんだろうね?これは。情報と知識さえあれば先を読むことは誰だってできることじゃないか。否定することすら疲れそうなそんなことばかり。

最初に誰が言ったかなんてもう忘れたくらいに言われ続けた言葉。私からすればこんなことも大人なのにわからないの?と周囲が私の成果を褒める度に私は表面では笑えていても、心の中は冷めていくばかりだった。

それを変えてくれたのはクウリ。

私にとってクウリは唯一読めない人間だった。クウリの対抗心だとか嫌われているのは理解していたけど、私が嫌いなのにほぼ毎日勝負を仕掛けてきて負けても負けても来るため、私に勝っても誰も気にしないだろうにこんなことをして何か意味があるの?と疑問ばかりが浮かんだのはクウリが初めてで、何度もしている内に自分が楽しんでいることに気づく。それは勝負をするごとにクウリは確かに上達していていたから。

そして勝負が日常化した辺りからクウリの教育に教師を使ってクウリの知らないところでクウリの苦手分野をサポートすることにも手をつけた。正直これに関しては気まぐれだったと思う。

その気まぐれにクウリは勝負の中で苦手分野を克服し成長する姿を見せてくれたのだ。それに気づくのは簡単で、その日の計算テスト勝負に勝った後私は無意識に言葉が出た。

「よく頑張ったね。凡ミスはあるけれど、この難しい問題ちゃんと解けてる。すごいね、クウリ」

それはクウリを褒める言葉。私が初めて人を褒めた瞬間だ。

「ほほ、ほめらても、う、うれしくなんてないからっ!」

それを聞いた私を嫌っているクウリは、顔を真っ赤にしてそう言いながら去ってしまった。しかし、それが妙に癖になりクウリの教育に裏から口出すのも日常のひとつとなった私は意外にも単純なのかもしれない。さらにはクウリに著しく努力の結果が垣間見れたら必ず褒めるようにもなった。

もしかしたらクウリならと期待したのはこの時からだろう。クウリなら未来永劫このどうしようもない人類ばかりの世界で、私の孤独を癒す存在になると……そう願わずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...