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ゲーム外伝(※本編とは関連はあれど関係はありません)

ヒロインバットエンド後~ゲーム版クウリ視点~(本編悪役レウル2を読んでからお読みください)

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好きな人になった人を永遠に失い、兄は簡単には逢えない場所へと行ってしまった。残ったのは学園で共に過ごし、兄が関わった犯罪組織を突き止めるために切磋琢磨してきた仲間たち。

しかし、その仲間たちは彼女を目の前で亡くしたことに心を痛め沈んでいると聞いている。守れなかったと。

何故人伝なのか、僕はあの日から学園に行っていないからだ。それに友人でもある彼らに僕は会う資格がないし、正直どうでもいいとすら思う自分がいる。

あの日、彼女が兄によって殺された日の彼女が確実に急所を狙われて殺された瞬間に気になったのは兄の言葉で、好きだったはずの彼女の死に思ったよりもショックを受けなかったことよりも、誰もが倒れ行く彼女に駆け寄ったというのに隣にいた僕が呆然として見ていたのは彼女を刺して虚ろげな瞳で彼女を見ながら口許を笑わせる兄の姿。

『私から唯一を奪ったお前が何を言う!私の希望を、私の癒しを、私の……あぁああぁぁっ』

孤独と言った口が唯一と言ったその存在はもしかして僕なのでは?と愚かにもそう思う自分がいた。

彼女に会う前は優秀すぎる兄と比べられるのが嫌で何度も色んな勝負に挑んだ。どれも結果は惨敗で悔しくて兄が楽しそうに笑う姿は自分をバカにしているように見えて酷く憎たらしかった。

だからこそいつか兄も周囲も見返してやると何度も挑戦してきたし、努力だってしてきた。けれど、彼女に出会って僕は逃げ道を見つけたとたん諦めた。兄に勝つことを。

それからだ、兄がだんだんと笑うことはなくなりこちらを睨むように不機嫌に、でもどこか憎むように見る兄の姿を何度も見ることになって僕は兄のその姿に勝負で負け続けた過去の自分を重ねた。

そうするとどうだろう。勝負に勝ったわけでもないのにまるで立場が逆転したかのような気分になり心が軽くなった。それをもたらしてくれた彼女を僕は自然と好きになったが、今思えばそれが恋だと思った僕はバカだったのだろう。あまりにも勝手すぎる自己満足な恋だった。恋とも呼べなかったかもしれない。

でも周囲と会話していてこれが恋かなんてあの頃は確かに信じていた。そして始まる大きな事件。学園でも話題になったが、学生でしかない自分が解決しようとは思わなかった。

きっかけはその事件に自分が巻き込まれた日に聞いた犯罪組織の人たちの言葉。

『にしても俺らのボスがこの国の王子様だなんて誰も思わないよな』

『急にどうした。あまりその話はするな』

たまたま聞こえたその話。その後は騎士たちによって助けられたが、その話に僕が思い浮かんだ犯罪組織のボスの姿は当然兄だった。それが本当でも証拠がなくては意味がない。

今思えばこれは兄が捕まえてみろという暗示だったのかもしれない。兄から仕掛けられた初めての大がかりな勝負。

実際誰もに期待される兄が嘘だという気持ちと、もし兄を捕まえたら比べられることなんてないという自分勝手な希望と、もし捕まえたら初めて僕が勝ったことになるなんて勝負に対しての期待をして事件に踏み切った結果、今があるのだ。

追いかけて追いかけて犯罪組織に兄の影を見つけてようやく追い詰めた日は興奮していたように思う。そして捕まえたその日はきっと僕だけがどうだ勝負に勝ったぞと心の中で場違いなことを思っていた。

けど、彼女が死に兄が塔に閉じ込められ、仲間と関わりを持たなくなってひとりになったとたん兄はわざと負けたのではないかと……いや、わざと捕まったのではないかと思う自分がいる。

なんならそのつもりで犯罪組織のボスになったんじゃないかって。だって追い詰めた時兄は笑ってなかった。驚く様子だってなかった。

いつだって僕が挑む勝負に思わぬ行動があれば素直に驚き、追い詰めたと思って兄を見た時兄は確かに笑っていたから。結局大逆転されて本当に追い詰めていたのかはわからない結果にしかならなかったのだけど。

何を言っていると思われるかもしれない。人を巻き込んで不幸にする犯罪を勝負として考えるなんて。でもそれが僕たち兄弟が歩んできた道で、唯一の関わりだったから。

兄に会いたい。あの日から僕の世界は色褪せた。たくさんたくさん過去を思い返して考えたところで結局僕の人生はどこへ行っても兄に繋がる。

だからこそ結局僕は悔しいことに兄がいないと前に進めないそんな気がするのだ。兄が塔に閉じ込められた今、次期国王になるのは僕だろう。でもこのままの僕じゃだめだ。

兄に会いたい、会わなくてはいけない。

一度思うとそれが正しい気がしてならなかった。

「父上、兄上のいる塔へ行く許可をください」

「……いいだろう。あやつを孤独とさせたのは我にも原因はある。恐らくあやつの孤独を癒せるのは誰よりも傍にいたお主だ。クウリ」

「ありがとうございます」

意外にもあっさりと許可が出た。だが、兄を孤独にしたのは父だけじゃない。それは僕にも原因がある。だって僕は兄から逃げてしまったのだから。だからこそ兄を犯罪者になんかにさせてしまった。

僕は兄から逃げるべきじゃなかったのだ。

もし、兄に勝負以外のことで関われていたなら、周りの言葉に僕が振り回されていなかったなら、兄が笑わなくなった原因を少しでも考えていたならば……今更後悔で渦巻く心はこれから先晴れることは決してないだろう。

それでも兄は生きているのだからその罪に向き合うことはできる。次こそは逃げないと覚悟を決めて。

「兄上、お久しぶりです」

「……くぅ、り」

「………っ……」

久々に見た兄はあの完璧という言葉をそのままにした人物とは思えないほど痩せ細り、瞳はあの日最後に見たまま虚ろげで声は掠れていた。それはまるで僕の逃げた罪をそのまま現しているようで罪悪感が込み上げる。

気のせいか僕のその様子に気づいたのか否か、一瞬兄の口許が笑った気がした。まるで僕が勝手な罪を意識して来ることをわかっていて待っていたとばかりに。

お前クウリは私だけを見ていればいいんだよ】

どこからともなくそう聞こえた気がした。

外伝ヒロインバットエンドその後~END~




-作者よりコメント-
読者の皆様、いつもありがとうございます。10月31日より2ページずつの更新予定でしたが、今回はお気に入り数1000突破お礼記念と更新ページ以上に感想をいただいたお礼にちなみまして本編ではないですが新たな外伝として今日は特別にもう1ページ更新させていただきました。

ゲーム版クウリ視点でわかるかと思われますが、乙女ゲーム『君と共に』の前世の記憶関係なしに進んでレウルが悪役となる未来のゲーム話を外伝としております。なので本編とは別で読んでください。どことなく本編に出てきた話を元にというのはあるので現在進められた本編を読んだ後読むことをおすすめします。

どこを読んでから読むべきか必要な部分があれば書いておきますのでご安心ください。外伝自体そこまで多く更新するかは未定ですが。

ちなみに『君と共に』という乙女ゲームは存在しませんので探しに行かないでくださいね。……あ、いりませんよね。冗談です。ついでに言いますと本編に関する番外編は今のところ予定しておりません。

ですが、皆様の期待に答えられるよう頑張りたいと思いますのでこれからもどうぞ応援よろしくお願いします。
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